12.幾度目かの旅立ち
「……おはよ」
隣でもぞもぞとレオンが布団の中から顔を出した。
「おはよう」
「お前、早くない?」
「目が覚めてな。そういうお前も、早くないか?」
「今日ここを出るって思うと、なんかな」
起きてすぐだからだろうか。いつもよりレオンのテンションが低く感じるのは。
「けど、俺たちは旅人だ。立ち止まるわけにはいかねぇ」
「だな」
私がそう言って頷くと、何故だかレオンがじっと私の顔を見てきた。
「なんだ」
「いや、なんか、珍しく頬が緩んでるから」
「そんなこと、まあ、お前の性格がうらやましいとは思ったけど」
「え、褒められた、俺?」
「ポジティブ思考でノー天気ですごくいいと思うぞ」
「普通に褒めろよ、全く……」
やれやれ、とレオンが言うのはスルーだ。
「次は、西へ行こうと思う」
「だな。あっちに町が見えたし」
「それしてもこの辺はやけに人が少ないな」
「思ったそれ。やっぱり、アジュールが近いからかな」
「だろうな」
昔から、アジュールの近くはウイルスが濃いと言われている。本当ならば我々もガスマスクなどで顔面を覆いたいところだが、生憎そんなに便利なものは持ってはいない。
「つかウイルスに濃い薄いもあるかよふつー」
「ああ。色々とおかしい。季節や温度ならばともかく、場所とはな」
「確かめるには、早く辿り着くしかないのかねぇ、やっぱ」
「謎だらけ、だな……」
「まあ、さ」
そう言うとレオンは勢い良く立ち上がって拳を空高く掲げた。と言っても、ボロボロの天井相手では様にならないが。
「俺が全部解決してやるから安心しろって」
バカみたいだけど、少しだけ頼もしく見えたなんて言ったら調子に乗るから言わないでおこう。
そんな深刻そうで結構他愛もない話に花を咲かせていたらいつの間にか六時を過ぎていた。
私たちは荷物をまとめて、教会を出る。昨日、使わせてもらったお礼と窓を割ったお詫びに一日かけて掃除をしたため、教会は埃一つなくかつての輝きを取り戻していた。
いつか誰かが、人生をかけて造りだした教会を、何百年、何千年の時を経て誰かが使う。
きっと、私たちがここを去っても誰かがまたやって来る。
例えそれが、何千年後でも。
「さよなら、聖女様」
「またいつか、な」
朝のまばゆい光を背後に聖女にそう挨拶をすると、私たちは大通りへと歩き出した。砂ぼこりに顔をしかめつつ、細めた目を少しだけ開く。
《エルサルへようこそ》と看板に書かれた文字はすっかり錆びて剥げていた。
その看板の後ろに、《エルサルにまた来てね》の文字。
「いつかきっと、ここへ戻って来る」
そうしなくては、アイはここで一人眠ったまま。そんなの、寂しいではないか。




