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伝染都市アジュール  作者: 六波羅朱雀
絶望の日
12/35

11.夢の話

 

ショッピングモールでの悲劇から三日。この辺りはほとんど見て回った。よって、明日出立することを決めた。


最後の夜。

私は、夢を見た。


   ***


誰もいない。

暗闇の、長い廊下のような、広い部屋のような場所で私は立ち尽くしていた。

 

誰か、いないのか。

そういうよりも先に答えは出た。


奥のほうで、扉が開いた。

暗いため見えないが、何か光が射したので扉が開いたのだと感覚的に推測できた。

 

あ、あの人知ってる。

光さす方向から、誰かが歩いてきている。それは、一人の老人だ。腰は曲がっていて、目は細くて木でできた杖をついている。


レオンと出会うよりも前、まだ一人旅をしていたころに立ち寄った集落で出会った人だ。


今もう亡き娘に似ていると言って老人は私を可愛がってくれた。

食料を分けてくれて、地図をくれた。娘が生きていたら同じくらいであっただろう若者に、老いぼれが何ができるなら、と。優しい人だった。ずっとここにいてもいい、とほかの人とともに言ってくれたが、私は旅に出た。あの頃すでに年寄りだった。今はもう、空にいるのかもしれない。


別のあの人は、恋人が帰ってこないと言って泣いていた女の人。

確か、自分が重い病にかかってしまい、かつてはそれに薬があったと知った恋人が探しに出かけた。近くに遺跡は山ほどあるし、きっとすぐに帰ってくると言って。けれども二か月経っても帰ってこず。そんな時に我々に出会ったのだ。


幸い私たちがその村に滞在していた期間中に恋人は薬をもって帰って来た。けれど、恋人の服の左手の部分は風にパタパタと吹かれていた。要するに、左腕がないのだ。旅の帰り、獣に出会った恋人は命からがら助かったものの、左腕は噛まれてしまい、そこから何かに感染してしまわないために切り落とすしかなかったのだとか。


次々に人がやって来て、私の横を通り過ぎて行く。


あの人は、大切な犬が獣に襲われて一人ぼっちになっていた人だ。けれども、旅する青年と出会い孤独ではなくなった。やがて老夫婦と出会い、彼らが犬を飼っていることを知る。夫婦はもう先が長くはなかった。このままでは犬だけが生き延びてしまう。そう思い、女性と青年に愛犬を託した。二人と一匹になった彼女たちは、夫婦の死を看取って立派なお墓を建てるとまた旅に出た。


みんなみんな、決して喜劇ではなかった。

むしろこんな衰退する世界には、悲劇しかなかった。

 

それでも、これまでの出会いの物語は。

 

衰退した世界でなければ、きっと全て当たり前として通り過ぎていた。


そうして過ぎ去る人を見ていると、一人、誰だか分からない人がいた。

 

女性にしてはやや背が高い、長い黒髪で腰に銃を装備した人。

肩には幾つもの勲章を付けていて、きっと偉い人なのだと分かる。

 

次の瞬間その女性は白衣を着ていた。研究者だろうか。

 

──誰だろう。

 

その女性は私を見て微笑んだ。

 

──声を、かけるべきだ。

 

そう思った瞬間、私はまた暗闇の中で一人ぼっちになっていた。


   ***


おかしな夢を見た。

 

破れかけのカーテンから除く太陽光から推測するに時刻は朝の五時といったところか。もう少し眠っていたいが、すっかり眠気は覚めてしまった。仕方ない。こういう時こそ、本である。


   ***


本の続きだ。次の物語は、愛妻家の学者。

 

ありとあらゆる分野において輝かしい功績を残したその男の名はクレイ。二十五歳の時に世界で最もレベルの高い大学に講師として呼ばれた。また妻の名はフレイ。看護師だった。

 

クレイが二十八、フレイが二十六の時に結婚をし、穏やかな夫婦生活を送っていた二人だったが、当時は災害が多く飢饉が発生し、そして病気が蔓延した。看護師だったフレイは患者の病気がうつってしまい、クレイは必死に病気の薬を探し始めた。


同僚がたまには睡眠をとれと言ってもクレイは耳を貸さなかった。大丈夫。そう言って真っ赤に充血した瞳をかっぴらいて日々研究を行うその姿を見た人々は、研究熱心で努力家な学者の鑑だと思うと同時に、畏怖した。

 

時折高熱を出し、咳をする。そんなフレイを思って研究を重ね、やがて一つの薬が完成した。

 

けれども。

 

その薬は万全ではなかった。

咳は軽くなった。けほ、とたまに出るだけで。

熱は低くなった。四十度近かったのが三十七度になった。

けれども、完治していないことには変わりない。


いつ、悪化するかもわからない。

 

そうしてまた研究を重ね、そして。

 

ついに、妻は死んだ。三十歳だった。

 

最期まで夫であるクレイの体調を心配したフレイはまさに看護師の鑑であり、妻の鑑であった。

 

妻を失い、自暴自棄に陥り研究を放棄したクレイは、酒癖が悪くなり職を失った。そうして、家で一人妻のいないベッドを眺める日々。

 

そんな世間から捨てられたクレイは三十六歳の時、友人と再会した。


友人は言った。


俺の妹が、病気にかかっているんだ。唯一の家族なんだ。薬を作りたい。協力してくれないか。


それを聞いたクレイは最初は迷っていた。妻がおらず仕事もない自分は学者ですらなければ研究をする意味もないから。


けれども、天国にいる妻はそんな自分を夫だと言って誇ってくれるだろうか。


そう思い、やがて重い腰を上げて友人と二人研究に取りかかる。


それから二年。ついに薬は完成した。

 

友人の妹が助かったことを見届けたクレイは、妻の後を追うようにして四十歳の冬。若いにもかかわらず老衰したという。


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