第五話 トロッコ
私の頭の中に『凱旋のエトワープ』という他の物語があるのですが、小説にするか現在構想中です。
『滝壺のダイダン』
前回までのあらすじ
滝のある渓谷の村に住むダイダンは、或る日リーダー的存在であるトピラーから衝撃的な演説を聞く事になる。
「皆さんは他の精子を殺して産まれてきているのです」
トピラーと村人は失踪。
残されたダイダン、ケース、トンボムシ、黒猫は呪われキリンと遭遇。
彼らは失踪した皆を探すため旅に出たのであったが道中、雨が振りケースに雷が落下。
近くの木と共に燃えてしまったケースは眠ってしまうのだった。
ケースを助けるべく皆がとった行動とは!?
第5話 トロッコ 本編
ー 氷能力 ひょうのうりょく ー
ー 氷眠 ひょうみん ー
「こんのやろうども!
おい猿共!ケースに何したんだ!」
・・・・
ケースになついている黒猫は、氷漬けにされたケースの上に座ったまま動こうとしない。
猿がダイダンのズボンを下ろした。
ダイダンのパンツがこんにちはをした。
「ん!」
ダイダンはズボンを上げ、元に戻した。
猿は再びダイダンのズボンを下ろした。
ダイダンは再びズボンを上げ、元に戻した。
猿は再び・・・、ダイダンは猿にげんこつを喰らわせた。
「いい加減にしろ!俺のズボンをそう何度も下ろすな!」
猿が痛がる。
すると、長い白髪をした大男か口を開いた。
「そのケースという少年を氷漬けにしたのは猿ではない、この私だ」
「何ですって!?あなたのしわざですか!」
トンボムシは驚く。
ダイダンは長い白髪をした大男を睨めつける。
「おめえか!おい!おまえの名はなんて言うんだ!」
「私の名はガリルレロ」
「俺はダイダンだ!滝壺のダイダン様だ!」
白髪の大男ガリルレロは連れていた馬に乗って言う。
「・・・長居をして時間を無駄遣いするつもりは無い、ファイブマウンテンに急ぐぞ、猿達よ」
白髪の大男ガリルレロがそう言うと、猿の群れはケースを連れ去ろうと動き出した。
群れの中には、ダイダンの武器である鎌を持とうとする猿が取り合いになっていた。
鎌はボス猿の手に渡ってしまい、鎌を手に入れる事ができない猿は悔しそうに、それより弱い猿に八つ当たりをした。八つ当たりをされた最下層の猿は地面を叩いた。
ダイダンは、鎌を落雷の時手放し落としたままであった事を思い出した。
「あ、待て!俺の武器まで!
このやろう!返せ!」
しかしトンボムシの左腕、左胸、左背中が氷に覆われてしまった。
ガリルレロは再び氷能力を発動したのだ。
「うわあああ、僕の体が凍った!」
ダイダンは怒る。
「!てめえ!今度はトンボムシか!
トンボムシに何したんだ!」
「力は抑えた、命に別条は無いだろう」
ガリルレロは氷能力の説得をしなかった。
馬に乗ったガリルレロはダイダンに問い出した。
「さあ、ダイダンと言ったな、少年。
ここにいるケースとトンボムシどちらを助ける」
「決まってる!ケースも助けてトンボムシも助ける!そんでもって、おまえをぶっ飛ばす!」
「選択肢に無い答えを示すな」
ガリルレロはそう言うと、猿の群れを率いて出発した。
「あ、待て!それと鎌と黒猫も返せ!」
ダイダンは猿の群れと戦う。
腕や脚に猿は飛び乗りダイダンの邪魔をする。
「邪魔くさいぞ・・・こいつら」
猿を蹴ろうとすると、一瞬引いた。
すると、ダイダンの脚は開放される。
「よし、今行くぞ」
しかし、ダイダンの片脚は凍ってしまった。
ガリルレロが氷能力を発動したのである。
「くそ!上手く歩けねえ」
その隙に猿の群れはダイダンの体勢を崩した。
「うっ!」
ダイダンは倒れる。
「哀れだな、貴様は
誰も助ける事など、できやしないのだから」
そして猿の群れはダイダンを踏みつけボロボロにした。
ダイダンは猿の群れに敗れたのである。
「ダイダン!」
トンボムシも猿の群れに敗れた。
片脚を氷漬け気絶したダイダンと、左腕、左胸、左背中を氷漬けにされたトンボムシは、猿の群れの半分に洞窟の中に運ばれてしまう。
そしてガリルレロと猿のもう半分の群れはケースを洞窟の外へ運んだ。
成すすべがないトンボムシは言った。
「ケースと引き離されてしまいます!
僕とダイダンを洞窟のどこへ運ぶ気なんでしょう?」
トンボムシは故郷から持ってきた本を抱きしめながら、体を猿の群れに運ばれて行く。
猿の群れはダイダンとトンボムシを洞窟の中にあるトロッコへ乗せた。
「ウッキー♪」
2人が乗ったトロッコを動かそうとする。
猿達は日々、土工の仕事を見ていてトロッコに乗れなくても、せめてトロッコを押すことができないかと思っていたのである。
そんなトロッコへの憧れを猿達は抱いていた。
最初の猿が動かそうとしてもトロッコは動かなかったが、次々と猿が押し群れを成すと、車輪がごろりと回りだした。
そのうちかれこれくると、線路の勾配、上り坂に入った。
「ぼ、ぼく達、どこに連れてかれるんでしょう?」
「ん・・・なんだこれおい!どういう状況だ!?」
「ダイダン!気がついたんですね!」
「トンボムシ!無事だったか」
「はい、とりあえずは・・・
そうだ!猿たちに説得しましょう」
ダイダンはトロッコに捕まり、身を乗り出し猿達に向き合う。
猿は二匹だけになっていた。
もう勾配を登りきったのである。
ダイダンは猿達に説得を試みる。
「お猿ちゃーん、おーい、こんな事やめてくれねえか?」
トンボムシも猿達に説得を試みる。
「お猿ちゃーん、やめましょう、こんな事、ね?」
猿はトロッコを手放した。
「通じたのか!?」
「そうですよ!きっと!」
「やったー!」
「わーっしょい!わーっしょい!」
トンボムシは喜びのあまり本を胴上げした。
しかしトロッコはスピードアップした。
「なんだ!?何がどうなってるんだ!?」
トロッコは下り勾配に入ったのである。
猿の喜びと興奮の鳴き声が遠ざかりながら聞こえた。
「クソ猿ーーーーーー!!!」
「説得失敗、うわあああああああーーー!!!」
トロッコは左に曲ったかと思うと次は右へ曲がり、軋む音をかなでながら進んでいく。
「どうしましょう!?」
「とにかくこのトロッコを停めたいな」
「こういうのってブレーキとかついてるんじゃないですか
どこかに・・・ってうわああああ、ダイダン、前!前!」
洞窟の天井が低くなっていた。
「え?前?うわあああああ!」
ダイダンは急いで身を引っ込める。
「あっぶねええ」
危機一髪であった。
「もう少しで首がなくなるところだったぜ」
「それは少し大げさじゃないですか?」
「うるせえ!とにかく危なかったんだよ怖かったんだよおおおお」
「はいはい・・・でも確かに、洞窟に置いてあるがランタンなければ危ないところでしたね」
「そしたら天井が低いことも発見できなくて首チョンパするところだったな」
「だから大げさですって」
「チョンパ!」
ダイダンは変な身振り手振りを加えた。
「はいはい」
「なあなあ、チョンパ!」
「誰がチョンパですか!」
トロッコの速度は徐々に下がっていく。
「ここって何に使われてるんでしょう?」
「言われてみれば、なんだろうな?」
「あ!」
「どうした?」
「鉱石です!綺麗ですねえー」
「よし、おれが取ってやる」
「だめですよ!勝手に盗ったら」
「ちぇ、なんだよ」
「でも探究心を抑えられません!停まってゆっくり見てみたいです!ブレーキかけて停めてください」
「だから、天井が低くて身を乗り出せないんだって、ブレーキの位置を確認できないんだよ」
「じゃあ壁に手つけて止めてください」
「手削れるわ!痛ってえわ!ガリガリ削れるわ!」
「ガリガリと言えばあのガリルレロっていう人、一体何者なんでしょうかね?」
「さあな、そもそも人なのかよ、あれ
それはそうとおまえの左上半身の氷どうにかしないとな」
トンボムシは、今自分が置かれてる状況を思い出し不安になった。
ダイダンはそもそも本当に氷なのか、舐めて確かめたくなった。
「ぺロッこれは氷」
トンボムシはドン引きした。
不安がどこかへ行く。
トロッコは、天井の高い場所へ出た。
そこで二人はある物を発見する。
一定数、辺りに置かれたランタンの薄明かりで見つける事ができた。
それはなんと驚いたことに、あの呪われキリンの抜け殻であった。
しかも2体。
トンボムシはすぐにピンと来ない様子であった。
疲れもあって眠気が襲ってきたのである。
「これは・・・宝石?いや、何か動物の化石ですかね?でも骨じゃないみたいですし・・・」
ダイダンにはピンと来ていた。
首が長く、鋭い棘に覆われ、足が長い。
そう、忘れもしないトラウマが蘇る。
(呪われキリンの形そっくりだ)
ダイダンは固まる。
「ダイダン?大丈夫ですか?」
ガチガチ歯を鳴らしたかと思うと冷や汗をかいた」
しばらくするとトロッコは完全に停車した。
2人は極度の疲れで眠ってしまった。
2人にとって、やっと久々に眠れる時が来たのである。
11時間くらい経った頃だろうか
ビシャア!と2人の体にバケツ1杯分の水がかかる。
!?
2人は急に起こされ驚く。
ビシャア!もう一度、水がかかった。
ダイダンは猿にひっかかれた傷跡がしみたが、汚れやバイ菌が落ちていく気がした。
水はトロッコについている小さな穴、排水溝をたどって出ていく。
2人共トロッコから降りた。
「この野郎!だれにことわってトロにさわった?」
怒号が洞窟内に響く。
そこには古い印ばんてんに麦わら帽をかぶった背の高い土工がたたずんでいる。
その土工の背後に日の光が差していた。
朝日が洞窟内に届いていたのである。
「なんだなんだ?おっさん」
「日の光・・・という事はここが洞窟の出口でしょうか?」
「洞窟の出口?今から仕事を始める俺達にとっちゃ入り口だがな!おまえら見慣れない顔だな」
「おれ、滝壺のダイダン」
「トンボムシです」
「ダイダンにトンボムシか、俺は所長のジンロウだ
おまえたち、洞窟の向こう側から来たのか?
親はどうした?」
トピラーが衝撃的な演説をしたことを
ダイダンとトンボムシはジンロウに説明した。
「それで僕たちの親も村人も、その演説をしたトピラーの手で飛ばされ失踪したんです」
「・・・本当か?」
「はい」
「そうか、それは大変だったな
この洞窟の先はトラミタウンだ」
「トラミタウン・・・」
「この洞窟を出るとな、墓地があってだ、その墓地の上に丘がある。
その丘の上に住んでいるリーズンお嬢さんとそのばあさんの所に訪ねるんだ。おまえと同じ年頃の女の子が住んでいる。
きっとそこなら、おまえらの氷もどうにかなるだろう」
はっとして2人は思い出す。
自分の体の一部が氷漬けにされていた事に。
2人はお礼を言う。
そんな2人のボロボロな様子を見てジンロウが訪ねた。
「おまえたち、なんでそんなにボロボロなんだ?」
「ああ、これですか、僕たちは猿の群れにやられて」
「猿の群れ?」
「あの、猿の群れを知りませんか?
僕たち猿のせいでトロッコに乗せられてここまで来たんです」
「猿にトロッコ乗せられた?アッハッハ」
ジンロウは大笑いした。
「猿に乗せられちゃ仕方ないな、今回のことは許してやる」
「ありがとうございます」
2人は再びお礼を言うと、洞窟を出た。
「ガリルレロと猿め、覚えてろよ
おれの武器の鎌は必ず取り返す」
「ケースと黒猫も」
「ああ」
「そのためにもトラミタウンで備えましょう!」
「よし、そんじゃそのリーズンって奴にも会いに行くぞ」
「はい、一体どんな人なんでしょうかね?」
「かわいいこだと良いな」
つづく
今回もお読みいただき、ありがとうございます。
次回、第六話は、2025年6月16日に掲載予定です。
そして、他の小説も構想中です。
男を知らずに育った主人公である女の子は、或る日、冷凍保存された男の人体という兵器を知る事になる。