第三話 滝の渓谷、旅立ち
2024年夏、冒険活劇を求める読者に贈る、ハイファンタジー小説『滝壺のダイダン』第三話。
未知の新作エピソードが君を待っている!
投稿予定の2024年9月1日より早まりまして8月14日となりました。
理由は、今年の夏にこういった冒険活劇の新作が少ないと思ったからです。
ぜひ楽しんでいってください。
ケースは激怒した。
「動物の事だってどうするんだ!?このままじゃ!自由を奪ったままには行かないだろう!?どうしてこんな事が起きるんだ!」
何かが来る。
赤紫色の煙が吹いてきた。
煙が吹いてくる方向を見ると黒い大きな動物が近づいてくるダイダンには見えた。
「おい、何かが来るぞ」
不穏な気配にダイダンは緊迫した表情で言う。
長い首と長い足を独特なリズムで動かし近づいて来る。
黒い大きな動物の正体はキリンだった。
体に棘が生えた状態であった。
「で、でけえ!!!
この煙と体、なんて呪われたような色をしてるんだ!
・・・こいつの名は・・・呪われキリン・・・」
なぜかダイダンにはその名前が浮かんだ。
呪われキリンは日陰から日向へ出た。
呪われキリンは太陽の光を浴び、数秒の間、眩しそうに棘を引っ込ませた。
そして木の陰に行き、猫の伸びのような態勢をとる。
煙は消えないままだが、棘が生えてない間はキリンである事がわかる。
すると呪われキリンは再び棘を生やした。
光る棘、赤紫色の煙。
呪われキリンはダイダンとケースに向かって走ってくる。
「おい!ケース!逃げんぞ!」
ケースはうずくまっていた。
「おい!しっかりしろよ!」
しかしケースは立ち上がらない。
呪われキリンはどんどん近づいてくる。
もうダメかと思ったその時、馬が2頭現れた。
呪われキリンの前に立ちふさがった。
普段村の出入り口で待機や休憩をし、村の外との交通便の役に立っている馬である。
呪われキリンは一度止まる。お互いが睨み合う。
馬は、棘を生やした呪われキリンを警戒している。
1頭の馬は、呪われキリンの殺気に動けない状態になってしまった。
すると、もう1頭の馬は、呪われキリンの棘が生えてない首の下の胸に向かって突進した。
見事にぶつかると、呪われキリンは音を立てて倒れた。
近くの木が揺れる。
しばらくすると
煙はまだ消えないままだった。
ケースはやっと立ち上がった。
「おい!ケース!大丈夫か?」
ダイダンは聞く。
「ああ、すまない、逃げるぞ」
そうケースは言うと、動けなくなっている馬の前に立った。
しばらく見つめると馬は動くようになった。
ケースは怯えた馬を動けるようにしたのだ。
「よし、逃げるぞ」
2人は馬の背中に乗った。
呪われキリンから、まずは遠ざかるため走る。
「あのキリン、ただのキリンじゃないな」
ケースは言う。
「キリン・・・やっぱりあれは呪われキリンなのか」
ダイダンはつぶやく。
「ダイダン、何か言ったか?」
「なんでもない」
ダイダンとケースは村の外へ出た。
「やっほーい!村の外の空気だぜ!」
ダイダンは小さな罪悪感と大きな開放感を持った。
馬を走らせ続ける。
村の外にも、小さな川があった。
橋を渡る。
しばらくすると緩やかな丘に入った。
緩い坂道を上る。
馬の速度が落ちる。
2人は気配を感じた。
(呪われキリンの気配だ)
近づいてくるのが、わかる。
呪われキリンは赤紫色の煙と棘を生やし、追いかけてきた。
(あのキリン!もうここまで来てるのかよ!)
ダイダンは心の中で叫んだ。
「おい!ケース!どうする!?」
「え?」
(なんで、こんな時に聞こえないんだよ!)
ダイダンは届かない不安をケースにぶつけたかった。
ダイダンは息を吸ってから叫ぶ。
「どぅあああかあらあ!!!キリンがあ!!来てるう!!!
どうするんd」
舌を噛んだ。
今度はケースも聞き取れたようで、答える。
「まずは馬が動揺しないよう、このまま前に進み続けよう!
慌てると馬も慌てる
人の緊張や動揺は、馬にも伝わるんだ」
「そうなのか、わかった」
ダイダンは口の中を痛がりながら返事をした。
2人は平静を装い、馬を動揺させないように進む。
しかし、皮肉なことに、呪われキリンの方が速かった。
「おい!ケース!あいつの方が・・・はええぞ!」
しかしケースは口を閉ざしたまま馬と共に進み続ける。
「おい!!ケース!!」
ケースはやっと口を開いた。
「あんまり喋ると舌を噛むぞ」
「だってよこのままじゃ!追いつかれる!!
あと・・・それと・・・もう噛んでるよ」
呪われキリンは棘を光らせる。
「俺、このままグッサリ串刺しになるのは嫌だああ!!!ひいいいいいいい
なんだ?なんだよ!村の外に出たのがいけなかったのかああ!?」
とうとう追いつかれると思ったそのとき、ダイダンとケースは崖から転がり落ちた。
ズササササと転がり落ちる。
「いってえ」
ダイダンは体を起こしケースの元へ歩いた。
ケースは馬の心配をしていた。
「かすり傷で済めば良いが
とにかく、断崖絶壁じゃなくて良かったな」
「いや、そういう問題じゃ」
すると、転がり落ちていた呪われキリンも立ち上がった。
そして二人の前に立ちはだかる。
「わああああああああ、もう終わりだあああああああ」
ダイダンは叫ぶ。
しかし呪われキリンは、立ちつくしている。
「ハア、ハア、・・・あれ?なんだ?こいつ・・・・・・」
ダイダンは状況が掴めないでいた。
「おい、ダイダン、あんな断崖絶壁じゃなくて良かったな」
ケースは指を差しながら言った。
ケースの指差す方向を見ると、そこには、なんと地層があった。
(なんだ?この地層、不思議な力を感じるぜ・・・はっ!まさか!
呪われキリンは、この地層に反応して動かなくなったのか?)
「はー助かったー」
ダイダンは安心し脱力した。
「じゃあ村に戻るとするか」
呪われキリンは脱皮をし、元のキリンへと戻った。
光る棘の抜け殻を作り出し、2頭の馬と2人の人間の後ろ姿を見送っていた。
ダイダンは村の外の景色に興味津々だった。
「ん、逃げる時はそれどころじゃなかったから気がつかなかったが、村の外には、こんな大きな水辺が広がっているんだな」
「湖だな」
「みずうみか、村の外にはこんな景色が広がっているんだな」
「ヒク滝湖って言うらしいぞ」
「なんかおもしれえ名前だな
あ!そういえば、あの不思議な地層の近くによ、小っせえ滝があった」
「ああ、あれがヒク滝だ」
「あの地層と滝には不思議な力を感じたんだ
なんか・・・近づいちゃいねえような・・・」
「そうか、ダイダンもそう感じ取ったんだな」
滝の渓谷が見えてきた。村へ帰ってきたのだ。
「お!ここに馬を停めるんだな、へへへ、今日は馬に乗れたぜ」
ダイダンは馬を停めようとしたが、馬は停まらなかった。
「あ?」
そのまま馬は村の中へ入り、キャベツ畑を過ぎ菜の花畑を過ぎ牧場へと入った。
橋を渡る。
そのまま馬は進み続け、ムクロジの木に衝突した。
「痛ってえ!」「痛いです」
ゆさゆさとムクロジの木は揺れ、ムクロジの木の実がダイダンの頭の上に落ちてきた。
馬はまた動き出しそうだったが、ケースが駆けつけた。
ケースは緑一色の幕を馬の目の前広げて見せた。
「なんだ?目隠しか?俺は今、ムクロジの木の実が頭の上に落っこちてきて痛てえんだが」
「馬はな、視界が広いんだ。その分も情報が多く入ってくるから、きっとパニックになっていたんだ」
馬は落ち着きを取り戻した。
「ダイダン、俺、この馬を戻してくるよ」
「ん?」
「どうした?」
「ケース、痛いですって言ったか?」
「言ってない」
「そこにいるのは誰だ!」
「ひいいいいい、なんなんですか?昨日の事件は!今日の大きな生き物は!キリン?」
本を持った少年が出てきた。
昔会ってた頃とは違い、今は眼鏡をしている。
「おまえ!トンボムシじゃないか」
「もしかして、ダイダンとケース?」
「ああ、そうだよ」
ダイダン、ケース、トンボムシは再開を果たした。
「無事だったのか」
「はい、実は・・・あの演説事件の時、メゴロが助けてくれたんです」
「そうなのか、それでメゴロは?」
「わかりません。探したんですが、もうこの村には・・・。きっと僕を助けたあと、トピラーに見つかって飛ばされてしまったのかもしれません」
「そうか」
「ここでよく集まって遊んだりしたよな」
ダイダンは言う。
「はい」
「働いていて学校に行けなかったダイダンに、学校の事、教えてたっけな」
「ムクロジの木の実落とし合戦やりましたよね」
「ああ、略して、むきおが」
「そ、そんな略称だったかな」
「あの頃はどうやって赤ちゃんが産まれてくるのかなんて知らなかったな」
ダイダンは言う。
「なあ、トピラーが言ってた事、どう思う?」
ケースは問い出した。
「人は産まれてくるために他の精子を殺してるって話だろ」
「今ならもう、4年前ここで集まってた10才の頃とは違います。
4年間、僕も色んな本を読みました。
確かに僕たちは他の精子を殺して産まれきているのかもしれません。
受精して生まれてこれる確率は1億2000万分の1なのですから」
トンボムシは答える。
「ってことはよ、俺たちが会えたのも奇跡って事なのかもな」
ダイダンは言った。
「そうですね!」
ケースはそれを聞き微笑むと、馬を休ませに行った。
空はオレンジ色になっていた。
ケースが戻る頃、空は少し暗くなっていた。
「さて、明日の朝、故郷を出る前に、やるべき事がある。その一つは何と言っても、持ち物の確保だ。
持っていく物を今から言う、聞いてくれ」
ケースとトンボムシはムクロジの木の実をかばんの中に入れた。
「俺、かばん持ってきてねえんだけど」
「ははは、そうだったな」
ケースはトンボムシに持ち物を提案したが、トンボムシもケースに提案し、お互い、明日の朝の出発に備えて持っていく物を決めていた。
そのあとトンボムシは一度解散し、ケースはダイダンと家まで来ていた。
「夜の滝は少し怖いな、おまえ、今日一人で寝れるのか?」
「馬鹿にすんな!おまえは牛とでも寝てろ!」
「今から旅に出る前に必要な道具を、持ち物について説明する」
「何持っていけばいいんだ?」
「まずは水筒だな、死活問題に関わる」
「おう!あのひょうたんだな」
ダイダンはかばんに入れた。
「あとは鍋等の料理器具」
ダイダンの家には家族集合した時の記念のスケッチ画があった。
スケッチ画の端っこには《クロノユ》の文字が。
「あそこの宿のクロノユおばさんは絵を書くのが上手かったな」
「ああ、俺の住む家の近くにクロノユホテルがあったからな、描いてもらったんだ」
「ナイフと持ち歩き用のインクと葦だな」
「おう!葦の枝にインクに付けて何か書く時に使うんだな」
「その通り」
「あとは何持っていけば良いんだな?」
ダイダンはケースに聞く。
「仕事手伝いで稼いだ自分のお金だな
・・・トリニガー家の仕事ぶりには頭が上がらない」
荷物を一通りそろえたダイダンはケースと家を出て坂道を上っていた。
その坂道は途中でカーブを描いていた。
「この大きく曲がりくねった坂道がなくて、トリニガー一家も学校に近ければ、おまえも学校に行けたかもしれないのに
仕事ばかりで不憫だった」
「そう言うなって、時々みんなで集まって押してくれただろう?学校のこと
俺は不自由でも不幸でもないぜ」
「そうか?
それなら良いんだが」
川上まで歩いた。
「やっぱり川上は綺麗だな」
「ダイダン、悪いが明日の朝、マタアワの滝で待っててくれないか?」
「ああ、俺の家の近くの滝な
そうだ!家から明日クスクスを持ってくるよ
食料だ!」
「すまない」
「そう謝るなって、また明日な!」
いよいよ翌日の朝、3人は集合し出発の時が来た。
ダイダンはクワを持っていた。
「俺はこれを武器にする!」
トンボムシは本を持っていた。
ケースは肩に黒猫を乗せていた。
「俺は、滝の渓谷の人たちを探して、必ず家族や皆とここにいつか帰る!」
「正直、ここを離れたくないですが、とにかく今は、出発しなくてはならないみたいですね」
「俺の意思は変わらない、俺は俺の意思を通す」
それぞれが決意し、故郷を出る早朝となった。
ケースは言い放った。
「これよりまず、我々は!リサルトの城を目指す!」
第三話 完
令和6年の8月に新作エピソードを投稿できて達成感いっぱいです。
なんだか今年の夏はこういった冒険活劇新作が少ないなーと、個人的にに思いまして作らせていただきました。
少し急いで作ったので疲労しました。