第二話 トピラー演説事件翌日
トピラーの演説事件が発生!
滝の渓谷に住む村人が失踪した今、ダイダンは
6人の子供が歩いている。10才くらいだろうか
子供たちは村の北にある小学校から、村に向かって坂を上る。
家がある村への帰り道だった。
丘の坂を上る。
6人の子供の中に、白銀の長い髪を1つ束ねた少年ケースがいた。
滝壺の近くの家に住む少年、ダイダンとの待ち合わせ場所であるムクロジ橋へ向かうため6人は歩いていた。
丘の坂を上るとキャベツ畑が見えてくる。
「本当にキャベツから赤ん坊が産まれるんですかね?本当なんですかね?」
背の低い本を持った少年トンボムシが言った。
「でもよトンボムシ、俺の母ちゃんが言ってたぜ
赤ちゃんはキャベツ畑から来るのよって」
背の高い、少しガタイの良いメゴロは言った。
「非現実的ですね、疑心になりますね!
もし本当だったら眼鏡をかけてニワトリの真似してやりますね!
賭けても良いですよ」
トンボムシは言い返す。
「眼鏡なんて高級品、俺には買えねえよ
ま、俺は目が良いからいらねえけど」
「もし賭けに負けたら、僕の眼鏡を買ってもらいます」
キャベツ畑の見える道を歩いて過ぎると、今度は菜の花畑が広がっていた。
小さな牧場も。
小さな牧場には牛やニワトリを飼うため、木に隠れた小屋がある。
6人は橋に着いた。
「待っていたぜ」
ダイダンは、6人のいる方へ橋を渡る。
「今日は何があったんだ?聞かせてくれ
習った事とか」
学校から遠いダイダンはもっと聞いていたいと思ってた。
その時、ケースは歩き出した。
「どこに行くんだよ!」
ダイダンは呼び止める。
ケースは離れ遠くへ向かって走り出した
声が聞こえないのか、ケースはますます離れていく。
ダイダンは大きな声で叫んだ。
「おい!どこに行くんだよ!ケース!」
やっと気がついたケースは振り向き口を開いた。
「ダイダン、俺の本当の・・・
本当の名前は・・・」
「本当の名前?」
はっとして目が覚める。
家の外からは鳥のさえずりが聞こえた。
「うーん、もう朝なのか?」
ダイダンは先ほど、起きる直前まで見ていた夢を、不思議に感じ取っていた。
「ケース、本当の名前って何なんだよ」
ダイダンは、まだ起き切らない体を椅子に座らせた。
ぼーとする。
そのうちに、段々と、段々と夢の記憶が薄れていく。
「なんだったんだ、あの夢は
4年前くらいか、ムクロジの木の近くの橋で皆集まった。
そう、あの頃を思い出す夢だ」
ダイダンは家の外へと出た。
滝の渓谷の村人が失踪してしまった中にダイダンの親も例外ではなかった。
ダイダンは井戸の水を汲む。
一人で支度をし、朝食を済ませると
【マタアワの滝】へ来た。
ダイダンが住む家の近くに、滝があるのである。
「あんな事件のあった後でも滝は流れ続けるんだな。滝って、なんかすげえ
この滝は、いつから流れ続けてるんだろうか
この滝は、どこから流れているんだろうか 」
流れ続ける滝。
滝壺。
しばらく滝壺を見続けていると、水辺の岩に文字が浮かび上がるのが見えた。
「おーい、ダイダン!」
「!ケースが呼んでる・・・」
ケースは坂道を下り、ダイダンの家へ着いたのだ。
「おはよう、昨日は色んな事が起きて大変だったな」
「ケース」
「おい、ダイダン、大丈夫か?」
「ケース!どこに行くんだよ!」
滝の流れる音が明らかに変わる。
そして滝壺から水が溢れ出した。
「うわっ!」
水はダイダンの家へ迫り、玄関の土間は浸水
したかと思うと、家から水が引き、今度は2人の方向へ流れ出した。
「走るぞ!」
ケースはそう言い、ダイダンと坂道を駆け上った。
2人は逃げるが波は迫り、とうとう波が2人を飲み込むかと思うと、その波は弾けなんと透明な小鳥となった。
透明な水でできた小鳥たちは日の光を浴び輝いた、そして木の近くを飛ぶと緑色になる。
山の色にも、空の色にもなる透明な小鳥。
小鳥は弾けた、するとバシャッと木に水がかかる。
弾けず形を保ったまま飛び立って行くのもいた。
ダイダンとケースの上で弾け、2人を濡らす小鳥もいた。
「鳥になった?波が透明な小鳥になった?」
「はぁはぁ、なんだぁ?今の洪水は」
ケースと共に濡れて疲れたダイダンは我に返った。
実はこの時、ダイダンは特別な能力【水能力 すいのうりょく】に目覚めていたのだ。
なのだか、本人はまだ知らない。
【水能力】を使い慣れていないため、ダイダンはバテてしまった。
そしてケースの本当の名前の事を、思い出せなくなっていた。
しかし、4年前の事、小学校の事を思い出せる様になっていった。
ダイダンはケースに、小学校の頃にトンボムシとメゴロという名前の仲間がいたという事を話した。
「ダイダン、おまえ、名前を思い出せる様になったんだな!
やったじゃないか!」
ケースは祝福するかの様に言う。
「ああ、トンボムシとメゴロ。
そうだよ、あの2人も探さないとな!」
ケースは、トピラーが起こしたと思われる事件のあとの話を、つまり昨晩の話をした。
「昨日はあんな事件があったんでな、あのあと、狼煙を上げておいたんだ」
「その、狼煙、何かの役に立ったのか?」
「ああ!それが収穫があったんだよ!
あとで説明するさ。
それでな、今朝は渓谷に人がまだいないのか探すために拍子木を叩いて回ったんだ」
「拍子木?」
「ああ、 ひょうしぎ さ
誰かこの音と共に反応してくれないかと思ったんだか・・・」
「思ったんだが?」
「猫しか反応してくれなかった
まだ人が見つかってないんだ」
「その拍子木・・・本当に役に立つのか?」
ダイダンとケースは、失踪した渓谷の村人を捜索した。
「おーい、くちゃくちゃ音たてて食ってた逆ギレ父ちゃん出てこーい」
しかし、ダイダンが呼んでも父親はトピラーに飛ばされ失踪してから、未だに見つからなかった。
「おーい、口うるさい口うるさい母ちゃん出てこーい」
しかし、ダイダンが呼んでも母親はトピラーに飛ばされ失踪してから、未だに見つからなかった。
「おい、ダイダン
他人の手によって親が失踪してる状況には、とても思えないのだが?
シリアスな状況なんだから、もっと真剣に捜索したらどうなんだ?」
ケースのもとに小さな黒猫が1匹、やって来た。
黒猫は、ケースの肩に乗った。
少年と猫は馴染んでいた。
「しかし、ダイダン、おまえが俺に名前を覚えるとはな」
そうケースは言うものの、ダイダン自身はよくわからない様子だった。
「さあ、俺自身も色んなことが起きすぎて、よくわからねえ」
「いや、大した事だよ。
事件が起きたあとだけど、プラスな事も起きるもんだな」
ケースは続けて言った。
「天変地異一歩手前だ」
「しっかしよケース、はやく探さねえと
俺の親も、渓谷の村人も」
「わかってる、だが旅立つ前にやるべき事がある。小屋にいるニワトリや牛たちはどうする?
旅に出る前に、旅立つ前に解放してやらないと、自由にしてやらないといけないだろう」
「あ」
「旅立つ前に、準備や休息も必要だと俺は思うぞ」
「休息?準備?そんな事より、はやく探しに行こうぜ」
「お、おまえ、俺の話を聞いてたか?」
「聞いてるよ、助けるために探しに行こうぜ」
「・・・」
「・・・」
「聞いてないだろう」
ケースの肩に乗っていた黒猫は、呆れた表情をしてダイダンを見ていた。
「ダイダン、おまえは昔から強引なところがあるな
今に始まった事じゃないが」
「いや、でもケース。俺、皆が、どこに行ったのか気になる」
「立つ鳥跡を濁さずって言葉もある。
気になるのはわかるよ、でもな、今は我慢が必要なんだ
わかってくれたか?ダイダン、今こそ我慢が必要なんだ」
ケースは黒猫を肩から下ろした。
黒猫は自由きままに歩き始める。
しばらくの沈黙
そしてケースは感情が爆発し、声を荒げ始めた。
「みんなから慕われていたトピラーがなぜ!
なぜこんな事をしたんだ!
滝の渓谷の事はどうするんだよ!」
猫は耳が優れている。
肩から降り、自由きままに歩きケースから離れていた黒猫は、大きな声を聞かずに済んだ。
いや、もしかしたら、ケースは知っていたのかもしれない。
猫は耳が優れている事を。
そして自分の大声で猫が怯えてしまうかもしれない事を。
「おい…どうしたんだよケース!
まさかお前まで」
次回、第三話 滝の渓谷出発、旅立ち
つづく
第二話終了です、第三話へと続きます。
短編版第一話から続きである第二話までブランクが5ヶ月以上空いてしまいました。申し訳ございませんでした。
次回は2024年9月1日の投稿を予定しています。
きっと前向きになれる内容にします、話も動きますので楽しみにしててください。
皆さんの健康と生きがいの発見を祈ってます。