第一話 谷の事件と生まれた訳
2024年1月読み切りとして、投稿した短編小説『滝壺のダイダン』を連載するにあたり、2024年6月28日に書き起こしたものになります。
スタートとなるエピソードです
ぜひ読んでいってください
「我慢は必要だ」
誰かがそう言った。
少年は、流れる滝の音を上から聞いていた。
もう一人の少年は、流れる滝の音を下から聞いていた。
スーと息を吸い、水の音を吸い、水の中に飛び込む。
そして滝の流れと共に落ちた。
少年ダイダンは、滝壺から押し上がり水面から顔を出した。
「ぷはあ」
その様子を見て、もう一人の少年は言った。
「お前は相変わらず無茶するな」
「うるせぇ、時にはこういうのも必要なんだよ
なんだったら今からお前と」
「おっと、やめとくよ。
・・・それより今日はなんだか違和感がないか?」
「違和感って?」
「うーん、とにかくなんか変ってことだ」
「何がどう変なんだ?」
「月が赤い」
確かに今日は月が赤い。
もう一人の少年は言った。
「太陽に眼差しがあるように、月にも眼差しがあるのだろうか」
「ははっ、なんだそれ」
「御師匠様の言葉」
「ん?」
「お前の物忘れも今に始まった事じゃないな!ダイダン!」
少年の目から発する念力でダイダンは岸にあげられた。
「じゃあさ、教えてくれよ!その師匠がどんな奴だったかって」
「俺の名前も忘れちゃってる奴にそれは教えられないな」
「えーと、えーと、待って今思い出す。えーと、えーと」
「ケース」
「え?」
「ケースだ」
「ああ、そうだったケース、でこれからどこへ行くんだ?」
「山のふもとだな、トピラーが村の皆を集めてる」
「なんでだ?ケース」
「さあな、きっと・・・おそらく何かが起こったんだ」
「不安にさせるなよ!
それならそうと、さっそく行かねえとな
よっよっ」
ダイダンは、川の石を次から次へと飛び移り、村へ向かった。
「やれやれ、せっかちだな」
ケースも後を追う。
トピラーは中性的な顔をした人だった
「今年で45になります」
とトピラーは第一声。
「聞いてないけど、あんたの第一声それで良いのか?」
ダイダンは失礼とも取れる返しをした。
そうダイダンが言うと、頭上からケースのげんこつが降ってきた。
「痛ってえ」
「失礼な言い方してないで座れ」
「いいだろうがよ、そう思ったんだから、そう言って」
トピラーは言い放った。
「皆さん、人は生まれながらに他者を殺したい生き物なのです」
周囲はざわつく。
トピラーは続ける。
「皆さんがたは、どうやって産まれてきた、ご存知ですか?
そう、他の精子を殺して産まれてきているのです
それは忘れた方が幸せなのかもしれない
ですが!皆さんは過去にそれをやっているのです
人は産まれながら悪なのです。
人は産まれながら傲慢なのです。傲慢なのです!」
トピラーは言い終わると過呼吸になってしまった。
村の人達は驚き、トピラーを囲んだ。
心配していた村人をトピラーは掴み、そして投げ飛ばした。
四方八方へ飛ばしていく
次々と。
そしてダイダンとケースの2人を残しトピラーは最後に飛び立った。
その後、しばらく2人は滝の近くで、たそがれていた。
黙ったままでいると、月が映る水の中にケースは飛び込みたくなった。
ケースは衝動にかられ水の中に飛び込んだ。
仮眠をとりつつボーとしていたダイダンは、その時ハッと目が覚めてケースの方を見る。
「へぇ、珍しいこともあるもんだ
ケースが水の中にいきなり飛び込むなんて」
「ああ、今回ばかりは参っちまった」
ケースはある事に気づいた。
「・・・おまえ」
ダイダンに驚きの目をやる。
「名前、覚えてる」
するとケースばかりでなくダイダンも驚いた。
「あ!本当だ」
つづく
続き、第2話は2024年7月の頭を予定しております
約半年間も、かかってしまい申し訳ございません
リテイクを重ね進めております