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ちょっと居候のパパ

パパは不運と共にやってくる?涼介とママの優しさが溢れている回。パパがちょっと…

 三ヶ月前パパが我が家に夕飯に来た。


 その時のママとのビミョーなやりとりといい、パパの形だけでモノをいう感じといいボクはかなり気を揉んだ。もう二度と親子3人で晩餐することもないと思ったし、実際三ヶ月はパパと連絡は取らなかった。


 パパが帰った夜、ボクは胸に石を詰められたようになり、よく眠れなかった。一見まともそうなパパの真意のない発言と比べると感情を垂れ流しているママの方が数倍居心地がいい。ママのことを思って後悔して眠れなくなったことなんかない。


 まあ単純にボクがママと暮らしているから慣れているのかもしれないけど。ママは相変わらず「暇だ暇だ」と言っている。そして料理研究家の友達の料理会に出たり、ホットヨガのスタジオに入会したり始めた。


「涼介、ホットヨガっておそろしいよ。滝のように汗が出るんだよ。でさあママより年上のおばさまたちがさ、みんな水着みたいな格好なんだよ。ママは恥ずかしくて長いTシャツ長いレギンスで行くけどね。あとさあバスタオルを床に引くんだけど、みんな無地のタオルなんだよ。うちは無地のタオルがないからさあ、ママはプリントのタオルを裏返してんのね。ホットヨガの世界観についていけないよお」



 夕飯どきにホットヨガの話題は増えた。最近はボクもスイミングに行き出したのでスイミングの話題も出る。ボクはバックを卒業しクロールのクラスに入った。ボクがスイミングに行く時にママもホットヨガに週二回行っている。


 ママはよそのお母さんがダメといいそうなことを一通りボクとやりたがる。ボクらはスイミングとホットヨガの帰りにコロッケの買い食いをしたり、暑い日はアイスを食べて帰る。


「夕飯前だけど夕飯の量を少なくすれば良いだけじゃん」という。


「人間は好きな時に好きな物を食べるべきだよね」ママは力説する。


 今日は涼しく秋めいた日だったので二人で歩きながら、コロッケを食べて帰ろうとしたらコロッケ屋の手前でママの携帯が鳴った。


『リロリロリンリロリロリンリロリロリロ』

 

なんともとぼけたコール音が聞こえる。


「あ、パパだ!」


ママは携帯画面を見て電話に出た。


「はい。どうしました?」


 そう回答したあとにママは「えー!えー!」を繰り返し、あとは「うーんううーん、まあそうだけど、とはいえ、どうにもならないの?」を3回繰り返した。


「まあ、仕方ないね。とりあえずいいよ。詳しくはのちほど」

と言って電話を切った。



「どうしたの?」


「パパが今からうちに来るって」


「えーーー!またなんで?」


「パパのマンションの上の階から水漏れして、部屋中水浸しになったんだって。でパパは一週間、ホテルにいたらしいんだけど、ちょっとうちに泊めて欲しいって」


「うーん大変だねえ」


「パパが一番大変だけど、アタシたちも大変だよ。コロッケは食べないで買って今日はバスで帰ろう」


 ママはタタッタタッタとまた奇妙な足音で歩き、ボクらがいつも食べている高いコロッケ屋のコロッケを4種12個買った。おからだのチーズだの豆だのそれぞれに色々入っている変わったコロッケだ。一個一番安いので230円高いのは380円する。それをママにしては珍しくガバッと買った。


「帰って片付けないと!」


 そう一言行って、タタッタタッタと普段は乗らないバスの停留所までボクの手を引いて行った。


 歩くと20分。バスだと5分でボクらの家につくとママはまずはボクとママのスイミングとヨガの洗濯物を洗濯機に入れて回した。チビはママが大好きなので帰ってくるとついて回っている。 


 ボクらの家は古い一軒家で、2階はママとボクの部屋と納戸がある。一階はリビングと台所、風呂、とあとはほとんど物置化している畳の四畳半がある。 


 洗濯物がたくさん衣類ハンガーにかけてあり、押し入れには布団とアルバムやらママの着物や絵などが入っている。ボクの段ボールは五箱で、ママはハンガーの洗濯物をまずは全部取って自分の部屋まで運んだ。またチビタはママについて二階に上がり、ママと一緒に降りてくる。 



 四畳半に積み上げていた段ボールは廊下に出す。そして押し入れから布団を引っ張り出しコの字型の衣類ハンガーに敷布団をかけてファブリーズをかけた。ふたつある部屋の窓を全開にし、バトミントンのラケットでで布団をバンバン叩いた。うちには布団たたきがないのだ。



 家に着いたのは18時10分前くらいで、この段階もう18時半。パパは19時に来るという。ママは急いでご飯の準備をする。

ほうれん草とカリカリベーコンとチーズのサラダを作り、コロッケにつけ合わせる千切りキャベツをスライサーでつくる。

買ってきたコロッケはオーブンで温める。味噌玉を準備して、あとはお湯をかけるのみ。 


 ママはボクも食べられる酒のツマミ的なものを探して、冷蔵庫を覗きまくって、冷奴と肉味噌の作り置きを出した。


「主婦って大変だねぇ。」 


ママは普段から主婦も兼ねているはずなのに、パパが来ることになった途端に急にいつもの自由なママと別の魂が乗り移ったようだ。深くため息もついている。


 テーブルセッティングをふたりでしていたら、家のチャイムが鳴った。 


「ピンポーンピンポーン」


「「パパだ!」」


 ふたりで叫んで玄関まで出て行った。ドアを開けるとパパが立っていた。足元に大型の四角いスーツケースがあり、重そうなリュックも背負っていた。


「いきなりごめん」


 パパは顔色が悪く、クマが出来ていた。やつれている。


「いいから入って入って。災難だったねえ」


 ママはパパの腕をつかんで引っ張った。パパはよろけて玄関の上がりかまちに手をついた。


「さあ、荷物を下ろして!1階の四畳半がカズさんの部屋だから入れて来て」


「里央さん、ありがとう」


 パパは立ち上がって、ややふらつきながら奥の四畳半に荷物を持って行った。パパを見たらチビタはすごいスピードで2階に逃げた。


「ご飯だから、食べながら話そう」


「なにからなにまで、すみません」


 パパが食卓に着くとママは温めたコロッケを出して来て目の前に置いた。ついでにビールの缶をパシュンという音を立ててパパの前に置いた。


「飲まないとやってられないっしょ!」


「ありがとう」


 パパは座っていても深々と頭を下げた。ビールを飲みながらとつとつと事情説明をし出した。


 パパのマンションの上の階の水道管が何かの理由で破裂して、ものすごい量の水がパパの部屋に落ちて来たらしい。部屋中、台風にあったようにびしょ濡れで機械類は全滅。家具類も全て買い替えねばならない。衣類はゴミ袋に入れて濡れたモノを持ち出しコインランドリーで乾かしたそうだ。


 お金は濡れたのを乾かし、カードの使えるところはカードを使った。パパはとりあえず安いビジネスホテルを取り一週間泊まっていたが、パパの入っている保険会社とマンションの管理会社が揉めてしまい、お金がいつ降りるか全くわからない状態だと言う。


 さらにパパの泊まったホテルが壁が薄く、パパは騒音と心労で眠れなかったが仕事は毎日通っていたそうだ。そうしたら今日目眩で倒れてしまい、早退してホテルを引き払いママに電話して来たと言うことだ。



「里央さん、寝かせて貰っていい?」


パパは食事もあまり食べずママに頼んだ。


「うん、寝なよ。でもお風呂入っておいでよ。その間部屋を整えるよ。涼介、パパにタオル出してあげて、ママ布団敷くから」


 ボクはパパの手を繋いで、お風呂に連れて行った。ママはさすがに手早く風呂も汲んである。


 パパは面倒そうだったが、風呂に入ってお湯に浸かったら「ハアーーーー」と大きく息を吐いた。パパにパジャマがあるかわからないのでママは大きい自分のTシャツと短パンを出して来た。



 ボクはそれを脱衣所に置きに行き、ママが布団を敷いてる四畳半に行った。ママはまだ窓を開けており、布団にシーツをかけていた。


「涼介、カビ臭くないかな?」


「カビ臭くはないけど、なんか変な匂いする」


「ネオパラエース。カビ除け虫除けだよ」


「じゃ余計平気でしょ。パパ寝ちゃうよどうせ」


「そだね」


 ママは毛布と掛け布団を出し布団の支度は完了し、窓とカーテンを閉めた。


「涼介、パパ風呂で寝てるといけないから見ておいで」


 まさかと思い見に行ったが、パパは風呂桶に浸かってイビキをかいていた。ボクはパパを起こして、身体を拭くのを手伝いパパはママが出した服を着た。


「ごめんね里央さん。もうダメだ」


 パパは四畳半に入って来るなり、布団に倒れ込んで寝てしまった。



 ボクとママは夕飯がゆっくり食べれなかったので、食卓に戻って夕飯を再開した。チビタはパパがいなくなったら二階から降りてきた。

 ご飯は全部冷めている。ママは食べてないお米を電気釜に戻し暖かいのをよそってきた。ふたりで〝お高いコロッケ〟を食べる。チビタはさっきパパが座っていた椅子に座った。


「高いだけあって冷めてても美味しいね」


「うん。おいしい。ママこれからパパはしばらくうちにいるの?」


「うーむ。全くわからない。一週間なのか三ヶ月なのか。でも気を使い過ぎたら良いことないから、このままパパはずっと寝かしておいてうちらは普段どおりに暮らそう」


「3日くらい寝てるかもしれないね」


 ボクが言うと「あり得る」とママは言った。でもママが急いで部屋を空けたせいで、ボクらは今を乗り越えたら、ご飯を食べて、またゲームをし、動画を観てお互いの部屋で眠るのである。


 パパがどういうペースで暮らそうとボクたちはいつも通りだ。これからドラマ観ようとしていた。『クイーンズ・ギャンビック』をふたりで観る。ドラマの事故のシーンを観て、ママはため息をついた。


「カズさんは女難の次は水難かあ」


ママは完全に人ごとのように小さい声でひとりごとを言った。



 次の日は土曜日でボクは学校が休み、ママは仕事はボクの休みの時は極力しない。ボクらは夕べ2時までドラマを観ていたので、10時半に起きた。


 ママは休みの日はオープンサンドやクレープを作ってくれる。今日はオープンサンドで中に乗っける具がたくさん並んでいた。

サニーレタスにキュウリ、チーズ、ハムにシーチキンとスクランブルエッグ。しょっぱい系のものとバナナ、ブルーベリー、生クリームホイップとチョコソース。具を準備してからママがトーストを焼く。

パパには昨夜夕飯を起き、ラップをかけておいたが食べた形跡はなかった。ママは作りながら考えている。


「パパどうするか?」


「トーストだし、起きたら自分で焼けばいいんじゃないの?」


「そだね」


ママが4枚10枚切りのトーストを焼きボクらは食卓についた。


「「いただきまーす」」


「ママはレタス、キュウリ、チーズ、ハムにマヨネーズかけるんだー」


「ボクはレタスに卵とハムにケチャップ」


「涼介はケチャッパーだな。ママはマヨラーだよ」


「そんなことば知ってる10歳いないよ。ママ」


「わかりやすくていいじゃん」


 ボクらは米津玄師の音楽をかけながら、笑って朝食を楽しんでいた。ママは「lemon」という曲が好きで、聴くと泣きそうになるそうだ。


「おはよう」


 パパがボサボサの寝ぼけ顔でボクの後から声をかけて来た。


「ああカズさんおはよう。まだ寝ててもいいし食べるならどうぞ」


「お腹すいたからいただくよ。すごい寝た。まだ寝れる」


「食べたらまた寝なよ。うちらは好きにしてるから」


「ありがとう。すごい豪華な朝食?もう11時だよ!」


「アタシたち休みの日はゆっくりなんだ」


 パパはお土産にもらったマヌケなハワイのデカイTシャツ姿でクレープを取った。野菜類とチーズにハム、卵にケチャップをかけた。


「あ、パパもケチャッパーだ!」


ボクが言うと「親子だねえ」とママが言った。


「え、ケチャップかけるとケチャッパーなの?」


パパはうれしそうに笑った。


「足りなかったらパンまた焼くから」


ママは言いながら自分はバナナとブルーベリーに生クリームをつけていた。


「ふたりはいつも食事が豪華だなあ。パパはこんなにちゃんとした食事久しぶりだよ」


「美味しいものは元気の源だから、カズさんもたくさん食べなよ」


パパは頷いて二つめにてを出した。ママは昨夜のパパの分のはサラダを出してきて、コロッケを再度温めながら、またタタッタタッタと足音を立ててパンを焼きに行った。


パパは昨日に比べたら元気になっていて、楽しそうだった。


「休みの日に里央さんと涼介は、家の中でも楽しくやってるんだねぇ。オープンサンドだけで楽しいねぇ」


「これがクレープの時や、ママがパンを焼く日もあるんだ。でも大体ご飯じゃないの」


ママは3分ほどでトーストを焼き、温めたコロッケを出してきた。


「はいカズさんも涼介もお高いコロッケと千切りキャベツもパンに合うかもよ」


 パンはまた6枚焼かれてきた。ママは多分色々パパに思うところがあるんだろう。


 でも、部屋が水浸しになったらパパはママを頼る。それをママは気の毒だと思って部屋を整え、風呂に入れ、ご飯を食べさせる。


 でも逆にボクらの家が地震で壊れたり、ストーカーに付きまとわれたり困ったことが、起きたとしても、ママはパパを頼らないのではないかと思った。


 ボクはそれは口に出さず〝お高いコロッケ〟を半分に割り、千切りキャベツとパンに挟み、今度はマヨネーズをかけた。マヨネーズは好きじゃないけど、ママに対する無言のリスペクトだった。



《了》










まだ続きます。あと一話か二話くらいです。

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