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第五話

 夜が明けようとしている。

 昨夜は遅い時間に自分のベッドに横になったが、正直よく眠れないどころか、全く眠る事が出来なかった。

 緊張と少しの興奮。テルザおばさんからは、今日の仕事は休むようにと言われている。眠れなったのでありがたい。

 

 昨夜の出来事を思い出す。僕は徴兵され、兵役に出ることになる。自分で志願し決めた事だ。兵役ということは、兵士となり戦う事である。わかっているが喧嘩すらした事のない僕には恐怖しかない。正直、怖い。だが、宿場町ラカハナしか知らない僕にとって、町を出る事にちょっとではあるが、ある憧れみたいなものがあるのは否定できない。

 本当に大丈夫なのか?長老ドイスムによれば、ラカハナ出発は2週間後。それまでに旅立ちの荷物の準備をする必要があった。

 目指すは城砦都市ディザワイスであり、エスカライア山脈のエト山を越える必要もあった。エト山を迂回する道もあるらしいけど、3か月くらいかかるらしく、徴兵の期限まで間に合わない。難所と言われているエト山だが、今は晩夏でもあるため、そんなに難しいことはないらしい。冬のエト山越えは命懸けと聞いた。


 さて、どうするべきかと思ったが、同行者となる、ドライハルと話さなければいけないと思った。旅は道連れというが、正にその通りだ。

 ドライハルは町の中心にある長老ドイスムの屋敷で、母親のサシャと一緒に暮らしていて、早くに父親を亡くしていると聞いた事がある。父親については僕は詳しくは知らない。使用人夫妻がいるとも、どこかで聞いた。

 そろそろ行かないとと思い、昨夜会合のあった集会場に隣接した屋敷に行くべきで、ドライハルが出掛けていなければいいのにと、出掛け支度を終え、1人1階で働いているテルザおばさんに挨拶をしに階段を下った。

「おはよう、おばさん。ちょっと出掛けて来るね」

「ああ、おはよう…どうしたんだい?顔色がちょっと良くないね」

「そうだね。ちょっと眠れなくって」

 ちょっとどころか、昨夜は一睡も出来なかった。

「そう…ね。仕方ないわ。でも、無理はしないようにね」

「ありがとう。じゃあ、ちょっと行って来る」

「行っておいで、気をつけてね」


 軽く会話を交わし、うさぎの尻尾亭を出る。

 目指すは昨夜訪れたドイスムの屋敷である。ドライハルが在宅していればいいのだけど。

 うさぎの尻尾亭を出ると晩夏なので、町の通りの風が気持ちいい。

 テルザおばさんと暮らすようになって、ここでそれぞれの季節を過ごしたが、僕はこの夏の終わりである晩夏の風が好きだ。前髪を揺らす、そよそよとした風が優しく思われる。

 ラカハナではそれぞれの季節を過ごしたが、他の地域がどうかは僕は知らない。

 うさぎの尻尾亭は、やや町の端にあるので、僕はドイスムの屋敷のある、町の中心へと歩みを進めた。通りすがる町の人たちの視線が少しいつもと違うが、気にはしていられない。

 少し歩くと、目指すドイスムの屋敷が遠くに見えて来た。昨夜の屋敷と雰囲気が違うのは、今が明るいからか、それとも僕のただの気のせいか。

 目指す屋敷は、その姿をどんどんと大きくした。

 もう少しだ。そして、僕は昨夜訪れた集会場に隣接した、その主の屋敷の正面門の前にたどり着いた。昨夜は暗くて気にならなかったが、2階建ての大きな、立派な造りの屋敷だった。屋敷には、朝からであるが人の出入りが結構ある。その人たちを避けるかのように、正面門を潜った。


「おはようございます。ドライハルに会いに来たのですが、ご在宅でしょうか?」

 遠くから返事が聞こえた。

「おう、そろそろだと思っていたぞ。まあ、入れ」

 そう言って僕を迎え入れてくれたのは、ドライハル本人だった。

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