第二十五話
僕達を出迎えた女性が微笑んでいる。歳の頃は何歳だろう?10代の少女にも見えるし、20代後半にも見える。僕が今までに見た事のない風貌で、この国では見かけた事のない面差しだ。何となく猫を想像させられる女性だった。艶やかな黒髪を結って頭の後ろで束ねている。それに僕達が来る事を予見していたような発言も気になった。少し考えていると…
「お二人さん、旅の証書をお持ちよね?私はこの店の主のマキア…マキア・イシタハよ。まずは、身なりを確認しようじゃないか」透き通ったような声で言われた。
僕は懐から証書を取り出すと、ドライハルも同様に取り出していた。
「これでいいですか?」そう言い差し出した。
女性は受け取り、何やら考えがあったらしく、予想外の事を言った。
「アッシュ・ノイタルか。あんた、これ名も姓も偽名…まあ、いいわ。赤髪のお兄さんは、ドライハル・ギルモンドね。うん、こっちは本物だわ」そう言い、一人で何やら頷いて納得している。
確かに、僕は『アシュレイ』が正しいらしく、姓はわからなかったので、テルザおばさんから『ノイタル』の姓を借りていた。これは、おばさん始め、長老ドイスムが姓がわからないとこの先困るだろうからと、おばさんの姓を名乗るようにと、証書もそれで出してくれた。
でも、どうしてそれがわかったんだろう?僕の偽名だけじゃなく、ドライハルの名前が正しい事もわかっていたような事だったけど。
そして、それが何となくわかったのは、先に述べた告占がどんなものかを教えてくれたからだけど、その前に色々とあった…
「まあ、まあ、お二人さん。そんな怪しい者を見るような目付きはおやめなさい。全部説明するわ…その前に…う、ちょっと臭うわね。まずは、湯あみよ、湯あみ。お入りなさい」
そう言われれば、僕達は…自分だとわかんないけど、ちょっと臭うのかな?確かに旅路の途中では、川や湖で少し行水するだけだったし。でも、そんなに…と思い、ドライハルの様子を伺った。
「ドライハル、僕達、そんなに臭うかな?」
ドライハルは、自分の腕の臭いを嗅ごうとして「そうかも…」全部言い終えるまでに止められてしまった。
「皆、お二人をお願いね。湯あみよ。ご案内して」マキアが言い両手を叩いた。楽器の演奏が再開しらたしく、不思議な音色が囁くように鳴りだ出した。
店の奥から「へい、がってん」男達が出るや、僕達は拉致されるように店の奥に連れて行かれた。
男達は、皆筋骨隆々で、抵抗しようにも何ともならない。
「ちょ、ちょっ待っ…」
「おい、何だ、何…うわっ…」
抵抗する術なく連れ去られた。
「がってん。がってん。湯あみでやんす。湯あみでやんす」
男達に連れ去られる。店の奥へ奥へと…突き当りに大きな木製のドアらしきものが見えた。
「お入りになって下せえ。お背中お流し致しやす。ささ、お入りになって下せえ」
もう、どうにもならならしいので、腹を決めた。確かに、ちょっと臭うかも。湯あみをすれば、身も心も綺麗にに旅の疲れも落とせそうだと思ったから。
木製のドアを開けようとしたら、男の一人に止められた
「あっしらにお任せ下せえ」そう言いドアを開けてくれた。
本当に何が何やらで、どうにもならないらしい。開けられたドアから入る。ドライハルもちょっと警戒しながら入った。
しかし、僕達は想像していなかった光景を見る事になった。湯あみなんだけど、ただ湯を掛けるだけの部屋ではなかったからだ。広々とした部屋で、部屋の外には庭みたいなものも見えて、そこには小さな池のようなものまで見えたからだ。外が見れたのは、庭に接する壁に大きな硝子がはまっていたからだ。ここまで大きな硝子は見た事無い。
「庭は当店自慢の天然温泉でやんす。まずは、お身体を洗って下せえ。お背中お流し致しやす。ささ、壁際へどうぞ」
壁際には、洗い場みたいなものがあり、桶みたいな椅子?みたいなものがあった。座ればいいのかな?戸惑っていると「お着物お脱ぎ下せえ。お座り下せえ。ささ、どうぞ」ドアを入って直ぐに、棚があり、籠のようなものがあるので、ここで脱ぐらしい。あれは椅子で、座るらしい。
「わかりました」観念した。
ドライハルは…「そう…だな」同じく、観念したようだ。
衣類を脱いで籠へ入れた。そして、洗い場だろう壁際の椅子に座った。
「綺麗に致しやす。綺麗に致しやす。お背中お流し致しやす」
そして、男衆が元気よく何やら歌い出した。それは、どこか懐かしいような不思議な、どこかの異国の言葉の僕の知らない歌だった。




