第二十四話
日暮が近い。遠くに見える陽が地平線に沈もうとしていた。道は直線に伸びて、その延長線上にディザワイスの壁らしきものが遠目に確認できた。その壁らしきものは、次第にその姿を大きくし、やがて、僕達の行く手に立ちはだかる。
それは、城壁…じゃないな。人の腰丈くらいの大きさで、小さな石壁だろう。何の石壁なんだろう?城壁とは言えなかった。が、その先には本当の壁が立ち並び、僕達の行く手を阻止した。この城壁こそが、遠目に見えた帯の正体だと思う。
正確には石壁ではなく、石壁と城壁の間にあるものだ。それがある事により、僕達は城砦に入る事は不可能だ。それは、幅の広い深い『堀』だった。それが僕達と城壁の間にある。石壁は堀を囲うように均等に置かれている。そして、僕達が城砦に入るためには、その堀に掛けられた架け橋を渡る必要があったからだ。何故なら、堀にはたっぷりな水が蓄えられていたからだ。例え水が無くても堀を渡る事が不可能なのは、その深さにもある。架け橋の終点には、城門らしきものがあり、遠目にそれが閉じられていることが確認できた。
石壁、堀、城壁の順であり、堀に架けられている橋を渡り、城壁を潜ると城塞に入れる…城砦の城壁には、城門はあるけど。
その僕達を呼び止める存在があった。
「止まれ。本日の立ち入りままならぬ。日没後は入る事は出来ぬ。翌日参られよ」架け橋手前の門番らしき男だった。城の衛兵なのかもしれない。軽鎧を纏い、腰には剣を帯びている。
「ちょっと待ってくれ。俺達は、徴兵に応じるために来た者だ。怪しい者でもない。ここに証書もある」
ドライハルが懐から紙束を取り出し、門番に差し出した。
「僕もあります」僕もドライハルと同様に証書を取り出した。
しかし、門番は聞かない「本日は終わりだ。明日またここに来い。これはこの国の決まりで変える事は出来ぬ」
「じゃあ、俺達にどうしろというんだ?」ドライハルに苦悩の色が見える。
「町宿にて夜を過ごし、明日またここを訪れよ。この証書があれば、泊まるに困らぬはずだ。よいな。日を改めよ」
もうどうしようもないらしい。
「石頭め!」ドライハルは聞こえないように毒づき「仕方ない。出直すか、アッシュ」腹を決めたようだ。
「そうだね。困ったなぁ、本当に」
ディザワイス城砦都市は、直ぐ目の前なのに。
僕達は道を引き返し、町宿を探した。今晩はそこを利用するしかない。町はまだ灯火が灯り、喧噪や歓談、様々な人の話し声や囁きみたいなものが聞こえた。この町の夜は、長そうでまだ眠りにつくには早いらしい。
「期日までまだ余裕がある。アッシュ、ここらで一休みとするか」
僕達はカクイの先導でラキの通り道を通って来た。だから、決められた期日までには、数日と余裕があった。ゆっくりしても罰は当たらないなと思う。それに旅の垢も落とさないといけないし。
城門から南下して道を少し進み、左手にある一軒の店に入ろうとした。何となく不思議で、何となく店から流れ奏でられる、謎の楽器の音色に惹かれたからだ。店は、うさぎの尻尾よりも大きく広いらしく、それなりに人の出入りがあった。店の外観は朱色で統一されている。ツシール達を店の入り口に繋ぎ、店の扉を開ける決意をした。店からは途切れる事無く、謎の音色が聴こえる。どこか楽し気でもあるけれど、愁いを帯びた悲し気な、不思議な音色だった。何の楽器だろう?
僕達は、意を決して、店の扉を開け入った。
「こんばんは」
ピタリと謎の楽器の演奏が止んだ。
「いらっしゃい」
店は静まり返っている。
店内からも何も聞こえないし、聴こえない。音色が止んでから。
僕達は歓迎されているのだろうか、また逆なのかはわからない。
「そろそろだと思っていましたよ、お二人さん」
僕達を出迎えてくれたのは、歳は若いだろうか、年齢不詳の女性の口から発せられた言葉だった。僕達が来るのを知っていた?
何の事か二人で戸惑っていると…
「占いがあってね。告占とも言うんだけど…まあ、立ち話しもあれなんで入って。今夜は長いわよ」
女は微笑みを浮かべてる。
一体、何なんだろう?正直、怖いな。
「おう、入らせてもらうぞ」いつものドライハルだ。
「お、お邪魔します」
二人して店の奥へと入った。




