第二十三話<出会い>
緩やかに道を上ったり下ったりを繰り返した。ディザワイスは見えるけど、まだ遥か遠く、その姿は変わらない。たまにディザワイスの手前に帯のようなものが見えるけど、あれは何なんだろう?
ドライハルを先頭に道を進んでいたが、今はツグーを並べて進めれるだけに、道の幅は広がっている。ぽつりぽつりと道の両端には、背の低い木々が植えられていた。遠くのディザワイスを目指し、黙々と進んだ。
どれくらい進んだのだろう。道幅は今ではズグーなら、4頭は並んで進めるまでに広がっている。ディザワイスは、その姿形を変えない。まだまだ遠いなと思った。同じように穏やかな道の上り下りを繰り返していると、やがて急に道が開けた。それに僕は心を奪われる事になる。道の両端の木々は消え、前には広大な金の…金の絨毯が広がっていたからだ。どこまでも金の絨毯が続き広がっている。金の絨毯は、風に揺られて、金のさざ波が出来ていた。
思わず「うわ、何これ? すごいね。まるで金の絨毯だよ」知らずに声を上げていた。
「トクゥ麦だな。実っているのは、俺も初めて見るぞ。そうか、ディザワイス周辺は、トクゥ麦の一大生産地と聞いた事がある。収穫が近いのだろう。それにしても圧巻だな」
「そうなんだ。これがトクゥ麦かぁ。こうやって穂をつけるんだね」
トクゥ麦については、テルザおばさんから聞いた事があった。エストライム全土で採れる麦で、夏の終わりに穂を実らせ、収穫したものを脱穀し、石臼で引くものらしく、その粉がパンの原料となるものらしかった。害虫や病気にも強く、寒冷地でも育てやすく、安価でもあるので、エストライム全土で栽培されているらしい。ディザワイス周辺は、北のイナリア河の恩恵もあり、特に栽培が盛んで特産物らしいとも聞いた。僕も実物を見るのは初めてだった。
驚きながさも先へ進むと、少しずつ民家らしき建物が見えるようになった。トクゥ麦農家の人かな。まばらにだけど、人々の姿も見かけるようになった。
しかし、ディザワイスはまだ遠く、その姿はまだ変わっていない。見える景色は、少しずつだけど、変化を見せている。トクゥ麦畑を縦断するような、水路のようなものも見えたからだ。道ですれ違う人も変わり、乗っている動物もそれを変えたからだ。あれは噂に聞く…馬なのだろうか?乗るだけではなく、トクゥ麦畑でもその姿を見る事が出来た。僕には初めてばかりで、驚くだけだ。
周りをきょろきょろしていると…「アッシュ、落ち着け。田舎者だと思われるぞ」
ちょっと恥ずかしくなった。
道なりに更に進む。延々と続く金の絨毯。働く人達からは色んな声が聞こえた。談笑や歓談があったり、笑い声も聞こえた。平和なんだなと思った。
更に進むと足元の道が変わった。今までは土の農道のようなものだったけど、今は押し固められたかのような道で、硬く舗装されれいる。おや?っと思ったのは、農家だった家々がその性質を変えたからだ。トクゥ麦畑は姿を消している。道の両脇の家は、農家の家の作りではない。これは…宿屋や商家だと思われ、飯屋もあるのか良い匂いが漂って来る。それらが聳え立つかのように連なって建っている。
景色の変化に心を奪われていると「日暮れが近いな。急ぐぞ、アッシュ」ドライハルの言葉が飛んで来た。
陽は傾き、その姿を地平線に落とそうとしていた。まずいな。ツシールの手綱を握り直し、先を急ぐ。周りの建物に心を持っていかれるけど、このままでは本当に陽が落ちてしまう。
「そうだね。急ごう」
そう思い、その時に気づいた。遠くに見えるその正体にだ。いや、気づかされたと言った方がいいのかもしれない。ディザワイスの前にあった、帯のようなものの正体がわかったからだ。それは連なった大きな大きな石壁だった。
僕は思い知らされた。
「あれが城砦都市ディザワイスなんだね。何て大きな壁なんだ」
僕は独り事を言っていた。
「先を急ごう、アッシュ」ドライハルの緊張にも近い、興奮にも近い声が飛んで来た。
僕達はディザワイスそのものを目指した。




