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花の王子といばら姫  作者: 夢宇希宇


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第二十一話

 穏やかに道の上り下りを繰り返し、カクイの後をついて行った。僕達はズグーに乗ってるけど、徒歩のカクイは、僕達より速い。表情を変えずに進んで行くその後姿を、必死について行った。正面には、木々が迫り、左右は同じように緑の深い木々に挟まれるようだった。同じような景色が続いている。エト山は遠くに見えて近づく気配はない。道は人ひとりが通れるくらいで、ズグーにとっては少し狭い。僕は落ちてはいけないと思い、ツシールの手綱をしっかりと握った。

 カクイの言った事が気になって仕方ないけど、カクイはあれから特に変わった事は言わない。道を外れないようにとは言ったけど…他にも気になる事があった。ドライハルがずっと沈黙していたけど、何か考えるようにして、慎重に周りをチラチラと伺っているようにも見えたからだ。

「ああ、駄目だ。覚えられん」

 困り果てたかのような、ドライハルの言葉だ。きっと、地形と道を覚えようとしていたんだろうな。僕は早々に無理だと悟ったので諦めていた。

 カクイはドライハルをチラっと見て、こんな事を言った。

「そうであろう。ラキの通り道には、隠しの結界が張られているからな。道は隠されるようになっている。中からも外からもだ」

 隠しの結界って何だろう?

 カクイがある一点を指差した。その先には幹の太い大きな木があった。

「あの木を見るといい。その幹に橙黄色の綱が巻かれておろう?あれが結界になっている。道はあるが、道は無いと思い込むようになっている。そこには在って、無きものとなるようにだ。触れるのは許されんぞ」

 何か難しそうな話しだな。ドライハルも困った顔をしている。

「深く考える必要は無いぞ」

 涼しい顔でカクイが言った。


 僕達は淡々と道を進んだ。何も言わずにカクイの後をついて行った。途中、野宿もしたし、もう慣れたものだ。特に困った事もなく、道中は穏やかそのものだった。

 正直、隠しの結界とかわからないけど、今は前に進むしかない。無事にディザワイスへの到着を願うのみ。景色は相変わらず深い緑で、その緑に覆いかぶされるようだった。ドライハルは口数が少なくなったと思う。僕も実際のところ、戸惑うところが多い。

 それぞれに思うところはあるけど、その終わりがどうやら近づいて来たようだ。まだ遠いけど、その視線の先に、ディザワイス城砦らしき姿が小さく見えた。カクイに出合ってから4日目で、予想より遥かに早い。

「おお、あれはディザワイスか!」先を行く、ドライハルから歓喜の声が聞こえた。

「本当だ。遂に到着したんだね、僕達」

 僕も旅の終わりを間近にし、自然と大きな声が出た。ディザワイスの姿はほんの一部で、その姿はチラっとしか見えないけど。

「我の役目もここまでだな。これから先は、お前達で行ってくれ。我は山民故、ここから先には行けぬ。お別れだ」

 え?そんな…そうなんだ。カクイとはここでお別れなんだ。口数は少なかったけど、僕達は旅を一緒にして何か仲間のような気がしてたから、ちょっと寂しいな。

「世話になったな、カクイ。改めて礼を言う。助かったよ」

 あっさりと、ドライハルは別れの言葉を告げた。

「ああ、お別れだ」

 寂しいな。

「カクイ、ありがとうね。どこかでまた会えるといいね」

「そうだな。縁あれば再会する事もあろうぞ。これから先に何があろうと…」カクイが全てを言い終わる前に、何かの獣じみた咆哮が聞こえた。近い、僕達のやや後ろから、その咆哮が聞こえた。全身が震えるような、底恐ろしい咆哮だった。

「まさか、山主か!こんな所に出るとはどういうことだ?」

 カクイの初めて見せる、驚愕の表情と声だった。

 山主と呼ばれるそれは、大きな大きな獣で、狂ったように咆哮を上げ続け僕達に突進して来た。

 少し離れても、その口から肉の腐ったような口臭がした。


「離れて、逃げろ!」

 カクイの叫ぶような声が響いた。

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