第二十話
謎のエトの山神を敬う男カクイ。ラキ族という名も、山神様がいるとかなんて、僕は初耳だ。確か、長老のドイスムが山神様がなんとかって、言ってたような覚えが少しあるけど、正直わからない。
カクイは僕達の先頭に立ち、先へと行こうとする。おや?と、僕もドライハルも思ったのは、その足が地図とは違う方向へと向かったからだ。
「ちょっと待ってくれ。カクイだったな。そっちじゃない。そこだとエト山越えは出来んぞ。遠回りだ」
カクイはドライハルの手にある地図をひったくった。素早い動きだと思う。僕達はズグーに乗ってるのに、カクイは徒歩で、その高さのあるドライハルの地図を奪ったからだ。しかも、軽々と。
「おい、何するんだ?」ドライハルは、警戒の色を強くした。
「まあ、待て。北の国を目指すのであろう?この地図にこの目印。これだと気候の激しい、エト山を縦断する事になるのではないか?我に任せておけ。ラキの通り道を行く事にする。さすれば、わざわざエト山に登る必要もあるまい」
え!?ラキの通り道って何だ?僕だけじゃなく、そんなのがあるなんて、ドライハルも知らないはずなのに。
ドライハルは険しい顔をしてる。
「何だ、それは?俺はそんなの聞いた事もないぞ」
カクイは涼しい顔をしている。
「里の者は知るまい。我らだけの道である。ここからエト山を越えるには、1週間以上かかるであろう?ラキの通り道を行けば、5日もかかるまい。まだ早くは出来るが、ラキの道を覚えさせるわけにもいかない。少し遠回りするがな。それでも5日あれば大丈夫だ。我らだけの秘密の道でもあるからな」
そう言うと、カクイは地図をドライハルに返した。放り投げたに近かったから、ドライハルは驚いた表情だ。
「この先、他言無用で記す事も許さん。ついて来い」
「おい、俺達は、まだお前を信用したわけではないからな」
ドライハルが困惑するのも当然だ。でも、カクイは徒歩で先に進もうとしている。いや、既に進んでいる。
「山民の歌にあったろう?それを歌うなら、その意味を知っておろう?信じて私について来い」
確かにドライハルは何かの歌を歌ってたけど、その意味なんて知ってて歌ったのだろうか。多分、知らなかったと思うけど。
「ええい、仕方ない。乗りかかった船だ。アッシュ、先を行こう」
そう言うと、ドライハルはサシーをカクイの歩く方向に向けた。え!?大丈夫なの?僕は正直不安だよ。
カクイは振り返って言った。
「山主に食われたくはなかろう?」
山主なんて知らない。でも、ドライハルはカクイについて行くつもりらしい。
「大丈夫かな…心配だよ」
「まあ、俺は俺のじいさんのしてくれた事を信じてみようと思う。役に立つと教えてくれた歌だからな。いざとなれば、元の道に戻ればいい。何とかなるさ」
いつもの自慢げな、ドライハルだった。ちょっと安心した。
先を行くカクイが振り向いて言った。視線が…合ったと思った時にボソッと言われた。
「小さい子よ」
僕の事らしい。「アッシュと言います」まだ名乗っていなかったので、素直に名乗った。
「俺は、ドライハルだ」カクイの後ろに続く、ドライハルも名乗った。
「アッシュよ。その髪に緋色の瞳。お前は…操魔の者か。なるほど、面白いな」
カクイは一人で頷いている。
操魔の者って何だ?僕の事で僕に関係するのか?確かに僕は昔の記憶が無いけど…。カクイは何か知っているのだろうか?
「操魔の者って何の事」素直に疑問をぶつけた。
カクイは一瞬目を細めただけで…
「そうか、自分の事を知らぬか。まあ、これはこれで面白いかもしれぬな。アッシュよ、時が来ればそれが何かを教えてくれるだろう。それが、操魔の血でもあるからな。私からは言えぬ。時が答えを教えてくれるだろう」
…余計にわからなくなった。教えてくれればいいのに。教えて欲しい。僕は自分が何なのか知りたいんだ。
「ねぇ、カクイ…」
「私からは言えぬ」全て言い終える前に、カクイに止められてしまった。
それと、カクイは不思議な事を付け加えた。
「操魔に赤毛の男か…いずれにしても面白い組み合わせであるな。どちらも古の…」
何なんだ?一体?
様子を見ていた、ドライハルは沈黙している。彼にしては珍しいけど。
「先を急ぐぞ」、そう宣言すると、カクイは黙々と歩みを進め、僕達はその後をついて行くしかなかった。
暫く、長い長い沈黙が訪れた。




