第一話<旅立ちの始まり>
遠くに鳥の鳴き声が聞こえる。
ピーチュ ピーチュ ピーチュ
…ここは…どこだ…僕は…
…父うえ…母うえ…僕は…
…会いに…行くよ…僕は…
…だから…教えて…僕は…
…どこへ…行けば…僕を…
…ずっと…待って…僕を…
…いつの…ずっと…僕を…
…どうか…助けて…僕を…
…我を…強く…求め…願え…希望を…見せ…
温かい…温かい光に包まれる…僕は…夢を…?
僕を…呼ぶ声が聞こえる。
「アッシュ、いつまで寝てるんだい?」
アッシュ、そうだ。僕の名はアッシュ。僕を呼ぶのはテルザおばさんだ。
「今行くよ。ちょっと待ってて」
ベッドから飛び起き、軽く身支度を整える。
ここは2階の僕の部屋で、1階からは美味しそうな匂いが漂い、僕は自分が空腹であることに気づく。急いで1階への階段を下り、朝食の載ったテーブルの席へと着く。
「料理が冷めるから、とっとと食べておくれ」
テーブルには丸パンに塗られたバターの香ばしい匂いと、スープのちょっとスパイシーな香りもし、テルザおばさんに急かされるまでもなく、僕は朝食をありがたく頂くことにする。
「そういや、君は、今日で14歳だね。夜は腕を振るって料理をするから、楽しみにしておいで。もちろん、ケーキも手作りだからね」
テルザおばさんが、僕を見るや右目でウィンクする。
「うわぁ、楽しみ。ありがとう、おばさん」
そうか、僕ももう14歳だ。おばさんと暮らすようになって、もう2年の歳月が過ぎていることに気づく。
僕はここ『うさぎの尻尾亭』でおばさんと暮らす前の記憶が無い。町で行き倒れていたのをおばさんが保護してくれていた。
『うさぎの尻尾亭』は、ここ山間の宿場町ラカハナの端にある、宿屋兼飯屋だ。
ラカハナは、町の住人300人くらいと少ないけど、町は多くの観光客や旅人で賑わっている。うさぎの尻尾亭は1階で料理を出し、2階には3部屋ながら宿泊用のベッドのある部屋がある。おばさんは、『うさぎの尻尾亭』の女主人だ。歳は教えてくれないけど、僕が見る限り、おばさんは40代半ばに見える。僕でも女性に歳を聞くのは失礼なのと理解しているので、聞いたことはない。いつも元気で、おばさん目当ての客も多い。やり手の経営者でもある。
宿場町ラカハナ。
背後北側にエスカライア山脈があり、聳える頂のエト山を越えれば、城塞都市国家ディザワイスに行くことが出来る。その為、エト山越えの旅行者は、ここラカハナを利用するのが定例となっている。
僕はラカハナから出たことがないので、主な情報源は、おばさんや旅行者、町の住人だ。
そういや、僕の名前は記憶が無いので、自分で名乗ったわけではない。おばさんが僕を見つけた時に、僕の首にあったペンダントの裏に生年月日と名前が彫られていた。正確には『アシュレイ』だったけど、おばさんも皆からもアッシュと呼ばれている。名はわかったけど、姓の方は何か鋭利なもので削ったのか、刻まれて読むことが出来なかった。得に困ったこともないので、おばさんも僕もそのままにしている。
自然豊かな大陸エストライム。
ここで穏やかに暮らす僕達に、まさかあんな事が起こるのか、とその時の僕を含め、誰ひとりとして知る由もなく、この平穏な日々が、ずっと続くものだと信じていた。




