第十八話
それは地図を頼りに山道を進んだ頃、3日目の事だった。
上ったり下ったりを繰り返し、だんだんと上りが多くなって来た頃だ。エト山の頂が近くに感じられるようになった頃でもあった。
「おい、アッシュ。何やらつけられているぞ」と、ドライハルが小声で声を潜めるように言った。
僕はそれが何かと確認しようと、周りを見ようとしたら「アッシュ、気づかないふりをしていろ」小声で止められた。
何なんだろう、一体。
そんな僕の気を知らず、ドライハルは何やら…歌い始めた。
『キクヤ~ト~カ イスハ~ラウア ナキナキ~』
『キクヤ~ト~カ サライム~アセ ナキナキ~』
『イム イクカ タシ~ナク ダウトライカ~~』
…何を歌っているのか全くわからない。抑揚に乏しい歌だなとは思ったけど。
ドライハルは歌い終えると、懐から何かを出した。紙…のようだけど…
そして、それに火を着けると燃やしてしまった。燃えた紙は、青白い炎となり、頭上へ漂い始めた。炎は人が踊るかのように動いた。炎は段々とそれを小さくし…
その時、近くから何かが音もなく飛び出した。それは、全く音を立てずに、フワっと舞い降りるかのように。
一瞬、獣かと思ったけど、人の成りをしているので、人であるのは何となくわかるけど…どうやら、ドライハルと同年代くらいの男に見える。背丈は長身のドライハルより、やや高い。長い黒髪を後ろで束ねている。切れ長の目が印象的で、何かの毛皮を纏い、背中に弓矢を背負っている。それは話し始めたが、その声は頭の中に直接入って来た。何だ…これは?だけど、怖くは…無い。
『エトの山民の歌を歌う人の子よ。我が名はラキ族のカクイ。エトの山神様を守護せんとするものぞ。ここは今は危険だ。エトの山主がどこかに潜んでいるからな。山主は、人の味を覚えてしまったらしく、この先入った者の命の保証は危うい。引き返せと言いたいところだが、どうやら何か事情でもあるか。仕方ない、安全な場所まで同行しようぞ』
ドライハルが「これは念話だな。俺は初めてだ。そうか、じいさんの話しは本当だったか」
山主とか人の味って何の事だろう?何か危険な動物でもいるのかな?
僕には何が何やらで、頭が混乱しそうだ。
『我らは、エトの山民。エトの歌を歌い、山神様を敬う者を助けるべしと、我らには代々伝えられている。故に、お前たちの力になるものである』
エトの山神様が本当にいるかはわからないけど、それを敬う人が、もしかしたら、もっと多くの人がいるのかもしれない。
でも、どうして、ドライハルは彼らの歌を知っていたのだろう。
もし、それをドライハルが知らなかったら、もしかして、何か大変な事になっていたかもしれない。
「ドライハル、その歌って、どうしたの?」疑問を聞いてみる。
「そうだな。実は、じいさんに教えてもらっていたのだ。俺は信じていなかったがな」
後にドライハルに聞いたんだけど、こんなやり取りがあったらしいと、教えてくれた。




