第十五話
町を背にエスカライア山脈の山道の入り口を目指した。
背後の町が段々と小さくなり、遠くにエト山を感じるようになった。エト山までは、まだ遠い。
暫く道なりに進むと、仮宿『チカサの宿』を視界に捉える事が出来た。更に進む。地図の目印の通りだ。
日が傾きかけた頃に無事、チカサの宿の正面に到着した。
チカサの宿は仮宿なので、本当に簡素な造りだ。歴々の旅人達によって、増改築を重ねたらしい、木造の平屋で屋根は茅葺きになっている。
入り口にズグー達の手綱を固定し、かいばと飲み水を与えて室内に入った。
室内は外観と同様に、本当に簡素だ。隅に質素な寝具があり、部屋の中央には小さな囲炉裏があるくらい。棚には薪木が少しと、少しの炭があった。僕達は自分達で持参してるので、それらは必要ない。今は晩夏だからいいけど、真冬だったら大変だなとちょっと思った。
ドライハルが早速、火起こしをして晩御飯の準備を始めた。
今夜はここで1泊する予定だ。長旅に備え、物資だけでなく、体力も温存しなくてはいけない。
「アッシュ、今夜はまだ携行食の必要は無いからな。ラカハナから持参した食材で簡単な料理をしようと思う」
保存の利く携行食が役に立つには、もう少し先だ。
「ドライハルの料理は初めてだから、楽しみにしてるね」
これから先の楽しみは、食べる事くらい。他に何かあればいいけど、今は何も思い浮かばない。
「明日の朝食は、アッシュだな」
「うん、任せて」
簡単な料理なら、うさぎの尻尾亭で、テルザおばさんに習っている。
「おう、楽しみにしてるぞ。まずは俺の番だな。期待してくれ」
いつもの自慢げな、ドライハルだ。頼もしいと思う。
囲炉裏に掛けられた鍋から美味しそうな匂いが漂って来る。
ドライラルは思っていた以上に手際良く料理を始めていた。
具材は…ラカハナ名物のキルザを使った、キルザ鍋だ。キルザは、ラカハナで育てられている野菜で、その鍋は名物料理になっている。生でも食べれるけど、火を通したキルザは、風味も増し、食べやすい。僕はテルザおばさんの作るキルザ鍋が大好きだったから。
「良い匂いがするね。美味しそう。ドライハルが料理するのって、意外だよ」
ドライハルはちょっと困ったような顔をして「まあ…な。こういう時のために、ウチで働いてもらってる、ダッタに習ったからな」
ダッタとはギルモンド家で働く使用人夫婦の女性らしかったが、僕は会った事がない。
「そうなんだね」
「味は自分で言うのもなんだが、保証してやろう。お、そろそろだな。まあ、食え」
ドライハルが器によそってくれたので、僕はありがたく、それをいただく事にした。
「いただきます」
「おう」
ドライハル自慢の料理は、器に夢中になるくらい、美味しかった。何回もおかわりをしてしまうくらい。
「美味しいよ、ドライハル。お店で出せるくらいだよ」
そんなやり取りをして、その日は簡易寝具に横になり、眠りについた。




