第十四話<旅立ち>
町の中心にある広場には、既に多くの住人が集まっていた。
広場の中心には、台座のある石像があって、男が天に大剣を掲げているが、僕はそれが誰かは知らない。
この広場を北に町を出れば、エスカライア山脈の入り口まで数刻だ。
囁きやざわめきにも近いものが聞こえる。歓声のようなものまで聞こえた。
僕とドライハルは、ギルモンドの別宅で既に出立の準備は終えているので、後は旅立つまでだ。今は最後の挨拶を広場で終えれば、いよいよ出立だ。
そん中で僕は年配のある一人の女性を初めて見かけたが、会話の内容を聞くと、ドライハルのお母さんらしかった。ドライハルと同じで綺麗な赤髪だったからだ。ギルモンドの屋敷でも別宅でも見かけた事はなく、二人はこんな会話を交わしていた。
「本当に行くのかい、ドライハル。お父さんを亡くし、あなたはギルモンドの家を継いでもらわないといけないのに。本当にわかっているのかい?徴兵に応じるという事は、それは戦争の為に戦って、もしかしたら、人を殺すことになるかもしれないのよ。それに、あなた自身が命を落とす可能性もあるのよ。ディザワイスまでの道程も、エト山擁する、エスカライア山脈を縦断する事になるわ。決して楽な道程じゃないのよ。どうして、あなたが…」
話しを受けた、ドライハルは、一瞬表情を曇らせた気がしたけど、それを振り払うかのように言った。
「心配ない。徴兵は、あくまで形式で、戦争なんてありえないと言われてる。母さんが心配してるような事は起こらない。大丈夫、任期を終えたら、帰って来るから。もっと、強くなって帰って来る。約束する」
ドライハルの表情を伺うようにしていた、ドライハルのお母さんが…
「そうね。もう変わらないのね。あなたは子どもの頃から、そうだったから。一度、こうだと決めた事は、変えないし、諦めない子だったわ」
そこで僕に話しが振られるとは、予想していなっかった。
「なあ、アッシュ。お前からも言ってやってくれ。母さんは過保護だから、大丈夫だと言ってやってくれ」
正直に困った。ドライハルは僕に何を期待してるんだろう。今の僕に何が言えるんだろう。その動揺が隠せずに言葉に出てしまった。
「だ、だい、大丈夫です。僕達には、ツシールもサシーもいるし、ドライハルを信じてあげて下さい」
「ツシールにサシー?」
ドライハルのお母さんは、怪訝な表情で僕を見詰める…睨まれた気がした。
「母さん、俺達のズグーの事だよ。本当に心配性だな、全く」
意外にも真剣な顔のドライラルだった。当たり前だ。自分の母親であり、大事な家族なんだから。僕にはいないみたいだけど。
様々な会話や憶測が飛び交い、いよいよと出立の時が迫っていた。
エスカライア山脈の入り口である、旅人達が作った最初の仮宿『チカサの宿』までは、今日中に行かなければならない。
遅れを取っては、全てが台無しになる。ゆっくりともしていられない。
「皆、今日はありがとう。じゃあ、行って来るよ」ドライハルが宣言するように言った。
ドライハルの言葉に続けた「皆さん、行って来ます」
そう言い、二人して自分達の相棒である、ズグーに跨り手綱を握った。
そういや、テルザおばさんを見かけていないな。ドイスムも姿を見ないな。見送りに来てくれるものだと思っていたのに。そう思った時、遠くから声が聞こえた。
「アッシュ、行っておいで。気を付けてね」テルザおばさんが駆けつけて来た。
「おばさん、行って来ます」
「それと、これも持って行って」
おばさんに渡されたのは、何やら紐を通し首から下げる小袋のような物だった。
「お守りだよ。持って行きな。きっとあなたを守ってくれるから。旅の無事を祈り、願いを込めながら作ったからね」
お守りを受け取り首に掛けた。おばさんの手作りだ。小袋に何が入ってるか知らないけど、微かに良い香りがする。嬉しい。
「ありがとう、テルザおばさん。行って来ます」
「ああ、行っておいで。帰りを待ってるよ」
それを最後の会話にして僕達は旅立った。
ツシールとサシーが声高く鳴いた。
『キュイー』




