第十三話
晩夏が終わりを迎えようとしていた。
今年は例年に比べると秋の訪れが早いらしく、初秋の風の匂いがした。
ギルモンド家の別宅へ向かった僕は、真っ先にツシールに会いに走った。出立を控え、じっとしてるのが辛くなって来たのからかもしれない。明日の出立を控え、気持ちがちょっと重くも緊張があるのが自分でもわかった。
別宅に到着するや、思いっ切り指笛を吹いた。空き地に高らかに指笛が響く。今や指笛はお手のものだ。ドライハルの指笛にも負ける気がしない。ツシールが跳ねるように近づいて来た。
「ツシール、こんにちは。でもね、今日はお休みなんだ。明日から、よろしくね」
そう言うと「キュイー」と鳴いて、返事をしてくれた。
今日の目的は、明日に控えた出立の最終確認で、ドライハルとの打ち合わせだ。事前に計画し、話しもしているので念の為だ。
玄関扉に声を掛ける。
「ドライハル、アッシュです。最後の確認に来ました」
「おう、良く来たな、アッシュ。これが最後の打ち合わせで、明日は本番だ。お互い、漏れのないようにだな」
「うん、よろしくね」
ギルモンド家の別宅には、旅の荷物が全て置かれている。殆どはドライハルが用意してくれたもので、僕の用意した荷物はそんなに多くない。
「写しの地図は持って来たか?」
僕は事前にドライハルが用意した地図を写し持っている。ドライハルに言われた事でもあって、もしもの時の為に、地図の目印を含め、記された全てを暗記しておくように言われていたからだ。この旅の命綱になるかもしれない、大事で大切な地図だ。これが無いとエト山擁するエスカライア山脈縦断は不可能に近い。
「もちろんだよ。ちゃんと暗記もしているよ」
「そうか、そうだったな。俺達は旅の仲間だ。スシーもツシールも含めて、俺達は家族のようなもんだ」
「そう…だね。僕もそう思う。正直、ちょっと怖いけど、よろしくね、ドライハル」
「おう、全て俺に任せておけ」
どこまでも自慢げなドライハルだった。
そして、今まで通りであるが、短い打ち合わせを終えた。
今まで散々やっているので本当に最終確認だ。
「俺の方は問題無い。まずは食料だな。干し肉に乾パン。水も大丈夫だ。3週間の道程でも大丈夫だ。勿論、ズグー達の干し草もな。それが4週間になろうと大丈夫だ。水は途中の川と湖で補充するが、場所に抜かりはない。全て地図に記されているからな。それに衣料品に簡単な薬もある。残りは、アシュレイ、お前だけだ」
僕も大丈夫だ。食料はドライハルにお任せだけど、自分の衣料品にそれと、テルザおばさんからある物を受け取っている。
「僕も大丈夫だよ。それとこれを見て」
そう言い、おばさんに渡された物の入った袋を差し出した。
ドライハルは袋を開け、少し匂いを嗅ぐと…
「お、これは、ラカの携行食だな。テルザさんか。こいつはありがたい」
袋は2袋あり、入っているのはラカの実の携行食料だ。
ラカはエスカライア山脈に群生する広葉樹で、晩秋にその実を落とすので、晩夏に手に入れるのは貴重であり、高価で大変。すり潰してペースト状にして板状に押し固めて乾燥させて、一口サイズにしたものだ。『飢え知らずの実』とも言われ、栄養価が高く腹持ちも良く、保存性も高く、旅の携行食として有名だ。独特な個性的な匂いと味がする。
「そうだね。おばさんには本当に感謝しかないよ」
「よし、準備万端だ。明日は予定通り、早朝ここに集合だ」
「改めて、よろしくね、ドライハル。じゃあ、僕は一旦帰るから」
「そうだな。じゃあな」
簡単に挨拶を交わし、うさぎの尻尾亭に帰ろうとした、その背中にドライハルが言った。
「アッシュ、その短剣似合ってるぞ」
嬉しかった。おばさんに貰った短剣が褒められて、自分の事以上に嬉しかった。
明日の出立を目前にして。




