第十一話
風が気持ちいい。
最初は恐る恐るだったけど、ズグーに乗るのがこんなに気持ちの良いものだとは、想像していなかった。ズグーに乗るのって、こんな気持ちになれるのか。それにツシールの体温が温かく、心地いい。ほっとする。
道程を想定として平地だけではなく、岩場でも同様の特訓をした。
何しろ僕たちが目指すのは、城砦都市ディザワイスであり、エト山擁する、エスカライア山脈を越えなくてはならない。楽な道程ではない。
ギルモンド家の別宅の裏には開けた空き地があり、そこで僕のズグー乗りの特訓は始まり、事は順調に進んだ。相棒であるツシールとの関係も良好だ。
歩く、走る、跳ねる。ツシールの気持ちがわかるかのようだった。相性って、本当にあるんだなと思った。
特訓は続いて、今日で7日目で旅立ちまであと半週間だ。
「ようし、ツシール。ちょっと休憩しようか」
ツシールは、キューイと鳴いて動きを止める。そして、脚を曲げて僕が降りやすいようにしてくれた。
「ありがとう。ツシール」そう言うと、ツシールは頭を摺り寄せて来た。
ツシールのつぶらな瞳が僕を見詰めている。優しそうな瞳だ。
特訓の様子を見守っていた、ドライハルが言った。
「だいぶ慣れて来たようだな、アッシュ。なあ、俺の言った通りだろう?」
いつも自慢げな、ドライハルだ。
「ズグーに乗るのは、ツシールが初めてだけど、ドライハルの言う通りだよ。本当に大人しいんだね」
「そうだ。それに、ズグーは、頭の良い生き物だからな。人と心を通わす事も出来る。だから、こうやって、重宝されるんだよ」
その通りだと思った。ツシールは大人しく、人懐っこいだっけではなく、頭も良くて僕の言葉がわかるかのようだったからだ。しかも、その運動能力は、僕の聞いて知っている以上で、力強く俊敏でもあった。
その時、ドライハルはまた自慢げに言うのだった。
「俺の準備も万全だ。今日はこいつらを紹介しなくてはな」
そうだ。実は僕もそれが気になっていたんだ。ドライハルが2頭の僕の知らない、ズグーの手綱を握っていたからだ。
「紹介しよう。こっちの角が欠けたのが、カシュで、こっちのちょっと小さいのが、タシュだ」
同じズグーでもツシールとサシーとはちょっとどこか違う。でも、2頭はそれぞれに、どこかが似ている気もする。そんな僕の考えをドライハルは読んだようだ。
「こいつら兄弟でな。カシュが兄で、タシュが弟だ。俺たちの旅の荷物を運んでもらう予定だ」
そうか、そうだったんだ。だから、どこかが似ていると思ったんだ。
「カシュ、タシュ、よろしくね」
そう言うと、同じように同時にキューイと鳴いた。
「アッシュ、出立まで半週間だ。そろそろと思うので、ズグーについて大切で重要な事を教えようと思う。角だな。ズグーの特徴である、2本の角だ。絶対に握るんじゃないぞ。ただし、本当に危険な時には握ってくれ。俺は握った経験は無いが、聞いたところによると、角を握られると、ズグーは隠れた能力を発揮するらしい。それがどうなるかわからないが、2本の角を同時に握られたズグーは、我を忘れ、主を助けるとも、主を全てを巻き込む破壊の権化と化すらしいかもしれないと。だから、本当に危険な時だけだ。忘れないでくれよ」
真剣な、今までにない真剣な表情でドライハルは言った。
「わかった、覚えておくね」先に言って欲しかったなと思ったけど。
そんな、ドライハルの言葉だったが、僕はあの時になるまで信じていなかったというくらいに、軽く捉え、忘れていた。
そう、あの時になるまでだ。大人しく穏やかなツシールがあんなになるとは想像せずに。
そして、その日の特訓を終え、うさぎの尻尾亭へと帰路に着いた。




