第十話
ドライハルの長老の別邸を後にして、うさぎの尻尾亭に戻った。
「どうだった?順調かい?」
テルザおばさんが真剣そうに、僕の顔を覗き込む。
「うん、順調順調。明日からズグー乗りの特訓だけど、大丈夫だと思うよ」
ツシールの優し気な瞳を思い出す。
「そう、じゃあ、晩御飯を食べたら片付けはいいから、気持ちの整理をするといい」
「そうだね。おばさん、ありがとう」
そう言い、晩御飯を急いで食べて自分の部屋に向かった。
少しの緊張と恐れの混じった、複雑な気持ちのままで。ベッドに横になり、うつらうつらとしていたら、眠りに落ちた。
…我を…強く…求め…願え…希望を…見せ…
…さすれば…そなたの…力と…我は…助けと…なるであ…
…我は…希望の…なりて…そなたの…希望を…叶え…
夢か…また僕は夢を見ていたらしい。以前に見た夢のようだけど、ただただ頭の中に不気味な声が響くだけだった。見えるものは一切なく、僕は夢の中で、黒い靄のようなもので包まれていた。
何なんだ一体。気づかず薄っすらとであるが冷や汗をかいていた。
変な夢を見たせいで頭が少し重い。1階に降りて洗面所で顔を洗った。少し気分が晴れたような気がする。
「おはよう、アッシュ。良く眠れ…なかったのかい?」
「ちょっとね。大丈夫。テルザおばさん、ありがとう」
心配させるといけないので、本当のことは言えない。
「朝食の準備は出来てるから、まずは腹ごしらえだ。たくさん食べておくれよ」
おばさんの手料理は、優しい味付けで美味しいので大好きだ。
「遠慮なくいただきます」
「召し上がれ」
そう会話を交わし、僕は夢中で朝食を食べた。お腹に入れた事もあり、不安な気持ちも和らいだような気もする。
「ごちそうさま。じゃあ、行って来るね」
「ああ、行っておいで。ズグー乗りの特訓だったね。無理して怪我するんじゃないよ」
「大丈夫、大丈夫。ドライハルもいるし、ツシールは大人しいから。それに僕はもう、ツシールが大好きになったんだ」
「ツシールって、何だい?」
「僕のズグーの名前だよ。優しい目をしたズグーなんだ」
おばさんは、ちょっとほっとしたかのようである。
「じゃあ、大丈夫だね。行っておいで」
「うん、行って来ます」
ギルモンド家の別宅は町のやや端だが、今から行けば昼前には着ける。肩に掛けた鞄には、おばさんが用意してくれた、お弁当が入っている。前に通った通りの道を進み、予定通り昼前には別宅に着いた。特訓は昼過ぎからなので、前庭にある椅子のような石に座って、お弁当を食べて人心地ついた。
「おう、アッシュ。予定通りだな。うん、関心関心。じゃあ、始めるとするか」
そう言いながら現れたのは、ドライハルである。ドライハルが指笛を吹くと、ズグーがすっと現れた。ツシールの子、サシーだ。
ドライハルみたいに吹けないけど、僕も指笛を吹いた。音もなく、ツシールが現れた。
「良かった。来てくれたんだね、ツシール。嬉しいよ」
そう、ツシールに話し掛けると、「キュイー」とツシールとサシーが、示し合わせたかのように鳴いた。
「よろしくね、ツシール」
そうして、本格的な特訓が始まった。




