第九話<相棒>
ズグーは基本大人しい動物だ。俊敏で2本の角がその特徴でもあった。4足歩行であり、背丈は人間の大人より、やや大きい。全身には体毛があって、暑い季節は栗毛色の短毛で、寒くなると銀色の長毛になる換毛種でもあるらしい。
僕はこれから出発までの2週間で、ズグーを乗りこなさないといけない。だけど、大きかった。知ってはいたけど、目の前のズグーは僕の知っている、うさぎの尻尾亭の客の連れるズグーや町でたまに見かけるズグーより一回り大きい。つぶらなつぶらな瞳がじっと僕を見詰めている。
実はこんなやり取りがあった。
朝の内に荷をまとめて、まずはドライハルの家である長老の家に向かったのだ。それを僕と当の本人以外は知らない。
「こんにちは。アッシュです」少し遠慮気味に門扉向かってに言った。
反応は直ぐにあった。
「おう、アッシュ。来たか。心の準備はいいようだな。早速だが、ズグー乗りの特訓をするぞ」
「うん、よろしくね」
「任せておけ。じいさんの別宅に預けてあるから、まずはそこに行こう」
ドライハルは、何故か自慢げにそう言った。その後を町のやや端にある別宅に向かってついて行った。僕は知らないので、初めて訪れる場所だ。
そして、その自慢げな理由が、広々とした平屋造りの別宅の前庭にいた、目の前の大きなズグーだった。ドライハルは、その手綱を握っている。
「ねえ?ドライハル?その…ちょっと大きいよね?僕の知ってるズグーより大きいんだけど?」
大きなズグーの手綱を握ったドライハルは、やはり自慢げに見える。僕がおかしくて間違っているのだろうか?
「うんうん、大きいだろう?ここまで大きなズグーは、中々いないぞ」
やはり、自慢げである。
「いや、大きいよ。というか、大き過ぎない?僕にこんな大きなズグーを乗りこなせると思っているの?」
ドライハルは何やらニヤニヤしている。そして、こう言った。
「ズグーはな。相性ってものがあって、ズグーは人の…そうだな。人の良し悪しを読む動物なんだよ。だから、大きさは関係ない。俺が思うに、お前なら大丈夫だと思うぞ。それに、ズグーは大きければ大きい程に乗り心地は良いのだ」
そう言い、ドライハルは『ピュー』と指笛を吹いた。その時、大きなズグーの後ろから、一頭のズグーが現れた。そのズグーは頭をドライハルにピタッとくっつけている。
「こいつに先に懐かれてしまってな。これは子でその大きなズグーは、こいつの親なんだよ。だから、一緒がいいと思ったんだ。こいつの名はサシー。大きなやつは親のツシールだ。呼んでやれよ。喜ぶと思うぞ」
ツシールと視線が合った。よく見ると、優しそうな瞳が僕を見詰めているのがわかる。
恐る恐る「ツシール、僕はアッシュ。これからよろしくね」
つぶらな瞳が笑ったかのように見えた、瞬間にツシールは「キュイー」と鳴いた。か、可愛いな。ツシールは頭を摺り寄せて来る。本当に可愛い。それに寄せた頭の体温が温かい。心からそう思った。これならきっと大丈夫。晩夏で出会った、ツシールの全身は栗毛色の短毛で覆われていた。
「じゃあ、特訓は明日からだな。また昼過ぎにここに来い」
「わたった。よろしくね、ドライハル。それと、ツシールもよろしくね」
ツシールは理解してくれたのか「キュイー」と一声鳴いた。
そんなこんなで僕のズグー乗りの特訓が始まった。それがこれからの相棒とも言える、ツシールとの出会いでもあった。




