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ひまわりの王国  作者: 若隼士紀
第一章 花嫁選び・第二日
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1.カロラング・アンティオ王国王太女・エレオノーレ

 うぁぁ…眠い。

 あたしは何度目かの欠伸をかみ殺す。


 「エレオノーレ様、はいっ!息止めて!」

 アンナが気合の入った声で言い、あたしはできる限りお腹を引っ込めて息を止め、拷問のような締め付けに耐える。

 アンナは渾身の力をこめて、紐を締め上げた。


 誰だコルセットなんて考えたの…

 あたしは「もういいですよ」というアンナの声にふうーっと息を吐く。

 他の侍女たちがさっと駆け寄ってきて、ドレスを着せにかかる。


 「ねえ、あたしの番は午後の一番最後でしょう?

 なんでこんなに早くから準備しなきゃいけないのよ…」

 あたしは背中のたくさんのボタンをかけているアンナに訊く。


 まだ正午回ったばかりだよ?!

 王侯貴族にとっちゃ、まだ暁闇じゃないの…


 アンナは上から下までボタンをかけ終わると、人払いをして侍女たちを皆下がらせた。

 あたしの手を取って鏡台の前の椅子に座らせ、あたしの金の髪をそっとくしけずりながら「今朝早くに通達があったんですよ」と言う。


 「第二王子の婚約者であるエレオノーレ様の謁見の順番は最後の予定だけれど、王様のお身体の調子を鑑みながら他国の王女様方と謁見なさるので、もしかしたら王様のお加減次第では予定時刻より早まるかもしれないと」


 そんなに王様のお加減はお悪いんだ…あたしは唇を噛む。

 まだ年若い第二王子の縁談まで急いでまとめようとしている、この国の事情が垣間見える。


 「王様は、この度のオズワルド王子様とエレオノーレ様のご婚約を殊の外お喜びのようですよ。

 オズワルド王子様付きの従僕のルウェリン殿がおっしゃっておられましたわ」

 ま、当然ですけどね、とアンナは自慢げに呟く。

 

 「カロラング・アンティオ王国と言えば、この国と同じかそれより強大な国でございますからね。

 その大国の王太女様とご結婚できるなんて、第二王子としては身に過ぎた幸福でございますよ」


 こらこら。

 いくらここに人がいないからって。

 あたしは鏡に映るアンナのドヤ顔に向かって「それは言い過ぎよ、アンナ」と嗜める。

 アンナは鏡越しにぺろっと舌を出してみせた。


 「昨夜、初めて会ったけど、良い人そうだったよ」

 あたしはオズワルド王子の、如何にも人の好さそうな笑顔を思い出しながら言う。

 少なくとも、あのエセルバート王太子よりは、ずっとずっと良い人そう。


 「それは宜しゅうございました。

 まあ、ちょっと頼りなさそうな印象がありましたけど、気の強いエレオノーレ様にはああいう従順そうなご夫君が良いんでしょうね」


 アンナはさらっと失礼なことを言う。


 王様の謁見が始まったようで、廊下をざわざわと歩く賑やかな声がひっきりなしに聞こえる。

 

 昨夜の舞踏会、たくさんのお姫様方が来てたもんなあ…

 あれ一人ひとりに全部会うって、結構大変だよね。

 序列とかも煩そうだし。


 もし、フェルディナンド兄様が生きていらしたら。

 我が国にもあんなに大勢のお姫様が来て、花嫁選びをしたのかな。

 そうしたらお父様も、もう少しお元気で溌溂としておられたかしら。


 「…少し、お食事をなさいますか」

 アンナが気づかわしげに声をかけてくる。

 「こんなに締め付けられて、何も食べられるわけないじゃない」

 あたしは顔を上げ、強いて呆れたような声で言う。


 鏡に映るあたしの金色の髪は、アンナとヘアメイク専門の侍女によって美しく高々と結い上げられていた。

 宝石を散りばめたティアラを姿よく飾り付けて、アンナはほーっとため息をつく。

 

 「昨夜より(まさ)って、お美しゅうございますわ。

 じゃあ、お飲み物だけでも召し上がってくださいまし」

 侍女が綺麗な装飾ガラスの水差しに入った、甘い飲み物を持ってくる。

 あたしは少しだけ口をつける。


 アンナは先ほどに続いてまだ文句を言いたいようだ。

 あたしのドレスを形よく見えるようにあちらを引っ張りこちらをたくし上げて整えながら、小さな声でぶつぶつ言っている。


 「カロラング・アンティオ王国の王太女様ともあろうお方が、いくら第二王子の婚約者とは言え、一番最後に謁見だなんて…

 こんなに軽んじられるなんてことがあっていいものかしら」

 

 「まあ、いろいろと事情があるんでしょ。

 仕方ないじゃないの、オズワルド様との縁談で我が国はこの国の強大な軍事力の恩恵に(あずか)ることができるのは確かなんだから」

 あたしも小さな声で諭す。

 

 「それは…解っておりますが。

 私はあの人見知りのエレオノーレ様が、どれほどの勇気を奮い起こしてここに座っていらっしゃるのかを存じておりますので、ついいろいろと愚痴りたくなってしまうのでございます」

 

 アンナは悔しそうに零す。

 あたしは薄く笑って、「ありがとうね」とアンナの手をポンポンと叩いた。


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