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ひまわりの王国  作者: 若隼士紀
第一章 花嫁選び・第一日目
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6.カロラング・アンティオ王国王太女 エレオノーレ・2

 「純情な弟を、あまりからかわないでいただきたいですね。

 どこぞのド田舎でお育ちになった貴女と違い、この王宮で純粋培養された、それは心が綺麗で繊細な男ですので」

 頭上で皮肉っぽい声が聴こえ、あたしは咄嗟に身構える。


 王太子のエセルバート王子が、その端正な顔に小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、ガラス窓に背を預けて腕を組み、こちらを見ている。

 見た目だけは、悔しいけどすっごくカッコいい。

 こんなに容姿端麗な王子っているんだ、とビックリした。


 お兄様がよくおっしゃっていた。

 「エセルはとても見目美しいのだよ。

 同性の私でも見惚れてしまうことがある。

 機会があったら、ぜひそなたにも会わせたい」

 

 だけど侍女のアンナは「フェルディナンド様より美しい王子なんているわけがない」と言っていたし、あたしもそう思っていた。


 「兄上…」

 オズワルド王子が困ったように呟く。


 あたしは、挑戦的に瞳をきらめかせて長身のエセルバルド王子を見遣る。

 悪口の応酬なら負けないわ。

 日ごろ、口の悪いアンナに鍛えられてるからね!


 「ご忠告、痛み入ります。

 宮殿の外で野生児のように粗雑にお育ちあそばされた、揶揄の上手な方のお言葉は、逆に重みがございますわね」

 立ち上がって優雅に頭を下げ、また腰かけて、今度はオズワルド王子の方を向く。


 「わたくしも王宮深くに匿われるようにして大切にされて育って参りましたので、オズワルド殿下とは初対面とは思えず、とても親近感を覚えますの。

 もっとお親しくお近づきになりたい気持ちが(まさ)って、はしたない言動がございましたのなら謝罪申し上げますわ」

 

 オズワルド王子に少し近づき、にこっと微笑む。

 オズワルド王子は「エレオノーレ姫…」と顔を真っ赤にして、あたしの手を取った。

 

 あたしはちらっと横目でエセルバート王子に視線を走らせる。

 王太子は呆気にとられたようにあたしを見て、それから悔しそうに唇を噛む。

 ほほほ、ざまみろ。


 そこへ「エセルバート様!こんなところにいらしたのね!」とけたたましい声が聴こえて、何人かの着飾った若い貴婦人がなだれ込むようにテラスへ出てきた。


 「どこに行かれてしまったのか、お探し申し上げましたわ!」

 「大広間に戻っていらして!わたくしと踊ってくださるお約束ですわよ!」

 と我先にエセルバート王子の腕や身体に触ろうとする。


 うへえ…

 あたしはげんなりした。

 たーいへんだな、花嫁探しの王太子も…


 「はは、それは申し訳ない。

 少し風にあたりたいと思いましてね。

 さあ、お次はどなたでしたか?」


 エセルバート王子は人を逸らさぬ甘やかな笑顔と爽やかな口調で言いながら、取り巻く女性たちを引き連れて大広間に入っていった。


 おいおい、目が笑ってねえぞ。

 あたしは心の中でツッコむ。

 どうやら、王太子の本質はあたしに向けられた厄介な皮肉屋の方のようだわね。

 

 「エレオノーレ姫、申し訳ありません。

 兄上は、いつもはあんな物言いをなさる方ではないのですが…

 ご気分を害されましたか」

 と、あたしにずいぶん近づいてきたオズワルド王子があたしの顔を覗き込むようにして言う。


 あたしは小さく首を横に振り、オズワルド王子の綺麗な瞳を見つめながら答えた。

 「王太子殿下も、オズワルド様がご結婚なさってこの国をお離れになることに、きっとお寂しかったり、お気になることがたくさんおありになるのでしょう。

 わたくしは何も気には致しておりませんわ」


 オズワルド王子は、ほーっと息をついてうつむく。

 「私は、今日まで、カロラング・アンティオ王国に婿入りすることも、この国を離れることも嫌で嫌で仕方ありませんでした。

 敬愛する兄上をお助けすることに繋がると思い、承諾しただけでしたから…。

 しかし、今日、貴女にお会いして考えがまったく正反対になりました」


 顔を上げて、あたしの左手を取り、指の先にそっとキスする。

 「私は、貴女の夫になって貴女の国に行けることがとても楽しみになりました。

 美しく聡明な貴女の傍にずっといたいと、思ったのです。

 貴女と共に、これからの人生を歩んでいけることを嬉しく思います」


 あたしは、男の人からこんなことを言われるのが初めてで、舞い上がるような恥ずかしいような気持ちを持て余す。

 とりま、アンナに言われた通り、瞳を潤ませ「嬉しゅうございますわ…」と呟く。

 オズワルド王子は、はにかんで目を伏せた。


 王子の従者が持ってきてくれた、冷たい飲み物と食事を二人で摂る。

王子はなにくれとなくあたしに気を遣ってくれて、あたしは侍女以外の他人と二人で食事するなんて初めてだったけど、楽しく食事をすることができた。


 なんか良さそうじゃん、この人。

 優しくて思いやりありそうだし、自我が強くなくて御しやすそうだし。


 とりあえずあれだな、第二王子をその気にさせて無理にでも我が国に引っ張ってこい、というお父様からのミッションは達成できたかな。

 

 グッジョブ!あたし!


 オズワルド王子が、エセルバートみたいな性格悪いやつじゃなくって本当に良かった。

 

 お兄様のエセルバート評は間違ってるわ。

 国民のことを一番に考える、頭が良くて気骨のある頼もしい男だよ、とおっしゃっていた。


 そういえば、面倒くさがりで子どもみたいなところもあるけど、ともおっしゃってたな。

 そこは…どうなんだろう。


 このバカバカしいほど盛大な宴が終わって帰国した後も、王太女としてアイツと会う機会は増えるんだろうなぁ…

 マジで憂鬱。


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