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第三のローマ~ テルティウス=ローマ  作者: 八島唯
第1章 カスティリヤ王国からの使者
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『知識は力なり』

 壁に埋め込まれた本棚。いくつもの段になり、大きさや厚さがまちまちの本が並んでいた。

 エスファーノは驚く。かつて学問を修めていたトレドの大学でも、これほどの蔵書を見たことはなかった。

「我々の祖先は、『ローマ』からそして、コンスタンティノープルを出奔するとき多くの本を持って旅立った。医学、化学、文学、歴史学......それらはありとあらゆる分野に及ぶ。どんな金貨よりも、宝石よりも、祖先たちはそれを第一と考えたのだ」

 そう言いながら、ローブの懐から一枚の紙をリウィアは取り出してテーブルの上に広げる。

 黒く変色した紙、というよりは布のように見えた。エスファーノは目を凝らす。ラテン語らしき文字が見えた。

「これはパピルス。他にも羊皮紙やさまざまなものに我々の祖先は知識を記した。現在でははるか東方から伝来した『紙』に取って代わったが」

 すっと指でその文字の上をなぞる。

「『知識は我が魂なり。知識は力なり。知識はローマを再び帝国たらしめん』、と」

 リウィアはその文字を、韻を踏んで朗読する。

「祖先たちが到達したこの『ローマ』の遺跡はただの廃墟だった。土は荒れ、水は枯れ不毛の地が広がっていた。まずは水。井戸を掘り、そして遥か彼方の水源から地下を通じて水道を引き――ゆっくりとした営みであったが、それはローマの土木術をもとに行われた。土壌の改良、そしてこの地にあった農作物の品種改良を行う。塩湖から水を引き都市の域内に大きな人工湖も作った。そこでは海の魚を養殖し、我々の食卓を潤した。全ては先人たちの知識が元となっている」

 リゥイアはそう言いながら、テーブルの上に鉄の棒をコツンと載せる。

「――無論、ただ過去の遺産を食いつぶしていただけではない。それを発展させまた、多文化の知識を導入するにやぶさかではなかった」

 エスファーノは、目の前に置かれた鉄の棒をじっと見つめる。二の腕ほどのもない長さ。取っ手みたいなものが棒についている。ここを握って攻撃する混紡みたいなものだろうか、と想像する。

「これはその一例だ」

 リウィアはその棒を手に取り、なにやらいじり始める。金属音が響き、最後にカシャッという音が聞こえた。

 それを両手で構え、エスファーノの背後にその棒の先端を突きつける。

 少しの沈黙。

 そして大きな音が響き渡る。何かが破裂したような――エスファーノは予期せぬ出来事に、身をかがめる。

 部屋の奥を指差すリウィア。エスファーノはそれを見る。そこには粉々になった、なにか花瓶だろうかその破片が散らばっていた。

「もう一度」

 同じく、爆音。

 今度はエスファーノの眼の前で隣の花瓶が破裂する。

 エスファーノはあっけにとられる。魔術か、とも。

 そんなエスファーノの心中を察してか、リウィアはその棒から『魔術』の種明かしを取り出した。

「これは『弾丸』。金属でできている。弓で言うところの矢になる。違いは人間の力ではなくて、『火薬』の力で押し出して命中させていることだ」

 『火薬』、という初めて聞く単語。

「はるか東の彼方、『トウ』という国で発明されたらしい。我々はそれをイスラーム教徒より入手した。これはいくつもの砂を配合し、火の気があると爆発するという特徴を持っている。そして『トウ』ではこの『火薬』を使って槍を飛ばし、戦闘に使っているということも知った。それを小型化したのがこの、『アルテミスの弓』という武器になる」

 エスファーノは思い出す。先日野盗と戦った時に、兵士たちが使っていたこの武器を。

「差し上げよう。後で使い方もお教えする。お互いの親交の証として」

 すっと『アルテミスの弓』を目の前に差し出す。それをじっと見つめる、エスファーノ。

「これから、本番の宴が待っている。あまり会いたくもない連中もいるが。副大使殿を正式に紹介せねばいけないしな」

 そう言いながら、困ったような顔をリウィアは浮かべる。

 エスファーノは決心する。一番気になっていたことを、リウィアに聞いてみることを――


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