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第三のローマ~ テルティウス=ローマ  作者: 八島唯
第1章 カスティリヤ王国からの使者
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元老院の祝福

 荒れ地の中を行く一隊。

 先頭を行くのはリウィアとエスファーノの騎馬である。それ以外の兵士たちは、鎧と盾を持ち、そして槍を掲げ一糸乱れぬ行進で進んでいく。エスファーノは思い出す。それは、古代のローマ軍団の凱旋の様子を描いたタペストリーである。

 いくつもの丘を越えて、一隊は大きな崖に突き当たる。自然の風雨に削られ、その壁面は波打っていた。

 リウィアは馬から降りると、崖に近づく。

 そしてなにやら、金属の棒のようなものを取り出しそれを崖の壁面に差し込む。

 少しの沈黙。

 その後に、大きな振動音が辺りに響きなんということか崖の壁面の一部がゆっくりと口を開ける。

 指揮棒でその穴をリウィアは指差す。

 洞窟に誘われる一行。

 エスファーノはゆっくりと馬を進めた。以外に広い洞窟――それは明らかに人間の手が入っているように思われた。武装した兵士が、隊列となって進むのに支障がないように工夫されている。

 段々と広がっていくその空間。

 目の前に大きな光の空間が広がる。

「ここからが我が『ローマ』の領域となる。乗馬のままで構わない。これは『凱旋』の儀式であるから」

 リウィアがそう、エスファーノに耳打ちした。

 空から、太陽の光が目に入る。

 眩しい。どうやら洞窟の外に出たらしい。

 目がなれ、ゆっくりと視界が広がっていく。

 そこに浮かぶのは――眼下に広がる白い町並み――それは正しく『ローマ』の街の姿であった。


 広い路地を行く一隊。路地は石畳で舗装され、その幅は馬車が数列行き交うほどの広さである。

 そしてすごい人波。故郷、かすテリィや王国の首都のトレドでもこれほどの賑わいを感じたことはない。

 驚くべきはその服装である。

 ギリシャ悲劇で観るような長いローブのような衣服をまとった人々。そして、雑踏から聞こえてくるのはまさに古典ラテン語、そのものであった。

『一見は百の言葉に勝ろう。よろしい。われわれの町に招待しよう。永遠の都『ローマ』に』

 リウィアの言葉をエスファーのは思い出す。そう、ここは間違いなく『ローマ』であった。かつて大学で学んだ古代ローマの街並みの中に、自分がいることを確信する。

 一隊は大きな門をくぐり、整列する。

 リウィアは右手を大きく上げ、その様子を見ていた民衆に答える。

 民衆からの大きな歓声。

『万歳!我らが元首!ローマ帝国の共和政永遠なれ!』

 ゆっくりと一隊は丘を登り、いくつもの石柱を横切っていった。

「ここより先は下馬し、私と副大使どののみとなります。よろしいか」

 リウィアの言葉にうなずくエスファーノ。

 徒歩で階段を上る。

 両側にはいくつもの神殿――のような建物が並ぶ。先程と同じような服装をした男たちが手に巻物らしきものを持って、忙しそうに右往左往している。

「ここは、我が『ローマ』の官庁街。まずは『元老院』に勝利を報告する必要がある」

 元老院。それはローマの統治機関である。見上げればあちらこちらに『SPQR』の紋章が掲げられていた。『セナートゥス・ポプルスクェ・ローマーヌス』、いうなればローマ帝国の国旗である。『元老院と市民』を表す言葉で、それは軍旗にも刻まれていた。

 自分は死んだのか。そして、魂が古代に迷い込んだのか。

 エスファーノはそのような疑いを感じなくもなかったが、まずはこの状況に甘んじようと考えた。悪くはない。かつて自分が憧れた古代の風景を、肌で感じることができるのだから。

 石畳の広場に、二人は到着する。

 目の前には人の集団がそこには待機していた。

 再びリウィアは右手を上げる。

 深々と礼をする一団。声が上がる。

『凱旋をお喜びします。我らが護民官、我らの共和政の守護者。リウィア=サトゥルニヌス=ロムルスさまに神の祝福があらんことを!そして遠きカスティリヤの地よりきせましエスファーノ=デ=リコルド大使殿にローマとして最大級の歓迎の意を元老院は示すものであります』

 エスファーのはあたりを見回す。

 ここは小アジアの一角。

 しかし、ここは紛れもない千年前の『ローマ』であった――

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