オラトルの出迎え
朝の陽はすでに中頃まで登っていた。
寝台に横たわり、その明るさに目を細めるオラトル。
普段の豪奢なみなりとは異なり、大きく胸を開けたその夜着は昨日の宴会の盛況を感じさせるものであった。大理石の床にはいくつもの瓶が転がる。この部屋を何人もの女性が出ていったのは、わずか数刻前の出来事であった。
二日酔いの風も見せずに、オラトルは窓の外を眺める。
「どうだった」
振り向きもせずに、そうオラトルは広い部屋の隅に声をかける。いつの間にか、そこには男性が膝をついて控えていた。オラトルの部下らしい。
「執政官様、サトゥルニヌス=ロムルス護民官の一隊は予定通りオスマン帝国の兵に攻撃され、壊滅いたしました」
ふむ、とうれしくもなさそうに相槌を打つオラトル。
「しかし――護民官は脱出に成功。例のカスティリャの騎士が護民官を助け出したようです」
ほほう、と感心したような息を漏らしオラトルは立ち上がる。
「着替えを。元老院にゆかねばな」
そういいながら、引き締まった肉体にトーガをまとう。
「見損なったか。そんなに武芸に長じているようにも見えなかったのだが――」
自宅を出て、足早に柱廊の中を進むオラトル。
一角に人の群れができていることに気づき、その傍らへと進む。
そこには一頭の馬と、青年。そしてその青年に介護される鎧姿の少女の姿があった。体は傷だらけで、馬も虫の息である。医者の姿も見えた。
無言でそばに近寄るオラトル。その存在に気づき、群衆はその道を開ける。
「これは――」
じっと二人を見下ろしながら、そうオラトルは口を開く。
「どうしたことだ。護民官どのは、オスマン帝国の征伐に行ったのではないか。なぜこのようなことに」
感情のこもっていない言葉ではあるが、それは重々しく、そしてまるで弾劾の言葉のようにも聞こえた。
じっと、エスファーノはオラトルを見つめる。そして――
「裏切り者がいたようです。我々の部隊は待ち伏せされていました」
「ほほう、裏切り者か。この『ローマ』にそのようなものがいるはずが――」
オラトルの言葉にエスファーノはじっと怒りの視線をぶつける。
「なるほど、副大使どのはその裏切り者に心あたりがあるようだな。よろしい、ならば報告してもらおうではないか。事の顛末を」
そういうと、トーガを翻してオラトルはその場を立ち去る。リウィアの姿は一顧だにもせず。
「手当を早く」
そう、エスファーノは医者を促す。
ぐっとリウィアの手を握る、エスファーノ。
その小さな手は、少しづつ冷たさを増していくようであった――




