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第三のローマ~ テルティウス=ローマ  作者: 八島唯
第2章 ローマとトルコ
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エスファーノの策

 エスファーノはリウィアの傷をギュッと布で縛り、馬の鞍に乗せる。

 じっと考え込むエスファーノ。手元には『アルテミスの弓』と数発の弾。そして、遠くを見ることのできる筒が一本。一人で逃げる訳にはいかない。当然、二人で死ぬことも。

 なにか方法はないか――エスファーノは必死でこの窮地を乗り越える策を考える。

 今までのすべての経験と知識を頭の中に巡らしながら――


「連中は林の中か?」

 馬に乗り、ひときわ豪華な鎧をつけた男がそう問いかける。

「は、全部は仕留められませんでした。半分くらいは逃げられたかと」

「隊長の身柄は?」

「武装を見るに、逃亡中かと」

「早く始末しろ。アルプ=ウッディーン=パシャさまの直々の命令だ。林を包囲し、出られないようにせよ」

 そう言いながら男は顎の髭をさする。

 アルプ=ウッディーン=パシャは彼の仕える君侯である。有能でオスマン帝国でも徴用されている重臣であるが、一方で敵に残忍なことでも有名であった。さらに、無能な家臣に対しても――

 アルプ=ウッディーン=パシャ直々にこの作戦の遂行を受けた、彼、ブルト隊長は背中に冷たいものが走るのを感じた。

『敵は奇妙な飛び道具を持っている。我々の弓よりも射程距離は長く、そして威力も強い。地形を利用して、罠にかけ、可能であればその隊長を生け捕りにせよ』

 可能であれば、というのが曲者であった。それができなければ無能の判を押されて、どうなることか考えるだに恐ろしい。

 林をブルト隊長は見つめる。

 生死を問わないのであれば、林に火をかけるという手もある。しかし、それではアルプ=ウッディーン=パシャの条件は満たされないし、何より死体が判別困難となる。首すら届けなければ、何を言われるか――

 その時、彼の頭が後ろに大きくはねる。不思議に馬の下からその様子を見つめる兵士。

 ゆっくりと態勢を立て直すが、次の瞬間スローモーションのように馬の右横に地面に吸い込まれるように倒れ込んだ。

「ブルトさま......!」

 兵士が側に駆け寄るが、すぐ弾かれたように距離を取る。

 仰向けになったブルトの額から、血が吹き出る。その血はゆっくりと地面を濡らし始めていた――


 木の上からこの顛末を長筒で見つめるエスファーノの姿があった。手にはまだあたたかい『アルテミスの弓』が握られていた。

 計三発、発射したことになる。

 長筒で敵の隊長らしき人物に目をつけ、その急所を射ろうとする策であった。

 周りの兵士たちが慌てている様子が見える。間違いない、それなりの人物であったようだ。

 これで、指揮系統は混乱しただろう。

 そう、エスファーノは判断する。

 エスファーノは空になった『アルテミスの弓』を腰にさし、次の準備へと向かうため木を降りる。それが多分唯一の方法であることを確信して――

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