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第三のローマ~ テルティウス=ローマ  作者: 八島唯
第2章 ローマとトルコ
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窮地

 慌てふためくオスマン兵。武器を放り捨て逃げようとするも、その瞬間に場上から放たれた『アルテミスの弓』の矢じりで胸を貫かれる。

 その後に来る衝撃。

 黒い髪をなびかせ、金色の彗星がオスマン兵を切り裂く――先頭で刀を振るうリウィアの姿は、まさに鬼神そのものであった。

 総崩れになるオスマン兵。一番目立った鎧を着ていた、指揮官らしき騎兵も踵を返し林の中に逃げ込もうとする。それを追いかけるローマ兵の群れ。ほぼ敵を殲滅したかのように――見えた。

 ふと、エスファーノは後ろを振り向く。馬に乗りながら、遠くを見る筒をのぞく。

 はっとして、エスファーノは馬を全力で巡らす。

 あっという間に、リウィアの側に詰めるエスファーノ。

 必死に食らいつき、そして大きな声を上げる。

「後ろだ!」

 はっとして、リウィアは後ろを振り向く。

 そこには空を切り裂く、銀の矢が何本も飛び込んできた。

 とっさに剣でその矢を払う。

 態勢がやや、崩れた次の瞬間――払いきれなかった矢が、鎧の肩当てに突き刺さった。

「......?」

 ゆっくりと崩れ落ちるリウィア。馬がその身を放り出そうとした次の瞬間、リウィアの体をエスファーノが掴み、引っ張り寄せる。馬をめぐらしてその遠心力で必死に態勢を立て直そうとする、エスファーノ。周りの兵たちも突然の攻撃に混乱の極みにあるようだった。

 ぐったりとしたリウィアを鞍の後ろに引っ掛け、また馬を走らせる。

 雨のように降りかかる矢をかいくぐり、エスファーノはただ手綱を強く引くだけであった。



 日陰が二人を守っているようにも思われた。林の中。側には馬がつかれたように、四つ足を折って休息している。息はまだ荒い。木の根にはそっと横たわるリウィアの姿。その傍らにはリウィアの汗を拭くエスファーノの姿があった。

 危機一髪であった。

 オスマン兵は罠を張っていた。おとりの部隊を攻撃させ、後ろから『ローマ』の部隊を別働隊が急襲するという作戦である。

 リウィアの息は荒い。毒でも塗ってあったのだろうか。矢はすでに肩から抜いたのだが、熱が上がってきているようだ。

「まったく、恥ずかしいことだ」

 うなされるようにリウィアが声を出す。無言でエスファーノはそっと、リウィアの額の汗を拭く。

「焦っていたのかもしれない。エスファーノどのが教えてくれなければ、死んでいた......というか、部隊は」

「林の中に、散っていると思います」

「そうすると、オスマン兵はこの林を包囲しているな」

 リウィアの目がエスファーノの方を向く。

「エスファーノどのだけなら、逃げられよう。私は大丈夫だ。『ローマ』に戻り――」

 エスファーノは静かに首を振る。少しの沈黙の後、リウィアは目を閉じる。

 そっと、リウィアの手がエスファーノの方に伸びる。

 それをそっと握るエスファーノ。その手は微妙に震えているようにも感じられた――

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