元老院の議決
椅子に座すトーガをまとった人々。そのトーガにあしらわれた装飾は、彼らが栄えある『ローマ』の元老院議員であることを証明していた。
「......今、ローマの危機がそこにある」
よくとおるリウィアの声。彼女は壇上にあって、その身をひるがえしながらそう演説する。
「先日、私は『ローマ』の郊外へと馬で警邏を行った。それは部外者は立ち入ることができない、『緩衝地帯』である」
がやがやと元老議員たちがざわめく。オブザーバーとしてエスファーノも参加していた。そして、傍らの椅子に深く身を預けたオラトルの姿もあった。
「あの地域は何重にも地形に偽装がされ、迷い込むということはあり得ない。あり得るとすれば敵が秘密の地図を入手して、わが『ローマ』に侵入しようという意図を持ったときのみである」
おお、と悲鳴にも似た声が元老院に響き渡る。エスファーノが奥のオラトルの様子を見ると、なにやら不敵な笑みを浮かべていた。
「これはわが『ローマ』の極めて安全保障上の危機である。『護民官』として提案したい。わが『ローマ』に害をなそうとしている、オスマン帝国の勢力を根こそぎ一掃せんことを!」
リウィアの演説に、元老院は歓声の渦が巻き起こる。
「なれば、征伐軍の編成および出陣の認可を元老院にいただきたい」
リウィアの求めに、初老の元老院議長が立ち上がりうなずく。
「元老院は協力は惜しみません。ただ、平時の軍政ということであれば職権は行政官、『執政官』に及びます」
そういいながらオラトルの方を見つめる元老院議長。オラトルはただ目を閉じ、足を組んでこの成り行きを楽しんでいるようだった。
「『執政官』オラトルどの、いかがか?」
元老院議長の問いかけに右手を上げ、目を開けるオラトル。ゆっくりとした口調で話し始める。
「『護民官』どのの申し出に否はない。まったくもってその通り。即急な征伐が必要であろう、しかし」
そういいながらオラトルは顎に手をやる。
「いささか、『護民官』どのでは手に余るのではないのだろうか。必要とあれば、わが常備の近衛が暇を持て余している。いずれも精鋭ぞろい。オスマン帝国の雑兵など一ひねり――」
今度はリウィアが手でオラトルの言を制す。
「なればこそ、一般の兵に戦場の経験を積ませてやりたく思います。協力無比なオラトルどのの近衛は『ローマ』の防衛をお願いしたい。討伐隊の指揮は、わたくしと――この件に、もしかしたら関係あるやもしれぬカスティリヤ王国副大使リコルドどのに督戦をお願いしたいと思う」
エスファーノは立ち上がり、元老院の議員たちに深々と礼をする。
『護民官の言やよし』
の声があちらこちらから上がる。深くうなずく元老院議長。
「元老院は共和制の名のもとに『護民官』リウィア=サトゥルニヌス=ロムルスにオスマン帝国の征伐を目的とした軍の兵権を与えることを了承する。マールスのご加護があらんことを!」
右手を点に突き出し、元老院議長はそう宣言する。
エスファーノを見つめるリウィア。エスファーノは何度か、オラトルの方を振り返った――




