二人の約束
ぱちぱちと音を立てる焚火。リウィアはその前にいて、微動だにしない。
「この地区は私の監視地域なのだ。敵が絶対入ってこないように、自然物で遮蔽しまた定期的に見回りも派遣して念には念を入れていた。だめだな。わたしは」
そういったきり、リウィアは押し黙ってしまう。エスファーノの頭に一人の人物が浮かび上がる。それは執政官のオラトル。リウィアの失策を多分、嬉々として受け入れるに違いない。
「しかし――」
エスファーノは口を開く。
「今までに全く敵がいなかったところに、これだけの兵が押し寄せるというのはおかしな話です」
「多分、内通者がいるのだろう。それを防げなかったのも護民官たる私の責任だ」
「あなたは神ではありません」
エスファーノはしっかりした声で、リウィアにそう返す。
「何度かの失敗もありましょう。大事なことは、それを何とかすること。むしろ、敵の動きを読めた今回の出来事は幸運かと思います」
ふふ、とリウィアは笑みを漏らす。
「忘れていた。副大使殿のほうが私よりはるかに年上であったな。ありがとう。少しナイーブになっていたようだ」
そういいながら、剣を手にリウィアは立ち上がる。そっと、別な手をエスファーノに差出しながら。
「心当たりがある。『裏切者』の」
リウィアはそう、エスファーノに告げる。
静かにうなずくエスファーノ。大体の心当たりはあった。このローマでリウィアに最も失敗してほしい人物、そしてそれにより最も利益を得る人物。
執政官たるオラトル=ルキウス=セルギウス、その人である。
「正直同僚の悪口は言いたくないが、最近とみにあたりがつらくてな。かつての婚約者にひどいことだ」
さらっととんでもないことを口走るリウィア。エスファーノが驚きを表情にあらわすと、リウィアはくすっと笑う。
「昔の話だ。昔のな。私が『護民官』に選ばれる前の話だ。あの頃の私と今の自分はすべてが違う」
そういいながら、エスファーノの手を取るリウィア。
「お願いがある」
じっとエスファーノの目を見つめるリウィア。
「来週くらいには、使節が出発予定だ。しかし、敵が周辺をうろうろしている状態ではそれもままならない。副大使の権限で元老院に要望してほしい。周辺をうろついているオスマン勢力を討伐してほしいと。その任に私があたろう」
今までの自身のなさそうなリウィアとは違い、目の中に何か戦いの妖精でも宿ったようなはきあふれる表情に満ちていた。エスファーノはうなずく。
「ただ一つ」
エスファーノは少し間をおいてそう申し出る。
「私もその討伐隊に加えてほしい。そう、督戦とでも理由をつけて。絶対リウィアどのの足手まといにはならないつもりだ。絶対」
リウィアは最初は驚いた顔をしていたが、目を閉じ大きくなずく。
「それは良いことだ。私も心強い」
洞窟の外に目をやると、いつしか夜明けが迫っていた。
二人は手を握ったまま、その明るい空を見つめていた――




