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第三のローマ~ テルティウス=ローマ  作者: 八島唯
第2章 ローマとトルコ
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洞窟への逃避

 地面に伏す、リウィアとエスファーノ。砂煙はだんだん近づいて、その音も大きくなっていく。

 リウィアは上目がちにその一隊を監視する。はためく旗。それは赤地に白の三日月と星の旗。間違いない。オスマン帝国の正規兵の一団である。

(そんな......)

 リウィアは思わず出そうになった声を押しとどめる。

 そんなはずはない、と。この地域は全くの空白地で、どの勢力も支配下に置いていないはずだ。キャラバンすらその道の悪さから避けて通る地帯である。何より『ローマ』からほとんど離れていない、極めて秘密な地域である。

 だとすれば何かしらの地図がオスマン帝国に流れ出ていることを、リウィアは確信する。『裏切者』その言葉が何度も、彼女の心の中をよぎった。

(......リウィアどの......)

 敵に感づかれぬように、できる限り小さな声でエスファーノはそう告げる。

 ハッとして我にかえるリウィア。こちらの気配を感じたのか、一頭の馬が彼らに近づく。

 槍を構える馬上の軽騎兵。あたりをきょろきょろと見まわす。

 リウィアはそっと足元の石をつかむ。そしてそれを山なりに遠くへと放り投げた。

 小さな音が時間の差をつけて軽騎兵の耳に入る。そちらのほうを振り向いたその刹那――リウィアが飛び出していた。

 まるで鳥が地面を飛び放つように、空中に舞うリウィアの姿。軽騎兵がその気配に気づき振り向いた時には振り下ろされた、リウィアの細身の剣により真っ二つに切り裂かれていた。

 再び地面に着地すると、その反動を用いて馬にリウィアは飛び乗る。そして、すぐそばにいたほかの軽騎兵を流れるように切り倒すと、その馬の手綱をエスファーノのほうに投げ出した。

 それを受け取り馬に飛び乗るエスファーノ。

 この騒動に、ほかの兵たちもようやく異変に気が付いたようだった。

「エスファーノどの!こっちだ!」

 リウィアが後ろを振り向きながらそう大きな声で、指示する。必死に馬にしがみつき、その後を追うエスファーノ。そして後ろからは、オスマン帝国の兵士たちが弓を射かけてくる。

 巧みにそれをかわしながら、いくつもの丘を越える二人。

 追っ手をまいたのはもう、夜のことであった。

 手ごろな洞窟に身を潜め、馬をつなぐ。

 あたりを確認してから、リウィアは何やら取り出し足元の乾いた草にそれを押し付ける。カチ、という金属音の後に炎が上がり火種が出来上がった。

 エスファーノはさして驚きもしない。多分これが『ローマ』の技術の一つなのであろうと。

「体が冷える。洞窟で少し温まろう。中に入れば明かりも外からは見えない」

 二人は焚火に向かい合い、身をかがめる。

 無言で火に枝をくべるリウィア。やや黒みがかった髪が照らされ光る。物思いにふけった目がまるで鏡のように炎を映していた。

 いつか見た光景。それは初めてリウィアと出会った夜の洞窟のことである。

 風景こそ似ていたが、しかし目の前にいる彼女の姿はまるで別人のようであった――

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