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道化の世界探索記  作者: 黒石廉
第2部 1章 指と異端と癒し手と
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071 アンブッシュ 酸の滴降る降るまわりに

 村で一晩をすごした。

 俺たちは見張りを立てながら、それでも交代で屋根の下で休むことができた。

 俺たちは井戸水で返り血や自分たちの流した血で汚れた体を洗い、鎧の汚れを落とした。

 戦斧と剣を軽く研ぐ。本来なら街でちゃんと研いでもらわないといけないのだろうが、それでもやらないよりはましだ。


 みんな、同じような気持ちであったのだろう。

 武具の点検をしたり、(タケイ隊は)筋トレをしたりして、気を紛らわせている。

 ミカとサチさんは捕虜となった村人たちに食事や毛布を運んでいた。

 カルミさんは「異端に慈悲は必要ないのですよ」と眉をひそめていたが、2人は無視していた。俺たちももちろん彼の言葉を無視して運搬を手伝った。


 カルミさんは長い手紙か報告書らしきものを書いているようだった。


 みんな、何かをしていないと落ち着かない。


 唯一の例外は踊り狂う自称賢者ブレイズさんで、見張りを免除された彼はぐーぐーと大いびきをかいて眠りこけていた。

 正直あまり好きに……というか大嫌いな人であるが、大物だなとは思う。


 夜、カルミさんが籠に入れて持ち運んでいたコウモリらしきものに書き上げた文書をくくりつけて放した。


 ◆◆◆


 朝は何事もなくやってきた。


 黒幕の邸宅での凄惨な拷問のすえ、カルミさんが聞き出した情報によると、今日の昼過ぎに黒幕が村経由で俺たちが激闘を繰り広げた邸宅に向かうらしい。

 俺たちはここで彼らを奇襲し、黒幕を捕らえるということになっている。

 

 「首謀者は……腕の1本や2本くらいならば落としても構いませんが、生きたまま捕らえてください。護衛その他は全員神にして神々のもとに送り届けて構いません。むしろ、そのほうが神にして神々も喜ばれることでしょう」

 にこやかな笑顔の仮面をかぶった審問官が快活に指示を出す。

 目の部分だけは仮面で隠しきれないようで、妖しげな光を発している。


 カマドから火をたてて煙を出す。

 人を自由に歩かせることはできないが、こうすれば遠目から怪しまれる危険も低くなるという計算からだった。


 教会の2階には司令塔のカルミさんが陣取る。ここに癒し手のサチさんも待機する。司令部兼野戦病院といったところだ。

 これを守るのがサゴさん、チュウジで彼ら(と手の空いているときのサチさん)は射手も兼務する。

 籠城戦のあとに使える矢を探したが、もともともっていたクロスボウの矢は7割位がだめになっていた。かろうじて使えるのが13本、小弓の矢は6本だけだった。

 狙うのはウマで足を奪って逃走を防ぐ。

 司令部には自称賢者のブレイズさんも待機する。

 彼は上から魔法で援護をすることになっている。


 正面で相手に立ちふさがるのは俺とミカ、タケイ隊から戦鎚をふりまわすスキンヘッド、ジロさんが加わる。

 タケイ隊の残り4名は村の入口近辺の小屋に分散して隠れて、混乱したところに後ろから攻撃し、退路を断つ。


 「敵が大人数だったら、どうするんだ?」

 タケイさんが口にした疑問にカルミさんは左手をふって答える。

 「黒幕の商人が移動するだけで『荷物』は別の日に運ぶらしいですよ。ならば、護衛は多くても10名から15名といったところでしょう。こちらは12名、待ち伏せまでするんです。十分に勝てますよ」


 ◆◆◆


 持ち場に待機して、相手が来るのを待つ。

 俺とミカは教会の1階、扉の近くで並んで座っている。


 「人助けのはずだったんだよね……なんかすごいことになっちゃったね……」

 うつむいてつぶやくミカの頭をなでる。普段はちょっと手が触れただけでもドキドキしてしまうのに不思議にこういうときは自然に振る舞える。


 「だよね。人をさらってひどいことしてるやつも、その人をつかまえてひどいことやりかえすやつもみんなおかしい」

 「正しいことってなんなのか、わかんなくなっちゃうよね」

 「ほんとにね。良かれと思ってしたことが……俺は仲間、とりわけ君が笑って横にいてくれることを最優先するよ」

 いつもならおどけた言葉が口から出てくるはずなのだが、今日はうまくいかない。

 精一杯の明るい声で彼女にささやく。


 「その笑ってくれる仲間ってのに俺は入るのかい? なんにせよ、2人の世界に入るのは後でな。俺たちは便利屋、それ以上でもそれ以下でもないさ」

 ジロさんが革の兜とその下の布の被り物をずらして、汗を拭く。

 俺は少し赤面して、照れ隠しに「ジロさんも大好きな仲間ですよ」とささやく。

 「気持ち悪りぃからやめろ」とつぶやくジロさんの横でミカが「新しいカップリングだね」と笑う。

 これで良い。


 ◆◆◆


 夕方近くなり、今日は来ないのではないかと思い始めた時、ウマの鳴き声が聞こえる。

 ゆっくりと深呼吸をする。

 扉の陰から少しだけ頭を出して外をのぞく。


 護衛に先導された馬車が一台村へと入ってくる。

 上からの攻撃が俺たちへの合図となる。

 ジロさんが俺とミカのほうを見てうなずく。

 いつでも飛び出せる準備をする。


 …………。


 井戸のそばまで来た一団があたりを警戒しはじめる。それはそうだ。カマドからたつ煙は見えども、誰も歩いていないのだから。

 

 そのとき、上からキラキラとした酸の(しずく)が降り注ぐ。

 人とウマが悲鳴をあげる中、矢が放たれ、ウマが悲痛な叫びとともに倒れる。


 俺とミカ、ジロさんが飛び出す。


 「敵襲!」「野盗だっ!」

 そう叫んだのは先頭にいた革鎧の護衛。

 彼はミカの大盾で吹っ飛ばされたところに、ジロさんの戦鎚と俺の戦斧の一撃を食らって動かなくなる。


 「後退!」「いや、後方からも敵!?」「囲まれたぞ!」「ウマは?」「ダメだっ!倒れたっ!」


 馬車を囲む護衛の数はおそらく15名。

 カルミさんの予想通りではあるものの、予想内の最大限の人数だ。

 馬車を囲むように3つのグループが布陣している。

 

 俺たちは先頭のグループ6名と交戦、1人はすでに倒した。


 「2階の射手を潰せ!」

 後方を警備していた1つのグループが前方に向かってくる。

 ここを抜かれると司令部がやられてしまう。


 そう思った矢先に甲高い叫び声が2階から聞こえてくる。

 ぶぅーんという音とともに地面から黒い(むし)の群が()きだし、向かってくるグループ敵の一団を包み込む。


 「やめろぉー」、「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁ」、「ぎゃぁぁぁぁぁ」、「たすけてっ!たすけて」

 4名が黒い柱にのみこまれて悲鳴をあげる。

 彼らは全身をかきむしりながら、地面に倒れ、羽音とカサカサという音をたてる柱に飲み込まれる。

 2階からは「キャー! 舞い踊る大賢者ここに推参! 惚れるなよぉ、委員長たん!」という場違いなくらいに脳天気な叫び声が聞こえる。


 突然あがった仲間の悲鳴に気取られた1人の男の脛を戦斧をぐるんと振り回して斬りつける。

 鈍い衝撃が手のうちに伝わる。

 倒れた男の兜でおおわれていない顔面を石突で思いっきりつぶす。

 

 視界の端には戦鎚が敵の剣を叩き折り、そのまま相手の頭に吸い込まれていくのが見える。


 「死ねっ! くそちび!」

 男が振りおろした両手剣は十分な加速を得る前にミカの突進で弾き飛ばされる。

 尻もちをついた男は滅多打ちにされて動かなくなった。


 これで敵は2名、後方からの合流組を入れても4名まで減った。


 待ち伏せ作戦は完璧に決まった。


 後方でタケイさんたちと戦っているチームは手練が多いらしく、奇襲したにも関わらず膠着状態のようだ。

 とはいえ、前方組は明らかに浮足立っている。


 俺たちの狙いは黒幕の捕獲だ。


 敵が浮足立ったところにカルミさんが降伏勧告でもしてくれれば、おそらく終わりである。


 「下で戦う異端者たちに勧告します!」


 ほら、降伏勧告だ。


 「私たちの目的は馬車に乗っている人身売買および殺人の主犯の捕縛にあります!」


 一瞬、敵味方問わず戦いの手が止まる。

 戦いは終わりだ。無駄な怪我をしては割に合わない。

 俺たちは続く言葉を息をのんで待つ。


 「武器を捨てて抵抗をやめなさい。さすれば、あなたたちに安らかな死を与えましょう! あるいは自ら死を選ぶことを許しましょう! 抵抗するならば、異端に(くみ)したことを後悔し続けるくらいの苦痛を差し上げましょう。さぁ、死になさい! すみやかに! みじめに! 虫けらのように!」


 カルミさんがげらげらと笑いながらわめく。

 そこに合いの手のように甲高い叫び声がはいり、俺たちの前にいた男たちが黒い柱に包まれて絶叫する。


 奇襲戦は幕を下ろし、狂った消耗戦が開幕する。

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