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道化の世界探索記  作者: 黒石廉
第1部 2章 捜索任務
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044 後始末2

 今晩は巣のあった場所で火を炊いて野営することにした。

 山の王を倒した俺たちを安易に襲ってくる者もいないだろうし、洞窟の中はあまりにも空気が悪かったからだ。

 

 乾いた枝で組まれたヤマバシリの巣は焚き火の材料とする。

 「すまぬな。お前の親を奪い、今度はお前の家まで奪う我を許してくれとは言わぬ」

 チュウジはヒナを抱えて話しかける。

 パーティー最年少だから、自分より年下(?)ができて嬉しいのだろうか。

 埋葬から戻って以来、甲斐甲斐しくヒナの面倒を見ている。


 親鳥の羽をむしる。

 今回は肝は損傷していて取れなかった。

 他の内臓はやはり捨てることにした。やはり、人を食った鳥の内臓を食べるのには抵抗がある。


 前回は塩をふって焼いただけであったが、今回は煮込むことにした。

 幸いなことに近くで水場も発見したので、水の心配はない。

 骨付きで放り込んだので骨から良い出汁が出るに違いない。前回は泣く泣く捨てた(モミジ)も一緒に放り込んで、蓋をする。

 俺はサゴさんに言われた通りのことをやっただけで、できあがりはあまり想像がついていないが、彼の完成イメージではトリ白湯(パイタン)らしい。麺がないのが悔しい。


 もう1つの鍋の前ではヒナにエサをやり終えたチュウジが何かをやっている。

 見ると骨でスープを取ってから、その骨を捨てている。

 そのスープを沸騰させ、そこにコメを放り込み、しばらくしてから(あぶ)った肉と少量の塩を追加するのだという。


 「長粒米は沸騰してから放り込んだほうが簡単に炊ける」

 チュウジが最初の野営の頃から主張していたチュウジパパン由来の豆知識だ。家庭科では習うことのないその知識が役に立っている。

 今回のもパパンが作っていたインドだかパキスタンだかの炊き込みご飯に着想を得たものらしい。

 「返す返すもスパイスがないのが惜しまれる。今度街に戻ったら、我は本気でスパイスを探そうと考えている」


 「もうさ、チュウジ元の世界に返して、チュウジパパ召喚しようぜ。絶対、そのほうがいいって。イロコイ族の戦闘術とか格闘術とかで無茶苦茶戦闘能力高い上にデザートとか作って、食後は鞭慣らしながらロー○イド歌ってくれるんだぜ」

 軽口を叩くと、チュウジがむっとした顔で否定する。

 「我が父はただの中年だと言っておろう。お前は同じネタにこだわりすぎの上に、ネタを混ぜすぎて素材の良さを殺している」

 「時代は闇鍋?」

 「意味がわからぬ。だから貴様はバカだと言われるのだ」

 「なんでバカなんだよ!」

 「後ろを見ろ、バカ」

 後ろではミカさんとサチさんが目を輝かせて「尊いねぇ」「シカタくんって誘い受けですよね」とか言っている。

 「貴様がこの事態を誘発しているのだ!バカシカタが」

 「……返す言葉もございません。すまん、チュウジ」

 女性陣の熱く(しかし恋心的なものがない)視線を感じながら、その場を退散して、サゴさんの作業を手伝うことにする。


 俺にスープ作りを命じたサゴさんは何をやっているのかと思ったら、余った肉に丁寧に塩をすり込んでいた。

 「肉はすぐに痛みますからね。こうやって水を抜いて、野営の間、(いぶ)したら、多少は()つかもしれません」

 「食料ギリギリですしね。帰り道で食料足りなくなってゲームオーバーは嫌ですしね。頼んます」

 肉をツルでしばり風通しの良いところの木の枝に吊るしておく。

 料理が終わって蒸気が上にあがらなくなったら、これを焚き火の上に吊るすのだそうだ。


 「肉食の動物の肉には独特の臭みがあると聞いたことがあるが、それほど気にならぬな」

 出来上がった白湯スープをすすり、中の肉を頬張った後にチュウジが言う。

 「そうなんだ。相変わらずチュウジくんは物知りだよね」

 ミカさんが感心している。

 「こいつのね、パパンは考古学者なんだってさ。それで各地の習慣とかにやたらと詳しいんですよ」

 話がよくつかめていなそうなサチさんとナナちゃんに説明をする。

 「あれ、でもそういうの詳しいのは民族学者とか人類学者って言わないの?」

 サチさんが話に乗ってくるが、民族学者も人類学者もよくわからない。 

 きょとんとする俺にサチさんが「私、進路でそういう分野考えていたから」と言う。

 チュウジが少し嬉しそうに答える。

 「我が父はアメリカに留学していたからな。彼の地ではその2つは同じ学問領域の隣接分野なのだという」

 サチさんは感心する。ナナちゃんはあんまり関心はなさそうだが、それでも話は聞いている。

 とりあえず、少しでも明るくなってくれたら嬉しい。

 俺は飯の中に入っているヤマバシリの肉を噛み締めながらそう思った。

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