023 作戦会議その2
「俺がもらったスキルは3つ。必殺の間合い 、静電気、タワシだ」
タワシといった瞬間にチュウジが口を開きかけたが、ミカさんがチュウジの口元に人差し指を当てる。
「二人のじゃれあい、大好きだけど、今はやめとこ」
口元に人差し指をあてられたチュウジは真っ赤になってる。こいつは散々人のこと煽っておきながら、女性免疫ゼロじゃないか。
「タワシはミカさん以外の二人は知っているように、1日1個へちまタワシを生成できるだけ。これを戦闘で使う術はまったく思いつかない」
先ほど、タワシをもらってきょとんとしていたミカさんが「ああ」とつぶやいてぽんと手をたたく。
息を吸って、続ける。
「静電気は静電気を発生させることができる。俺が火を起こす時にこいつでズルしてたってのはみんなも知っての通り。ちなみに1回使うと3分くらいは使えない。相手と鍔迫り合いにでもなったときにバチッと言わせられるかもしれないが、これも戦術に組み込めるようなレベルじゃない。そもそも俺の今の武器、斧だから鍔迫り合いとかならないしな」
「残りの1つはものすごいかっこいい名前だよね?」
「ありがとう、ミカさん。必殺の間合い は、集中すれば自分の間合いがわかるというか視える。言葉にすると説明しづらいんだけど、自分の間合いに入るとどこをどういう風に攻撃すると当たるかが視えてくるんだ。ただ、相手の間合いがわかったりするわけでもないし、相手の攻撃を読み切れたりするわけではないんだ。だからビビると体が動かなくて攻撃が当たらない。ビビるなと言われても相手の攻撃を受けるかもしれないと思うとなかなかうまくいかないことも多い」
「怖くなると役に立たないのはあたしも一緒かな。あたしがもらった能力は模擬戦見てたみんなは多分わかると思うけど……シカタくん、腕相撲しようか」
「シカタくん、左利きだよね。あたし右利きだけど左で良いよ」
ミカが腕まくりをする。彼女が力持ちなのは知っているが、見た目は普通の女の子の細い腕だ。
「シカタよ、感動してむせび泣いても良いのだぞ。女性の手を握るなどというのは貴様にとっては初めての経験であろう」
「あほ、チュウニ!小学生のときの組体操でとっくに経験済みだわって……あれ?感動してないのに涙が……」
「はいはい、夫婦漫才はやめて。サゴさん、合図お願い」
机の上で組んだ手の上にサゴさんは自らの手を合わせて、
「レディー?ゴー!」
一瞬で負けた。「ゴー!」の「ー」の部分が終わらないうちに負けた。
「シカタくん両手でも良いよ」
両手だとある程度持ちこたえられたが、それでも負けた。
「怪力。見た目から考えられないくらいの力をあたしは与えられた。でも、あたしはこれ1つしかもらえなかったよ。それにいくら力が人より優れていても怖がってちゃ何もできない。それは今日嫌になるくらいわかっちゃった」
「私は2つでした。皆さんご存知の酸を口から吐いて攻撃する。溶かすもの って名前、私が会った神様もシカタくんにタワシの能力あげた神様ほどじゃないけどふざけてますよね。もう1つは酸耐性。私自身は自分の酸で傷つくことはありませんし、他の酸攻撃も大丈夫なはずです。ちなみに溶かすものは1回使うとだいたい1日は使えません」
「我も2つだ。ただサゴ殿とは多少意味合いが異なるかもしれない。現在使えるのは疲労を与える者という我が手で触れた相手のスタミナを奪う力だ。効果は何度かシカタで実験させてもらった。長い間触れていると最終的に相手は昏倒する。なお、技の名前は叫ばなくても発動可能なようだ。だから我はこの技を漆黒の左と呼ぶし、諸君もそう呼んでくれてかまわない」
「技の名前が自由という設定は良いな。バトル漫画やライトノベル作者垂涎の設定だぜ」
俺のツッコミを無視して、チュウジは続ける。
「もう1つの能力は獲得。経験を積むうちに新しい能力を得るかもしれないというものだ。今のところ、これによって得られた能力はないが新たな力を獲得した際には諸君にも伝えると約束しよう」
「さて、全員の手札をさらしたところで戦術を考えようではないか。武器防具を購入する際に主人に勧められたにも関わらず小手を買わなかったのは我が能力を考えてのものだ。直に相手に触れないといけない以上、指先を覆ってしまうのは避けたい。かといって指先を保護しないでの近接戦闘には恐怖を覚える。それゆえ鎖分銅で相手の武器を絡め取ってからスキルとナイフで勝負をつけたいと考えた。しかし、焦ってしまって武器を使いこなせずに不甲斐ない戦いをしてしまったことを申し訳なく思う」
自分の非を認めるなんてチュウジらしくない。でも、それだけあいつも真剣なんだろう。
「戦法としては間違っていないと思う。戦術としてもミカさんのサポートに回ったのは良かったんじゃないかな」
「あたしとシカタくんが前面で相手の突進を受け止めて、サゴさんとチュウジくんが側面から崩すという形が良いのかな」
「私の酸はもう少し有効活用したいと思います。結構幅広くなおかつ飛ぶので、追い詰められたときに苦し紛れに出すよりも相手が固まって近づいてくるときに出鼻をくじくのに使えるんじゃないかなと」
「サゴさんがぶちかましたら、すぐにミカさんと俺が全面に出て相手を受け止めるで良いか。チュウジの鎖分銅の命中率については……」
「あなたたち若い子にはわからないだろうけど、おじさんってすぐに足がもつれるんですよ。そうでなくても足はなにかに引っ掛けて転んだりとか経験あるでしょう。手よりも足のほうが的も大きいから足を狙うというのも手かもしれませんよ」
「相手の武器を取れなくても転んだところで相手の足を踏むとか武器を蹴り飛ばすとか色々ワンテンポ挟めばいけるかもしれません。私がフォークで突くこともできますしね」
「一発でスキルにつなげようとするのではなく、戦い方に柔軟性を持たせるということか。我も視野が狭くなっていた。サゴ殿、感謝する」
「連携が取れるかどうかはわからないけど、少なくとも基本パターンと連携を取ろうという意志があれば、俺たちはもっとやれるはずだ。そもそもゴブリンの力はこの世界の大人より多少弱いくらいだ」
「ミカ殿でなくとも、ある程度の身体強化の恩恵を受けた我らはこの世界の大人の平均よりは明らかに強いはずだろう。十分に戦えるはずだな」
「明日はみんなで帰ってこられるね」
「俺、明日帰ったら……」
ボケる俺にサゴさんがツッコミをいれてくれる。
「はい、シカタくん、フラグ立てるのヤメましょうね」
「シカタが死んだら、我が死霊術でスケルトンとして使役してやるから安心せよ」
「死霊術なんて使えないだろ!」
「そのうち獲得するかもしれないからな」
「そうそうとっさの指揮はシカタくんにおまかせします。言い出しっぺの法則って自分でも言ってたし、一番全体が見えてそうな気もします」
サゴさんの言葉に他の2人も賛意をあらわす。
責任は重いけど、うまくいかなければバトンタッチすればいいだけだ。まぁ、生きて帰れればのことだけど。
明日はどうなるか、わからないが、パーティーの結束はたぶん強くなったよな。




