022 作戦会議その1
「ここまで長旅だったでしょう。水浴び用の水も用意しましたので、旅の疲れを落としてください。その間に夕食を用意しますので」
村長だという初老の男に言われて、俺たちは荷解きをした。
旅の途中、水浴びできるようなところはなかったし、残念ながら当然、水浴びでラッキースケベ的なイベントもなかった。
そんなイベントがあったらあったで、ものすごく気まずくなるに違いないからなくて良かったんだ。そう自分に言い聞かせる。
なんにせよ、水浴びは訓練所を出てから初めてで、とても嬉しい。もう鼻がばかになってるけど、俺たちすさまじく臭ってると思う。
「体洗うのにたわしあるよ」
俺はスキルでせっせと1日1個ずつ出しておいたへちまタワシを皆に配る。
俺のたわしスキルを知らないミカさんだけが顔にはてなマークを浮かべている。
「まぁ、詳しいことはあとでね」と伝えて、水浴びに行ってもらう。
ミカさんが水浴びに行っている間に鎧を外し、服を脱ぐ。そして、ゴブリンに棍棒で痛打されたところを確認する。内出血で赤くなっているが、骨が痛むというようなことはない。明日あたりには打ち身のあとは黄色くなっているだろう。革鎧様々である。
打撲のチェックだけでなく、防具も点検しておく。サゴさんのブレスの流れ弾で右の革の小手の一部が少し溶けているが、大きな穴があいているようなこともない。
「ごめんなさい。私のせいですよね。それ帰ったら弁償しますから。戦いの前に本当にごめんなさい」
そう声をかけてくるサゴさんにノープロブレムですよと答える。
「こういうの、お互い様じゃないですか?あんまり気にしないでいきましょう。俺たち一蓮托生ですからね」
「水だけだけど、すっごい気持ちよかった。今度お金入ってみんなにお金返し終えたら石けんほしいな」
ミカさんが戻ってきて弾んだ声で言った。
そうだよなぁ。色々と欲しい物があるよな。だからこそ、皆で生き残って帰らないと。
そんなこと考えながらも水浴び後の夕食はちゃっかり楽しんだ。
燻製魚の炊き込みご飯は美味かったが、そればっかり毎日食っていたら飽きる。久しぶりのテーブルでの食事だ。
メニューはどろっとしたスープと蒸したじゃがいもだった。
「本当ならば宴席をもうけるべきなのでしょうが、ゴブリンの脅威に怯える現在、そのような余裕はありません。粗末な食事で申し訳ない」
村長は頭を下げたが、毎日魚の炊き込みご飯だった俺たちには別の食事はとてもありがたかった。
「あ、ピーナツっぽい味がしてる」
スープを口にしたミカさんが言う。うん、あいかわらず食事姿もリスっぽい。ジャガイモ頬袋につめてあげたい。
「独特のコクがありますね」
「柔らかく煮たピーナツを裏ごししてスープとし、食用にする民族はそれほど珍しいものではない。パパンが鞭で地面をたたきながら教えてくれた」
チュウジの解説を先取りしてやるとチュウジがむすっとする。
「言っていること自体は大きく間違っていないが、我は父のことをパパンとは呼ばないし、鞭は考古学者に関係ない。貴様は変態だから鞭に異常なまでの興味を示すのだろう」
鞭打ちと変態性の関係について問い詰めてやろうとも思ったが、それは自爆テロみたいなもの。チュウジを道連れにする代償が女性から蔑みの目で見られることだとしたら、それはよろしくない。そう考えて黙っておいてやることにする。
「……誘い受け……シカタくん×チュウジくん……」
せっかく俺が気を利かせているのに、すべてをぶち壊すような言葉が気を使った当の本人から漏れてきたような気がするが、気のせいだ。気のせいに違いない。
「茹でて殻むいて裏ごししてって結構手間だよね。粗末って言いながらも、手間かかるもの出してくれてるんだから、その気持ちに応えられるようにがんばりたいね」
「ですね。そのためにも明日は全力を尽くしましょう」
「サゴさんの言うとおりだ。全力を尽くし生き残るために作戦会議をしよう。今日の戦い方だと辛くなるのはみなわかってるはずだ」
俺の言葉に3人が大きく首を縦にふる。
「今の我らには戦術がない。そして……認めたくないが、相手を押しつぶす圧倒的な力もない」
「あたしたち個人の集まりって感じで、チームになってないよね、たしかに」
「俺たちはいくつかのスキルをもらっていると思う。それは個々人の切り札で安易に明かさないほうが良いと俺は忠告を受けた。しかし、チームとなって明日生き残るためには手札を明かす必要があると思うんだ」
「そのとおりですね。私個人としては皆さんのことを信頼してます。私のように年の離れた相手と普通に接して尊重してくれるだけでおじさんは嬉しいですよ」
「では、言い出しっぺの法則とかいうやつで俺から自分の手札を明かしていくよ」
こうして、明日を生き延びるための作戦会議がはじまった。




