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道化の世界探索記  作者: 黒石廉
第3部1章 探索稼業
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110 古代邸宅探索

 大穴探索の目的は俺の腕だ。

 失くなった器官ですら再生させる遺物が見つかるらしい。

 毒を受けて右手を失った俺をどうにかしようと噂でしかないことに仲間が命を懸けてくれる。

 その気持ちはとても嬉しいものだったが、実のところ、俺の腕を治すような遺物が見つかるとかはあまり期待していなかった。


 しかし、今は違う。

 何かしらあるのかもしれない。

 そう思うと正直なところ胸の高鳴りが押さえられない。

 

 俺の腰のところにミカが黙って腕を巻きつけてくる。

 バシネット同士をくっつけて小声で「ありがとう」と伝える。


 「地図はあるし、洞窟小人と遭遇しやすいところについてもタダミくん情報でメモがあります。1階、2階と見て回って、成果がない場合は、危険とされる地下1階も探索しましょう」

 サゴさんの提案に皆でうなずく。


 1階の東側から回っていくことにする。


 地図上では「食堂?」と書かれた東端の部屋は学食のような大きな机と椅子がたくさん並んでいるところだった。

 椅子の投げ合いでもしたか、それとも香港カンフー映画のロケの舞台となって椅子机が武器として散々使われたのかといったくらいに乱雑ではあるが、大きな破損はなかった。

 ただし、遺物のようなものも一切なかった。

 いや、正確に言えば、くず拾い山でも見つけたペットボトルキャップのようなものがところどころに転がっていた。

 サゴさんはこのキャップを収集することに決めたのか、いそいそと拾い集めては自分のポーチに入れている。

 

 「何もなかったら、この椅子だけでも持って帰るか? 結構座り心地良いし、耐久性は木の椅子なんかの何千倍も良さそうだ」

 冗談を言ったつもりだが、皆まんざらでもないようだ。

 古代文明の遺物というならば、この椅子や机も立派な遺物ではある。少なくともペットボトルのキャップのようなものよりは実用性もありそうだ。


 入ってきたのとは別の扉をくぐって西側へ行く。

 通路の北側は池になっていて、中央に小島がある。

 水はどのような理屈かしらないが循環させているようで、腐ったりはしていないようだ。

 どこからともなく風が吹いてきて、兜の中で火照った頬を冷ましてくれる。

 

 「食堂でご飯を食べたあとに、ここで一服って感じかな?」

 ミカが伸びをしながら言う。

 そういえば、腹が減ったな。


 「一服する前に飯食ってなかったね。俺の腹時計が……」


 「貴様の腹時計は常にアラーム鳴らしっぱなし……」

 俺を煽ろうとしたチュウジの腹が大きな音を立てる。

 跳ね上げたバイザーの下の顔が赤く染まる。ざまぁ。


 「美味しいご飯とはいかないけれど、橋の先の小さな島でご飯にしようか」


 俺たちは橋を渡り、池の中央に浮かぶ小島で荷物を降ろし、保存食を出す。

 硬く焼いたビスケットと干し肉をかじりながら、皮袋の水を飲む。


 「ここの水、沸かせば飲めるってタダミが言っていたな」

 地面を見ると、焚き火のあとらしきものがいくつか残っている。

 この階は安全だと言うし、少し水を補充していこう。


 大穴の中では水の補給が常に問題だ。

 中層には大きな地底湖があるが、湖の近くは危険地帯だ。だから、いくつかある湧き水ポイントで水を補給する。しかし、それだって常に補給できるわけではない。

 水は綺麗で敵も出てこない。このような場所はありがたい限りだ。

 火を起こす。焚き木となるようなものもないので、ソ直伝の牛糞と藁を混ぜたものを乾かした自家製固形燃料を使う。


 「あの洞窟小人が現れないってだけでほっとしますね」


 「地下1階には出てくるんだっけ? できれば地下1階に行く前にお宝見つけて退散したいな」


 水を補充した俺たちは西側に向かう。

 十字路だ。

 ここを南に行くと入り口の部屋、北に行くと書庫と2階へ通じる階段があるらしい。

 ちなみに東にまっすぐ進むと「実験室」と地下へ通じる階段があるらしい。

 いくら洞窟小人が出ないと言っても地下から直接通じる階段のあるあたりは何があるかわからない。後回しにして北に向かう。


 「この奥は階段と『書庫』があるみたいです」

 サチさんが地図を確認しながら言う。


 書庫は珍しいものはすべて持ち去られてしまったのか、がらがらの書棚らしきものが並んでいるだけだった。

 

 「ここは何かしら、多分、医療か生命科学の研究施設だったと考えるのが良さそうですね」

 サチさんが言う。

 異形の動物種、元いた世界と変わらぬ植物種という不思議な組み合わせや神話をもとに、この世界は文明崩壊後の未来ではないかという話を皆でしたことがある。

 そのときの思いつきが確証にと変わる。


 「となると、入り口で剥製にされるくらいの洞窟小人と猟犬は実験動物だな」

 チュウジが苦虫をかみつぶしたような顔で言う。

 あんな物騒な化け物が野放しになるってのは、ゾンビ映画もサメ映画もびっくりの生物災害(バイオハザード)だ。


 この建物には何かがありそうだ。

 少なくともかつては色々あったはずだ。

 でも、今のところ、収穫ゼロである。

 もどかしい。

 いや、俺は何を期待しているのだろう。


 「2階にあがってみようぜ」

 気持ちを切り替えようと精一杯明るい声で皆に呼びかける。


 2階は応接室のようなものと個人の研究室、寝室らしきものがあったが、こちらも結局動かせるようなものはほぼ持ち去られていた。

 ペットボトルキャップ収集家と化したサゴさんがキャップを拾おうとして、書棚の裏に落ちていた傷薬を2つ見つけたのだけでも奇跡に近いのかもしれない。


 「ほら、キャップが役に立ちましたよ」

 サゴさんはそう胸をはるが、キャップが役にたったというよりも自販機の下をのぞきつづけていたら、1000円札見つけちゃったみたいなものではないだろうか。


 俺たちは階段を降り、1階へ戻ると、地下室に続く階段があるという西の部屋に行く。

 書棚と机サイズの装置めいたものが壊れたものがならぶ部屋の端に階段はあった。

 奇跡は2度起こることはなく、ペットボトルキャップもどきすら見つけることができなかった。


 「結局、危ないという地下1階に行くしかないのか」

 俺はツバを飲み込む。

 そして、階段を一歩一歩踏みしめながら降りていく。

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