094 また会ったね
「おっ! そのちびっこいのはロリ子たん! てことは横にいる木偶の坊はアレかよ?」
ミカは黙って大盾に身を隠し、機会をうかがっている。
「まだ、そんなのとつるんでるの? ボクの親衛隊に入れてあげても良いんだよ!」
体に似合わず軽快なステップを踏みながら自称大賢者が勧誘している。
誰かが槍を投げつける。
周囲にいた女性の護衛が身を翻し、大盾でその槍を受け止める。
そして、護衛の女性の列がばっと開くと、舞い踊るアレが出てくる。
お前ら、ダンスグループかよ。
魔法使いがどんっと足を踏み、甲高い声で叫び、槍を投げつけた戦士の一団が火柱に包まれて悲鳴を上げる。
「その子は傷つけるなよ。後で遊んであげるからねっ!」
ミカは無言で突進し、立ちはだかる護衛の1人を盾でふきとばす。
ビキニアーマーとでも言うのだろうか。肌の露出の大きい実用的とはいえない鎧をきた女性が地面に転がる。
ミニスカ風に仕立てた鎧を着込んだ護衛がカバーに入る。
これ、全部、特注したんだろうな。
方向性はともかくとして、欲望に忠実なところには恐れ入る。
「ソーニャー!」
踊る魔法使いが吹き飛ばされた護衛を見て悲痛な叫び声をあげる。
「くそっ! いくらカワイコちゃんでも、そんな悪いことする子にはお仕置きだよ! そこのうざい木偶の坊を吊るして、そいつの前でボクとロリ子たんで愛を見せつけてあげるんだっ! あいつ童貞だろ? ボクたちのプレイ見て興奮したりしてね!」
うるせぇ。気色悪い欲望を漏らすな。
俺はとびかかってきた兵士の喉元を突き、突き戻した剣でその歩兵を切り倒す。
踊る変態のところまでなかなかたどり着けない。
「ヒャー! ネトリプレェーやりてぇよぉー! 蟲よぉぉぉぉ!」
甲高い叫び声とともに俺の足元から真っ黒な蟻が次から次に湧いてくる。
蟻が黒い列となって足を駆け上る。
払っても払ってもところどころに頭だけを残して噛みつき続ける。
頭のまわりを真っ黒い羽虫が舞う。
鼻に入る。
耳に入る。
口に入る。
目に入る。
入った先で暴れまわる。
兜を脱がないと。
兜を脱いで目を取り出さないと。
目を取り出して洗わないと。
耳を洗わないと。
耳から脳まで綺麗に洗浄しないと。
腹の上を黒光りするムカデが這い回る。
ムカデが噛みつく。
噛みつくかみつくかみつくカミツク……。
「……大丈夫だよっ! なんにもいないよ! しっかりして! 大丈夫だよっ、安心して!」
後ろからがっしりとつかまれていることに気がつく。
蟲……いない。
どこにもいない。
後ろでミカが俺とサゴさんを抱きしめている。
以前に一緒に戦った時から何かおかしかった。
さっきも変だった。
ここまでくればいくら察しの悪い俺でもわかる。
あいつの魔法は精神攻撃の一種なんだろう。
「なにやってんだよー、お仕置きだぞぉー。拘束して朝から晩までお尻ぺんぺんだぞぉー!」
舞い踊る変態が地団駄を踏む。
いや、地団駄を踏んでいるようで、また妖しげなステップを踏んでいる。
俺はナイフを抜くとダンダラ模様のコートを羽織った怪人に投げつける。
親衛隊がダンダラ模様をかばう。
ビキニアーマーに覆われていない腹にナイフが突き刺さり、倒れ落ちる。
「シルヴィアー!」
ダンダラ模様と腹を揺らしながら奴が叫ぶ。
「よくもシルヴィアをー!」
お前が趣味の悪いコスプレさせてるからいけないんだろうがっ!
俺は突進する。
横から誰かが突いてくる。
俺は慌てて飛び退くと、そちらを向く。
2人の騎士を護衛に引き連れた鎖帷子の上に僧服を重ね着した男は右手のあるところにかわりに取り付けられた鋭い刃で突くと、1回転して、左手に持った手斧で俺を追撃してくる。
「異端に同情するのみならず、亜人の手助けをするとは! 異端です! 異端者をー見つけましたーっ!」
二度と会いたくなかったおかしなやつが揃い踏みする。
俺が切り捨てようとすると元異端審問官現職今回の遠征の指揮官とおぼしきカルミを守るように騎士が前に進み出ててくる。
盾の一撃を後ろに飛んで交わす。
とりあえずこいつらよりも危ない奴を片付けないと。
そう考えているところに聞き慣れた(聞き慣れたくない)甲高い叫び声が響く。
「さぁ、ロリ子たんにお仕置き行っくよぉ。萌え萌え恋の三段突きーいぇぇーえい! 針よっ! 刃よぉぉぉぉ!」
「痛いっ痛いいたいイタいイタイイタイイタイイタイ!」
ミカが泣き叫ぶ声がする。
俺は彼女の駆け寄る。
自らのバシネットを脱ごうともがく彼女に近づくと肩をつかまえ、しっかりと抱きしめる。
バイザーを跳ね上げるとゆっくりとささやく。
「大丈夫、痛くない。全部幻だよ。俺がついてる。俺がすぐにあいつを始末するから。もう大丈夫」
暴れていた彼女の震えがとまる。
よし殺ろう。
キン○マ切り落として、尻の穴に詰めてやるんだっけ?
「なーに怒ってんだよ。童貞野郎が。きもいんだよ」
踊る標的が怒鳴る。
「てめぇだって同じだろ。糞童貞がっ! 使わなさすぎて腹にめり込んでんだろ!」
俺は怒鳴り返す。
「なーに言ってんだか。ボクはもうこの世界でありとあらゆるプレイを楽しみ尽くしたさ。もうね、乾く暇もないよ。お前の彼女も死ぬまで楽しんでやるさ」
「楽しみ尽くしたんなら、もう汚ぇ芋はいらないな。切り落としてやるっ!」
俺は向かってくる踊る親衛隊のビキニアーマー女の腹を蹴り飛ばして、突進する。
変態の性癖は安全なところで披露するにとどめておけよ。
お前も変態に付き合って、そんなもの着てるんじゃねぇよ。




