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インターミッション 2.5

バイオロイド開発秘話

「星系移動技術の開発と軍事戦略の変遷」

マリーエンブルグ辺境伯領軍科学技術局レポートより抜粋


新世紀第1期の惑星開拓時代から、第2期星系大航海時代が始まるまでの間には大きな技術的な障壁が存在していた。

光速の壁である。

物体の移動速度は光速を越える事は出来ない。

どれだけ宇宙船の推進装置の性能を高めても、何十光年も離れてる次の星系はあまりにも遠かった。

そのため、初期の星系開発はのろのろと地を這うようなスピードでしか進展しなかった。

人類は長い期間母星周辺星系に留まらざるを得なかった。


そんな時代のある時、ある植民地惑星の周辺で惑星開拓探査艇が行方不明となる事件が起こる。

(機密指定のため詳細は非開示)

調査の結果、当該宙域にあった某国の人工衛星が核爆発事故により破壊され、宙域に強力な電磁波が発生したことが原因である事が判明した。

宇宙空間で核爆発により当該宙域に時空の歪みが生じ、探査艇はその”裂け目”とも言うべき疑似ブラックホールに消えたと結論づけられた。

この偶然に発見された時空の歪みは、以降”時空の裂け目”と称される事になる。

消えた探査艇はついに発見されることはなかったが、折しも当時著しい進展を見せつつあった量子物理学理論を背景に、物理学者と新開発の量子コンピュータによる解析研究が集中的に試みられた。


そして幾多の実験を経た百年あまり後に、ついに人類は”時空の裂け目”を人工的に発生させ光の年数を越える場所に短期間で転移する技術を確立した。

その技術を”時空転移”と言う。だが問題はまだいくつか残った。

先ず、入り口となる”裂け目”は作れても、出口となる”裂け目”は意図する特定の場所には作れなかった。

”時空転移”は量子物理学理論に基づく現象であるため、時空を越える入り口と出口を繋ぐ”トンネル”は作れても、出口の出現地は一定の領域内の確率振幅論的などこかであって、コントロールすることが出来なかった。

次に、生身の人間は”時空”を越えられないことが判明した。

初期の動物実験では、時空の裂け目を経由し、出口に出現した生物の脳波は停止し覚醒しなかった。

この事象は”シュレディンガー生的存在限界”と後に名付けられた。

量子物理学的には、量子化した物体は同時に複数の場所で存在しうる可能性を持つが、現実の生物の脳はそれに耐えれなかったのだ。

それらの課題に対し、対応策を作り出すのもやはり人類であった。

先ずAI無人探査艇を時空の裂け目に送り込み、先に出現地に出口となる”裂け目”を作った。

次に人工冬眠状態(脳波停止状態)の人を送り、転移先で覚醒させると言うアイデアを実用化したのだった。

この技術を得て、人類はこれまで到達不可能な領域まで人を送ることが出来るようになり、行動範囲を広げて星系開発を急速に進展させ、幾多の植民地星系の成立をもたらした。


植民地星系解放戦争の時期を経た第3期星系抗争時代。

この時代初期の星系間戦争は”時空転移”を利用し行われた。

すなわち管制AIを積んだアンドロイド戦闘鑑に人工冬眠兵士を乗せ、戦場付近に展開後覚醒させ、その後互いに兵器で殴り合う極めて原始的な戦闘とも言えた。

これにより数十光年離れた星系同士での戦闘が実現したが、この戦闘方式は程なく行き詰まりを見せる。

この時代、各有力領主は互いに”星系防衛量子コンピュータAI”を完成させていたため、この戦術への対抗手段も既に確立されていた。

敵星系に出現したアンドロイド戦闘鑑は、敵防衛AIにより忽ちハックされ人工冬眠兵士の目覚めを待つことなく直ちに無力化された。

戦場付近に直接転移し、人が戦闘を行う戦術は程なく放棄されることになった。


次に考案された戦術はアヴァタール戦闘方式で、これは現在も選帝候領各軍の主要な戦術となっている。

”アヴァタール”すなわち古代語で言う”化身”戦闘方式とは、敵星系索敵外部の安全宙域に人間本体を置き、敵との戦闘宙域では”化身”となる意志なきクローンをリモートで本人が戦わせると言うものである。

戦闘クローンと共に戦闘に従事するアンドロイド兵士は、人間本体からのみ支配を受けるため、敵防衛AIからハックされることは回避できた。

しかしアヴァタール戦闘方式にも問題はある。

ヴァーチャル戦争ゲームに近いこの方式は、当初は人的資源の費消を抑制できるものと期待されていたが、結局はそうはならなかった。

クローン培養技術自体に問題はなかった。本体の受け皿となるクローン生体は容易に大量培養出来たが、その意志無き脳だけは、本体と1対1で管制量子AI経由でのコントロールを必要とした。

しかし管制量子AIの大量生産と同時運用は技術的に困難であった為、戦闘クローンによる大規模作戦での運用は断念される。

また人の本体とクローンは管制量子AI経由で、互いの脳神経を極めて強固に結合していたため、クローンの脳が機能停止すれば本体の脳も停止し再覚醒は出来なかった。

すなわちクローンの死は本人の死を意味したので、戦争による人的資源の損耗率は前時代と変わることはなかった。


とは言え、アヴァタール戦闘方式の確立はその後の戦争の有り様を変えた。

有力星系領主間の大規模艦隊による会戦は姿を消し、小編成のアヴァタール部隊による小規模戦闘が星系領主の紛争境界域で散発的に行われる。

この状況は必然的に戦線の膠着をもたらした。またそれは敵星系領主を打倒する決定的な戦闘機会の喪失をも意味した。

各星系勢力の5選帝候への収斂と星系帝国の成立は、こうした軍事的事情を背景にしたとも言える。

これが”帝国の平和”の実態であった。

それでも、選帝候達はなお自身の野望を放棄した訳ではなかった。

それぞれが局面を一気に打開する、次の一手を模索していた。


こうした中、我が辺境伯領で画期的なアイデアが軍令本部参謀部より提案されるに至った。

それが”プラン・ラグナロク”すなわちバイオロイド開発計画であった。

クローン兵士は培養過程で多少強化されたとしても、操るのは所詮”ただの人”に過ぎない。

それに対し、バイオロイドは遺伝子改良された胚段階から強化培養され、さらに戦術用ナノ量子AIを内蔵するよう設計されていた。

人に操られるのではなく自律的に戦術AIを駆使し、自ら考え行動できるスーパー戦士の誕生が企図された。

さらに新たに開発中の生体AIと同質化させれば、生物学的にも外見的にもまったく人間と変わらない存在ながら、人間を遙かに越える生体兵器と化すことが出来る。

実際戦術量子AIのシュミレーションでは、バイオロイドはただの一体でも敵星系に潜入出来れば、敵主要惑星さえも内部から破壊可能と評価された。

まさしく敵星系中枢で蠢く獅子身中の虫と化し、現在の選帝候間の均衡を一気に覆し、選帝候との名の”神々の滅亡”をもたらす最終兵器と成り得る可能性を秘めていた。

そしてバイオロイドを育成するための、特別な管制量子コンピュータAIが新開発され”マザー”と名付けられることになった。

こうしておよそ100年前に、本極秘計画はスタートした・・・ ・・・ ・・・

・・・ ・・・ ・・・


(これ以降の記録はマザーのデータ消失により、残されていないため評価不能)

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