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7. ローエンの攻防(中編)

惑星ロスロリエン衛星軌道上、惑星探査艇の艦橋にて。

ヴァネッサはノエルとバイオロイド(ギル)の邂逅の一部始終を見ていた。

(本当に出会ってしまうなんて・・・。そして一緒に行ってしまった・・・)

これがよくある宮廷劇のシーンであるならば、「ああ!何と言う運命の出会い!ブラボー!」と観客は総立ちで拍手喝采したことだろう。

それほど現実味のない創られたが如き、俄かには信じられない邂逅こうけいだった。

2人はすぐに森の不可視エリアに消え、この後は空から見守ることも出来なくなった。

この先にはドラコの3個中隊が待ち受けている。

彼らを待ち受けるのは、間違いなくかつてないほどの”過酷しれん”だ。

これからもう、ヴァネッサに出来る事はない。

だから・・・彼女は初めて自分以外のことで神に祈った。

「神よ・・・。二人をどうかお守り下さい」


奥方の結界の中は変わらず深い霧が立ち込め、ドラコ第3中隊の侵攻スピードは極端に鈍った。

小隊が離れないよう5名と15機は一体となって、磁気センサーを頼りに合流地点を目指して少しずつゆっくりと進んで行く。

なので、霧の影響を受けないギルと、連れられるノエルはすぐ彼らに追いつくことが出来た。

ノエルがギルに小声で説明する。

「奴ら数は多いが排除する的はたったの5つでいい。奴らは4機で1つの隊を作るが、目標はその真ん中にいるアヴァタール士官であるクローン兵だ」

「クローン兵の首の後ろに、5センチ程の小さな出っ張りがある。本体と接続する神経回路の結節点だ。そこを破壊されるとクローン兵は、本体との接続を失い動けなくなる」

ノエルが自分の首の後ろの出っ張りを見せながら続ける。

「アヴァタール士官が本体と切り離されたら、残り3体のアンドロイド兵のコントロールも同時に失われる。もう危険はない」

ギルはノエルから取り上げたレーザーガンを、あちこちいじり回しながら話を聞いている。

「・・・そいつの扱いは解ったか?霧の中からちっこい的を撃たなきゃならんが出来るか?もし外したら、アンドロイド兵が攻撃したヤツを一斉に撃ってくるぞ」

霧の中から精密射撃とは普通は結構な無茶振りであるが、ギルはにっこりと無邪気な笑みを浮かべる。

「何の問題もない。これの仕組みも完全に理解した」

そしてギルは「ここにいて」と言い置き、飛び上がって頭上のマルローン樹の茂みに消えた。


第3中隊チャーリー指揮官は内心焦っていた。

金色の葉の森に侵入後、不思議な霧のせいで視界を奪われ、各種センサーも役に立たなくなった。

大佐との合流地点の座標は森への侵入前に受け取ったが、そこに向かうための磁気センサーがどうも信頼が置けない。

隣の小隊の持つ磁気センサーが示す数値と何故か違うのだ。

暫く進んだ後、ついにセンサーの数値がランダムに変わり始め、今自分たちが何処にいるのか、一体何処に向かっているのか全く分からなくなった。

その時、隣の小隊から騒ぎが巻き起こった。

警報アラート!チャーリー03が襲撃された!」

視界が効かないため、辺りの様子が判然しない中、他の小隊がめくら滅法に銃器を発砲し始めた。

「チャーリー05がやられた!」

反対側の小隊から声が上げる。

警告する声と発砲はあっという間に減っていく。

そして最後に、中隊指揮官のチャーリー01が頸椎部に衝撃を受け一瞬で意識を失った。

・・・いつの間にかすべての小隊が沈黙していた。

黄金樹の森の霧の中・・・主を失ったアンドロイド兵が、電池が切れたオモチャのように静かに佇んでいた・・・。


ルチアはメリザンドと共に、里の聖樹”ガラドの奥方様”の傍らに立ち、奥方様の白い幹に手を添えていた。

二人は結界内に侵入する敵を、聖樹を通してマルローン樹を操り、様々な妨害を施して排除していた。

里の聖樹”ガラドの奥方様”は不思議な力を持っている。

生きている樹木でありながら意志を持ち、黄金樹の森にあるすべてのマルローン樹をその根や葉を相互に繋げる事によって支配していた。

あたかもそれは、人の脳が神経細胞を体中に張り巡らせる事によって、あらゆる感覚を脳に伝える事で、目や口や手足など体中の全ての器官を支配してるのに似ていた。

特殊な霧を自在に発生させ、上空からの走査の目を妨害し、地上での視界を奪い、あらゆる機器のセンサー類を狂わし、敵の通信をも阻害し撃退したこの力こそが、”奥方様の加護”の正体であった。

メリザンドとルチアは、聖樹と精神的に繋がる事によって、黄金樹の森で起こるすべての出来事をマルローン樹から把握し知覚していた。

これこそがドリュアードの秘密であり、呪術師シャーマンの持つ秘技でもあった。

現代に生きる多くの人類からすれば、この不思議な現象は魔法としか表現出来ないだろう。

だがこれは遠い昔、人類とは別の知的生命体が発展させ、今はもうその原理を理解する者がいないのだとしても、世代を越えて彼女らに連綿と伝えられて来た、別系統に属する神秘の科学であった。

その彼女らであるが、ローエンの里にもついに最後の戦いが近づいていた。


リーは降下しつつある濃い霧に覆われた地表を睨んでいた。

霧の下の状況は判らない。自分たちも霧の中に入れば多分連絡を遮断されるのだろう。

(構うものか)リーは嘯く。

戦闘とは所詮、いつだって敵に対する自身の感覚の優劣が全てなのだ。

視覚やセンサーに頼るのではなく、自身の感覚だけを頼りに敵を倒すのみ。

少なくとも今まで、自分はそうやって生き残って来た。

そしてこれからも、そうやって生き残って見せる。

リーはニヤリと口角を上げながら命令する。

「射撃手、現在降下中のポイントに艦載レーザーを照射。そこに降りろ」

強襲揚陸艇から一本のレーザーが下界に放たれ、霧の海にぽっかりと小さな穴が開き、その下にあった半径200メートルの森を消失させた。

・・・その地の防御拠点にいたドリュアード5名諸共に。

彼らはドリュアード最初の犠牲者達だった。

そしてドリュアードの犠牲者はこれで最後ではない。

揚陸艇2隻は相次いで障害物を排除した平坦地に着陸した。

ローエンの聖樹からは3キロと離れていない。

里はもう目と鼻の先の至近距離にあった。

「親衛中隊!第4中隊!展開しろ。ゴライアスは前方に配置。第4中隊はゴライアスと共に行動しろ。目的の新兵器と遭遇したら捕獲作戦開始だ。万一現地先住民が邪魔立てするようなら躊躇なく排除しろ!」

そしてリー自身が搭乗する指揮官機”黒騎士”(漆黒のゴライアス)を出撃させ、率いる2個中隊を揚陸艇の全面に展開させる。

”ゴライアス”はドラコ星系軍陸戦隊が誇る人型機動戦闘兵器である。

ゴライアスの名は、神話に語られる”古の巨人兵”から取られている。

体長5メートルで重火器と近接戦闘武器を装備し、クローン兵士が搭乗することで、人と同じ動作が可能となる機動戦闘兵器だ。

リーはこれから遭遇するであろう新兵器との戦闘を想定し、かつてプトレマイス領の大軍を蹴散らした、ドラコ陸戦隊最強の兵器で臨むことにした。

一瞬晴れた霧はすぐに周辺を包み込み、再び視界は閉ざされた。

衛星軌道上の母鑑はおろか、揚陸艇や周りの部下との通信も既に妨害されていた。

呼び寄せたはずの第3中隊は、未だに到着する気配を見せていない。

(構うものか)リーは不敵に嗤う。

手振りで部隊に指示を出す。

ゴライアスを先頭にした隊列を作り、東の方角に向かって侵攻を開始した。

6機のゴライアスと、30機のアンドロイド兵士に守られた、5名のアヴァタール士官、総勢41機からなる部隊で進んでいく。

まさにローエンの里が位置する方角に向かって。

その部隊の威容は、まさしく星系軍陸戦隊最強との名に恥じないものであった。

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