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6. ローエンの攻防(前編)

ドラコの強襲揚陸艇は3ヶ所に分散し降下していた。

第1、第2中隊は濃い霧で覆われた森林中央部を避け、視界の取れる森の南北の着陸可能地点に。

第3中隊は森林東の時空の裂け目を発見した地点近郊に。

ドラコも軌道上から走査出来ず状況が把握できない霧の中に直接降下し、いきなり新兵器と遭遇する事を恐れたのだ。

「第1中隊アルファ、第2中隊ブラボー、第3中隊チャーリー所定の位置に着きました。作戦開始します」

作戦参謀がリーに報告する。

ドラコの陸戦隊は、1名のアヴァタール士官と3機のアンドロイド兵で1個小隊が構成され、5個小隊で1個中隊(5名15機)を編成していた。

アンドロイド兵はプログラムで自律行動するが、そのコントロールはアヴァタール士官が行っている。

アヴァタール士官はクローン兵で、その本体は惑星軌道上の強襲母艦の作戦行動室内のカプセルで眠っていた。

それぞれの中隊は、周辺部から森の中心部を目指して侵攻していく。


第1中隊は深い森に入り、一定の間隔を保ちながら散開し進んでいた。

未だ森の動物以外には遭遇していない。

森を数キロ程進み、周りの樹木の色が変わり出した頃・・・異変が生じた。

いきなり辺りに濃い霧が立ち込め、視界のほとんどが奪われたのだ。

暗視赤外線ゴーグルに切り替えても状況は改善しない。

アンドロイドの視覚センサーも何故か機能してない。

「こちらアルファ01!02、03、04、05応答せよ!」

中隊指揮官が呼びかけるが反応がない。

揚陸艇、母艦とも連絡がつかない。

通信が遮断されているようだ。

他の小隊の状況も同じだった。

孤立を恐れて中隊を集めようとするも、視界を奪われ通信も遮断され全くままならない。

原始的な方法ではあったが、大きな声を上げて注意を集めてみる。

しかし他の小隊に自分の声は届かなかった。

大声は樹木の金色の葉に吸い込まれて消えていった。

(進むべきか、戻るべきか・・・。しかし部下達とはぐれたままだ・・・)

アンドロイド兵は何も考えないし、答えてもくれない。

アルファ01は途方に暮れた。


「大佐殿!第1、第2中隊との通信が途絶しました!こちらからの連絡は届かず、中隊からの応答もありません。映像モニターも機能を停止しています。・・・状況が把握出来ません!」

慌てた様子で作戦参謀が報告する。

「戦闘か?」尋ねる指揮官席のリーに参謀が答える。

「いえ、戦闘が発生した様子はありません。武器管制システムは作動していません。全員の生命反応はあります」

「連中の位置は分かるか?」

続けるリー。

「軌道上からは不思議な霧に阻まれて位置を探知出来ません。生体反応から推定される大方の予想エリアは走査不能エリアの外周部です。おそらく部隊は互いに連絡出来ないまま、依然としてその付近に留まっているものと思われます」

「・・・つまり何か?・・・連中は皆、ピクニックに出かけた森の中で迷子になったと?」

怒りを込めたリーの問い。

「・・・」

リーの声に恐れを感じて、返答も出来ない参謀。

「で・・・第3中隊はどうした?」とリーが続ける。

「特に問題もなく作戦行動中です。裂け目付近に敵影または新兵器の姿は無かったとの報告が。今は森の不可視エリアに向かって移動中です」

話題が変わり少しだけほっとする参謀。

参謀を無視し、何かを考えながら新たな指示を出すリー。

「第3中隊は不可視エリアには入らず、その手前で待機だ。このままだと他の中隊と同じ目に遭いそうだ。・・・それと第1、第2中隊のアヴァタール士官全員に緊急帰還信号は出せるか?」

「本体に信号を送ればクローンに伝わります。可能です」と参謀。

「では、第1、第2の連中を一旦強襲揚陸艇まで戻らせろ。・・・あいつらは全員再訓練キャンプ送りだな」

リーはサラッと怖いことを言いつつ更に思案している。

(やはりあそこには何かがありそうだ・・・。いよいよもって新兵器の坊やと遭遇するかも知れんな・・・)

「俺が直接指揮した方が良さそうだ。親衛中隊ズールと第4中隊デルタを出す。代わりに第1、第2中隊は揚陸艇ごと母艦に帰還だ」

「俺達の中隊の降下を確認した後、第3中隊には俺たちの降下地点を目標に固まって移動するよう指示をだせ」

「それから、親衛中隊には”ゴライアス”を装備させろ。どうやら本格的な戦闘になりそうな予感がする」

矢継ぎ早に命令を出し終えたリーは、作戦行動室にある自身のカプセルに向かって歩いて行った。


ノエルがロスロリエン湖畔の反対側で新たな裂け目から実体化したのは、ドラコ第3中隊が対岸にあった裂け目の付近の探索を完了し、森の中央部での指揮官部隊との合流を目指して移動開始した後だった。

「さてと・・・とりあえずドラコは行っちまった。あとはどうやってあいつと出会うかだが・・・」

ノエルが呟く。相変わらず独言癖ひとりごとが抜けない。

(あいつは何処にいるんだろうか?裂け目か?それともドラコが向かった森の中央部か・・・)

おそらく他人から見れば、彼の行動は無謀かつ無為無策の行き当たりばったりに見えただろう。

しかし彼は・・・希にみる強運の持ち主であった。


そんなノエルを少し離れた樹上から観察する目があった。

時空の裂け目の発生を感知したギル(ベリル)が、新たな脅威になりえるのかを確かめに来たのだった。

空から降下して来た大勢の侵入者達も、遠目で確認したが今のところはやり過ごす事にした。

・・・どうせ彼らは、奥方様の結界の中で苦労することになる。

(同意)とベリル。

・・・対処するならそれからの方がいい。

(同意)そんなベリルと相談した結果からの判断だった。

・・・あの人はひとり?

(さっきの連中とは違うヤツだな。仲間はいないみたいだな)

・・・何しに?

(たぶん本来の追手かな。ボクらを探しに来たんだろう)

・・・どうしよう?

(排除か。無視か。情報を得るか。どれがいい?)

・・・さっきの空から来た連中には他に仲間がいる。どこかとずっと交信してた。連中が向かった方角には里がある。連中の情報が得られないかな?・・・里が気になる。

(じゃ、会ってみよう。抵抗されたなら無力化すればいい)


それでギルは音もなく樹上を移動し、ノエルの背後に一瞬で降り立つ。

ノエルがそれと気づいた時には、パワードスーツの首筋にナイフがぴたりと据えられていた。

「動かないで。あなたに聞きたい事がある」

ギルが話したのは帝国公用語だった。

ノエルはもちろん驚いたが、同時に己の幸運に感謝する。

「はじめまして10号機。ちょうど君に会いたいと思っていた所なんだ」とノエル。

「・・・それは、ボクのことかな?」

10号機との呼称よびなを聞いて僅かに反応するギル。

「君か、君の中にいるAIか、それともその両方か。ともかくオレ達はそう呼んでいた」

ノエルが返答する。

「あなたは誰?」

「オレか?オレは君が生まれた星、そして逃げ出した場所からやって来た。しがない軍人でノエルと言う名だ。ところで君には・・・人としての名前はあるのか?」

ギルの問いに答えるノエル。

「ギル(とベリル)・・・」

別に明かす必要も無かったのに、不思議と返事をしていた。

「ここに何しに来たの?」

続けるギル。

「君と話がしたかった。・・・君を逃げ出した場所に戻すのがオレの任務だ」

ノエルはギルに対し正直に伝える事にした。

(たぶん大人のウソは通じない。あいつが人であるならば尚更・・・)

「・・・。黙って従うと思う?ボクには今やることがある。多分その後も。・・・それよりさっきの彼らは何者?」

ノエルの首筋からナイフを外さず尋ねるギル。

「君を狙っている敵だ。・・・オレたちの敵でもある。ドラコって星の軍隊だ」

(ドラコニス選帝候ドラコ大公領の軍)ベリルが補足してくれる。

「どうしてボクを狙う?・・・そして彼らはどうして森の奥に?」

ギルが尋ねる。

「奴らは君の力を知った。それで奴らは君が欲しいと思った。空から見たら森の中心に不思議な場所がある。森の奥に向かったのは、君がそこにいると思ったからだ。・・・奴らは凶暴だ。君の仲間にも危険が迫るだろう。・・・奴らは君を捕まえるためには手段を選ばない」

ノエルは包み隠さず全てを説明する。

もちろんそれで信頼を得られるとは思ってはいない。

だが危険を伝える事が今は必要だった。

ギルの顔が見る見る強ばっていく。

そして叫ぶ。

「彼らを追って止めなければ!」

・・・彼をどうしよう?

(邪魔されないよう無力化する?)ベリルが聞いてくる。


ギルが逡巡したちょうどその時、空から更に2隻の船が降下してくるのがギルの目に入った。

今度は真っ直ぐ里のある場所に向かっている。

ノエルが頭上を見上げながら・・・平然とギルに声を掛けた。

「なあ・・・。オレたちはひとまず休戦と言うのはどうかな?・・・武装は放棄するし、捕虜扱いでも構わない。・・・オレは奴らとの戦い方を知っているし、奴らの弱点も分かる。だからオレを連れて行け。・・・時間が惜しいんだろう?」

ギルは更に迷うものの、それにも増して里の事が気に懸かる。

結局ギルはノエルの武器を取り上げ、2人して森に向かった第3中隊を追って行くのだった。

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