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5. 惑星ロスロリエン

予定の時刻、ノエル達の惑星探査艇は惑星ロスロリエンの衛星軌道上に到着していた。

衛星軌道上から見るロスロリエンは、緑の多い美しい星だった。

大地は赤道部を中心に、広大な森に深く覆われているようだ。

見たところ目立った都市は存在しない。

人口はおそらく百万にも満たないだろう。

文化的には旧母星時代の歴史で言うところの、中世前期時代に当たるのかも知れない。

天界に例えるべき宇宙空間では、今や何百億もの人類が暮らしていて、各々が常時万単位の船を飛ばしながら、あちこちで科学の最先端兵器で互いに争っている。

しかし下界とも言うべきロスロリエンは、未だに剣と弓(ひょっとしたら魔法も)が活躍する世界に違いない。

・・・何とも不思議な気分だ。同じ時空にそれらが共生してるとは。とてもじゃないが信じられない。

(それであいつは、・・・ここで何を考えて、何をしているのだろうか?)

ノエルの感慨が尽きることはないが、・・・とりあえず今の自分の任務は、あいつを見つけ連れて帰る事だと気持ちを切り替える。

「ところで少佐殿。・・・どうやって、あのバイオロイドを確保するのでしょうか?」

当然過ぎるヴァネッサの問いがノエルに刺さる。

(・・・そうだよな。・・・それはもちろん聞くよな)

なんせ、こっちは非武装鑑で兵員も大した数は乗せてない。

これで有効な手段を考えるほうがおかしい。

(それでもあいつを連れて帰るには・・・おそらくと言うか・・・絶対に力業じゃ無理なんだよな・・・)

「・・・一応考えてる事はあるんだ。上手く行くかどうかは時の運次第なところもあるんだけど・・・」

ノエルが計画の説明をヴァネッサに始めようとしたちょうどその時だった。


「報告します!惑星軌道付近の宙域に、エネルギー波の膨大な集積と大規模な空間の歪みを検知!時空の裂け目出現します!・・・近い!」

艦橋に緊張した観測要員の声が響き渡る。

ノエル達の探査艇から僅か100キロ程度、宇宙空間では至近距離とも言える場所に巨大な時空の裂け目が現れる。

その裂け目からゆっくりと黒い影が染み出てきて、徐々に膨らみを増す。間違いなく巨大な航宙艦がここに転移して来たのだ。

そして裂け目と同じぐらい巨大になった影は、ノエルらが見守る前で少しずつ実体化し始めた。

「・・・艦影の解析完了!移転した艦の識別紋章は・・・”太陽に龍”!ドラコの惑星強襲母艦です!」

悲鳴にも似た観測要員の声。艦橋全体が戦慄に包まれる。

時空の裂け目からすぐ隣の宙域に現れたのは、”ドラコニス選帝候ドラコ大公領”の惑星強襲上陸戦闘母鑑であった。

ノエル達探査艇の優に百倍以上の大きさはあるだろう。惑星侵攻戦では主力となる戦闘艦だ。

スクリーンに映るその巨大なシルエットは”凶悪”その一言に尽きた。

「ここは星系中立地帯だ。何のつもりでドラコは第一級戦闘鑑を持ってきたんだ?」

事態の思わぬ急転に、さすがに動揺を隠せないノエル。

急ぎ指示を飛ばす。

「ノルトライン中尉!奴らの意図を確認しろ!」

「こちらはマリーエンブルク辺境伯領所属惑星研究探査艇”ディスカバリー”。当方は学術研究調査目的の非武装鑑である。貴鑑の所属および鑑名を明らかにされたい。そして星系間条約に基づく中立宙域に、戦闘鑑で現れた理由の説明を求める」

ヴァネッサの照会が相手に送信される。

「当鑑はドラコ大公領星系軍所属第3アヴァタール・レギオン旗艦”ゴルゴロス”。ここはドラコ星系領域内であり、これより我が軍はこのコロニー惑星に”偶然”迷い込んだ、本来ドラコ領に帰属すべき軍用物質の回収作戦を開始する。・・・手出しは無用である」

驚くべき返答が来た。

「ドラコ第3アヴァタール・レギオン・・・。"アンドロイド殺し”・・・"ビースト”こと、リー大佐の精鋭陸戦部隊です・・・」

呆然と呟くヴァネッサ。

さらにドラコ戦闘鑑より新たな通信が入る。

・・・なんとリー大佐本人からだった。

「マリーエンブルク”ディスカバリー”に告げる。当鑑の主砲は既に貴艦を照準している。妙な行動は取らないよう忠告する。・・・まあ指をくわえて黙って見てろって事だ!ハハハ!」

言いたいことだけを伝え、通信は一方的に切られた。

「”ドラコの狂犬”め!平然と星系間条約を無視しやがって!中立宙域で軍事行動を起こすだなんて!・・・奴ら!初めから”あいつ”を横取りするつもりだったんだ!!」

普段の平静さをかなぐり捨て、激高し怒鳴り散らすノエルだった。


ドラコ強襲母艦の艦橋にて、指揮官席に座る第3アヴァタール・レギオン司令リー大佐は、マリーエンブルク探査艇への興味を既に失っていた。

「ほっとけ・・・。どうせ連中は何も出来ん。極秘任務とは言いながらも、本当にわざわざ非武装探査艇たった一隻で来るとはな。ハハハ。・・・まあ一応警告はした。何か変な動きを見せたら遠慮なくぶっ放せ」

リーはニヤリと笑い、次いで作戦行動の準備を部下に指示する。

事実、リーの強襲母鑑はマリーエンブルクとの境界領域でノエル達を待ち伏せしていた。

情報局からの連絡通り、マリーエンブルクが”新兵器”を見つけたタイミングを見計らい、来ると睨んでたマリーエンブルクの探査艇の後を密かにつけていたのだった。


リー大佐が、他星系領から”アンドロイド殺し””ビースト”または”狂犬”と呼ばれるのには理由がある。

10年ほど前の、比較的大規模なプトレマイス王国領との境界惑星紛争「ダゴルラド戦役」において、当時少佐であったリーは、敵プトレマイス軍アンドロイド部隊60機を含む3個中隊を、自身が率いるアヴァタール1個小隊4機で完全に破壊し全滅させた。

後日再現映像に映っていた戦闘時の彼の有り様は、まさしく”野獣”と言う呼び名に相応しい凶暴さで、その容赦ない殺戮は残虐を極めていたと言う。

常に手段を選ばないその凶悪な戦闘行為は、その後の他の戦場でもしばしば戦争犯罪の疑惑を呼んでいる。

いろんな意味で、リーの部隊は紛れもなく星系陸戦隊無双として、他の星系領の星系軍にとって常に恐れられる存在であった。

作戦プラン”花嫁の略奪”の計画通り、第1、第2、第3中隊は降下を開始。第4、第5中隊そして親衛中隊は母艦で待機」リーが作戦開始の指示を出す。

ドラコ強襲揚陸艇3隻が、直ちに母艦から分離し、惑星ロスロリエン赤道付近の大森林周辺部に降下して行く。

「さて・・・。マリーエンブルクの新兵器坊やのお手並み拝見と行くかな・・・」

とは言いつつも、作戦成功へのリーの自信は微塵の揺るぎもなかった。


ローエンの里にて、ルチアは驚愕しつつ空を見つめていた。

ローエンは”奥方様の加護”深い霧に覆われているが、不思議なことに里からの視界は妨げなかった。

「空から巨大な船が降りてくる・・・」

ローエンの真上ではないが、そう遠く離れてもいない・・・。

「あれはここに来るのだろうか?」

疑問形であるが、それがやって来る事は・・・もう確信に近い。

「各自は予定の配置に着け。皆にはガラドの奥方様の加護がある。何も恐れるには及ばない」

里長のメリザンドがドリュアード達に命令を下す。

「状況によっては魔弾まだんを使ってもよい。・・・但し防ぎようのない危険が迫ったならば、直ちに撤退せよ!」

ルチアはメリザンドと一緒に、里の結界と聖樹の守りを司ることになっている。

「ギル・・・。あんたはどこ?・・・敵が・・・ローエンに来るよ・・・」


一方探査艇ディスカバリー艦橋にて。

ノエルは降下していくドラコ強襲揚陸艇を睨みながら苦悶していた。

(ドラコは意味のない脅しはしない。兵員をこちらが降ろそうとすれば、間違いなくこちらを吹き飛ばすだろう)

「少佐殿・・・」

心配そうなヴァネッサがこちらを見つめている。

ノエルは一瞬だけ逡巡したのちに決断する。

・・・初めから考えていた事だ。

早くなるか遅くなるかだけの違い・・・。

どのみち選択していたはずの行動だ。

「ノルトライン中尉。オレはアヴァタール単機でロスロリエンに降りる。以前幻獣が作った裂け目の反対側に別の回廊を作れ」

驚愕の表情でヴァネッサが叫んだ。

「いけません!ドラコもいます。自殺行為です!もし・・少佐殿のクローンが破壊されれば、少佐殿は死んでしまいます!」

「ドラコは武力で”あいつ”を奪おうとするだろう。・・・でもそれは恐らく失敗する。そもそも武力ではダメなんだ。オレはこっそり”あいつ”との合流を図り、一緒に脱出する方法を探る」

ノエルは淡々とヴァネッサに語りかける。

「そんな!そんな計画とも言えない不確かなやり方に、少佐殿の生命を賭けるなんて!どうか考え直して下さい!」

ヴァネッサの言葉はもはや悲鳴に近い。

「ヴァネッサ・・・。もしここでドラコに”あいつ”を奪われたら、今後オレ達はどうなると思う?直ちに銃殺にはならないにしても、軍務上では間違いなく抹殺される。お互い将来なんてなくなる」さらに続けるノエル。

「・・・心配しなくていい。オレには・・・確信がある。”あいつ”は人だ。君も見ただろう?”あいつ”が幻獣の攻撃から少女を庇ったのを。仮に・・・”あいつ”が心のない単なる生体兵器だったとしたら、”あいつ”は自分以外を決して省みるはずがない。・・・”あいつ”は紛れもない人なんだ。・・・だとしたら・・・人と人が解り合う方法は・・・言葉しかない。オレは・・・言葉を尽くして”あいつ”を連れ戻す。どうか分かってくれないか?ヴァネッサ・・・」

黙ってじっとノエルを見つめるヴァネッサの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。

「少佐殿・・・。あなたはいつだって・・・決してご自分を曲げることはないのでしょうね・・・。

それでもあなたを信じると、わたくしの心が・・・告げています。わたくしには・・・わたくしの願いがありますが、ただ今だけは・・・少佐殿のご命令の通りに致します」

それから・・・程なくノエルはコントロールカプセルに眠り、同時に目を覚ましたノエルのアヴァタールはパワードスーツに身を包み、艦内の気密室に発生させた小さな時空の裂け目へと送り込まれる。

ノエルはアヴァタールの身で、ロスロリエン湖畔の反対側に発生した裂け目で実体化した。

そうして・・・ノエル自身の運命を決定づける邂逅の時は近づく・・・。

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