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9話

 赤城満月、吸血鬼疑惑に見舞われた俺は春なのに凍えるような寒さに震えながら布団に入った。多分、急性アルコール中毒の症状だと思う。飲み過ぎたかな?

 勿論部屋の戸締りはきちんとチェックしてドアにチェーンまでかける念の入れようだ。


 これで俺が翌朝死体で見つかったら完全なる密室殺人であり、犯行は人外生物の仕業でFAです。

 無駄だと思うがカバンに「俺の首元に噛み跡があって失血死していたら犯人は赤城満月です」と書いたメモ用紙を入れて手帳に挟んでおいた。


 頼む、生きていてくれ明日の俺。


 ――翌朝。

 俺の願いは天に届いたらしく、無事何事もなく朝を迎えることができた。

 何故か確実に閉めたはずの部屋の鍵が外れていたのが気になったが問題はないだろう…たぶん。

 助かった…とひと息ついてロビーに向かうと、2年A組の田中が物言わぬ姿で見つかったという一報を受けて俺は崩れ落ちた。


………

……


「酷い…誰がこんなことを…」


 山田が息を飲んで青褪めていた。俺も体調不良と二日酔い気味でゲロ吐きそうです。


「"犯人は彼方"……ダイイングメッセージですか」


「委員長さん、田中くんは死んでませんのでダイイングメッセージではありません」


 委員長と名探偵の血族と噂の明智が現場検証を行っていた。彼女も2年A組の生徒だ。

 テレビで鑑識の人がやってる指紋取りのような道具を引っ張り出してきてメモ用紙をぱふぱふしている。あれ一体なんて名前の道具なんだ?


 そして床に転がる田中は見るも無惨な姿だった。


 額には肉の落書きがあり、その傍らに"犯人は彼方"と赤いマジックで書かれたメモ用紙が転がっていて、風呂上がりに着ていたはずの浴衣は服の体裁を成しておらず、パンツはビリビリに破れていて下半身は丸出し状態だ。

 身体中に墨で書かれた落書きが施されていて、線を辿ると局部にまでその被害は及んでいる。

 頭には誰のか分からんネクタイが横向きに結ばれていて右手には焼酎の一升瓶が握られている。


「昨晩の見回りは結城先生が担当されていましたよね?」


「落ち着け明智、俺は見回りを担当していたが点呼以降はずっとロビーに居たんだ。それに、夜の点呼を取った時は田中はまだ生きていたんだ」


「先生、勘違いされているようですが田中くんは今も生きています。脈拍も正常です」


「先生のアリバイならありますわ。昨晩先生は私とロビーに居たもの……ね、先生?」


「ダメだ明智、赤城が来た。もう一つの殺人事件が起きてしまう」


「先生落ち着いてください、何を言ってますか?殺人事件は一件も発生していません。とりあえず彼方さんを呼びましょう」


 余談だが、明智は行く先々でこういった事件に遭遇することが多く、その事件の数々を自らの手でいくつも解決してきたらしい。

 事件の影あるところに明智有り。


 コ◯ン君じゃん。


 数分後、委員長に連れられてやってきたのは彼方希かなた のぞみという女生徒だ。

 田中の幼馴染らしく、昔からの腐れ縁。

 誰が名付けたか"絶壁の彼方"の愛称で親しまれているが、本人は不満らしくうっかり本人の前で口にしようもんならいつもの田中よろしく壁に尻までめり込む羽目になる。

 あれ、意外と修理費嵩むから辞めて欲しいんだよな。


「何?田中のことで聞きたいことがあるって……」


 呼ばれて部屋にやってきた彼方は田中のあられも無い姿を見て硬直し、途端に彼女の顔から表情の一切が消え失せた。

 俺は初めてみたよ、人の顔から感情が消える瞬間。


「切っていい? 潰していい? どっちが良いと思う? ねえ先生?」


「やめろ彼方、彼氏に浮気されて病みすぎてメンタル壊した女みたいな表情で俺に田中の生殺与奪の権を握らせるな」


「先生もようやく田中くんが生きていることを認識していただけたようで何よりです」


 彼方に詰め寄られる俺の傍らで神妙な面持ちのまま明智は俺にそう言い放った。名探偵、さてはお前実はボケが上手いな?


「先生」


「ヒイッ!」


「酷いわ、声を掛けただけなのにそんなに怖がらなくても」


 前科有りの方からいきなり声かけられたら誰でも怖がると思うんだよ赤城。

 俺の部屋の鍵開けたのもお前だろ。


「…まあいいわ。話を進めてもらえるかしら?田中くんのこの惨たらしい状況が悪化する前に犯人と原因の特定をしましょう」


「たしかにこのままでは彼方さんの手で本当の殺人事件に変わってしまいそうですね」


「ガルルル……」


 彼方さん、飢えた獣みたいになっとる。今にも田中に飛びかかってサッカーボールよろしく蹴り飛ばしそうな勢いだ。


「むにゃ……むにゃ………彼方……しゅき……」


 あ、田中の寝言で彼方が止まった。

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