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7話

 桂木に促されるようにレストランに入ることになった。一般ピーポーに優しいお手頃価格のファミレスだ。

 ハンバーグを食べるかドリアを食べるかパスタを食べるかの3択になりがちな場所とも言える。


 とりあえず起きてからそこそこに時間も経ったが、昼飯にはまだ少し早い時間で客も空席がチラホラある程度にまばらだ。


 時間外勤務(サービス残業)とも言える桂木凛花の相談事だが、俺は後ろ向きな気持ちで彼女と対面はしていない。

 平和平穏な生活をモットーに掲げている俺だが、別に教職に対して思うところがあるわけでもなく、生徒を蔑ろにしたいというわけでもないのだ。


 滅多に教室に現れないとはいえ、自分の受け持つ生徒からの相談というのもある意味では教師としての本懐だと思っている。


 子供達を導く仕事こそが教師というものだからだ。例え給料が発生しないといっても、子供達の手助けになれたならそれはなによりも嬉しいことに変わりはない。


「ゆうれい先生、ドリンクバー頼んでいい?」


 生徒からの相談は嬉しいのだ!

 例えいつの間にか奢ることになっていても!(血涙)


「別にいいぞ、好きなもん食えよ。安月給だけどな」


「最後の一言がなければカッコよかったのに」


 そう言いながら桂木は手頃な価格のハンバーグランチとサイドメニューのフライドポテト、そしてドリンクバーを頼んでいた。

 しばらくして店員がテーブルに注文の品を並べていく。


「それで、聞いて欲しいことってのはなんだ」


 薄いウーロン茶を飲みながら俺は桂木に問いかけた。


「お前が教室に来ないこととなんか関係あんのか?」


「……そう、なるかな」


 神妙な面持ちで行儀悪く肘をついてフライドポテトを摘みながら桂木は大きく項垂れた。


「これは真剣な話なんだけど、笑わないで聞いてくれる?」


「ああ、一応教師の俺にタメ口きいてるのも別に気にしてないし笑わない」


 気にしてんじゃん、と桂木は苦笑いをした。


「……あのクラス、なんか怖いんだよね」


 見た目は神をも恐れぬギャルの桂木に怖いと思うものがあったことに少し驚いたが、口にすると俺が怖い目に遭いそうなので喉元まできていたツッコミを飲み込んだ。


 しかしクラスが怖いというのはよくわからない話だと俺は感じた。

 よくわからん"主人公気質"な連中が多く、金髪碧眼巨乳美少女がいきなり飛び込んでくるような人生送ってる変わった生徒ばかりよくもまあこんなに集まったもんだなとは思うが、変わってるなと思う程度だし。


「アタシ、昔から霊感みたいなの鋭くて。……あの教室、変身魔法少女モノに出てくるマスコット人形みたいなのがふよふよ浮いてるし、なんかお侍さんの格好した幽霊みたいなのがひっついてる子も居るし、近くの席の陽子ちゃんなんて「愚か者が…」とか言いながら突然目の前で消えたりするし、森田くんなんか脈絡もなくいきなり腹痛訴えて教室飛び出していくし…何か尋常じゃないと思う。アタシ、ああいう理解できないの本当に怖くて……」


「桂木」


「え、え? なに?」


 俺は桂木の名前を呼びながらテーブル越しに彼女の震える両肩に手を置いた。


「わかる」


「だよねー!?おかしいよね!?」


「あの人形、誰にも見えてないと思ってた」


「アタシ本当に自分がおかしくなったのかと思って夜泣いてたんだよー!?」


「俺も怖いから目を合わせないようにしてる。あれ魂取られるぞ」


「周りの誰も気付いてない様子だったからアタシだけに見えてると思って……うわぁぁあん!」


「泣くな柏木。俺がお前を振った男みたいになってるから、頼む」


 周りの視線が痛い。


………

……


 桂木の見た目がギャルなことが相乗効果となりファミレス内では完全に痴情のもつれだろみたいな雰囲気が漂っていたが、俺はなんとか彼女を嗜めることに成功した。


「桂木の言い分はよくわかった。だから泣くな」


「うん…」


 見た目はギャルの癖に頭いいし可愛らしい年相応の反応を見せるもんだなと感心した。


「アタシ本当に幽霊とか実態のないモノがダメで…」


「ホラー苦手なのか、ゾンビとかは?」


「頭撃てば止まるから平気」


 ……近頃の女子高生はよくわからんな。


 だが僥倖だった。

 非常識の集まりとも言える2年A組の連中の中にいて唯一無二とも言える存在と巡り会えた。

 あの得体の知れないのが混じってても、こんな普通の感性を持った生徒もいるもんだ。

 授業に出てこないからってなんだってんだ、俺だってあの中に放り込まれたら逃げ出したくなるんだから。

 桂木のことはガキ大将の台詞ではないが心の友として迎え入れたい気持ちが俺の中で大きくなっていった。

 はっきり言って2年A組の良心とも言える。


 だがそんな俺の心のオアシスは容易く消え去ることとなる。


「お嬢様、このような場所にいらっしゃいましたか」


「……セバス」


 筋骨隆々のピッチピチの黒スーツを身にまとい、片目には眼帯が付けられていて顔面傷だらけの老執事が突然現れたからだ。

 桂木の反応からして、どうやら知り合いらしい。


「知りたくなかった現実なんだけど、桂木の家の人か?」


「そう」


 良かった。

 軽く2桁は人殺してそうな雰囲気の知らない人について行く俺の心のオアシスを見たら見て見ぬフリをするわけにもいかないので、その後の一般ピーポーの俺の命運たるや無惨なものであることはおして知るべしだ。

 水無月らしき人物が消えたような路地裏で身ぐるみ剥がされて転がされてるだろう。


「桂木の保護者の方ですか、良かったです。私は担任の結城という者でして」


「知っている」


 なんで知ってんの?怖いんだけど!


「お嬢様の保護へのご協力、感謝する」


「……そういうわけだから先生、アタシ帰るね」


 さっきまでの明るい雰囲気は一変して桂木も真剣なツラして立ち上がる。

 ナニコレ?俺ここにいちゃいけないやつだよな?


 そうして、尋常じゃない雰囲気で立ち去る桂木を横目に俺はしばらく呆然としたのちに、残された伝票片手にレジへと向かった。


「意味深な後ろ暗そうな背景を微妙に匂わせて立ち去るのやめてくんない?」


 俺は一人虚しく、繁華街の中心で不満を叫んだ。


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