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10話

 帰りのバスの車内。

 散々な騒動を巻き起こした田中殺人事件(?)は一応解決した。

 なんと「酷い…誰がこんなことを……」などと言っていた山田が持ち込んだ酒瓶であのザマになったらしい。

 山田は動かなくなった田中の体に落書きをしたことも明智の追及により自白をした。


「まあ、田中くんと同室の山田くんが最も濃厚でしたからね」


 というのが明智の推理の結果らしい。

 それならわざわざ指紋取る必要あった?


 ちなみに事件自体は俺が揉み消した。田中はお泊まりの雰囲気に飲まれてジュースで泥酔していただけだったからだ。

 流石に高校生で飲酒はやる気のない俺でも直接見てしまったら見逃すわけにはいかないからだ。

 山田が親の飲んだ一升瓶にオレンジジュースを入れて持ってきてたらしい。明智の鑑識の結果もあの瓶にはアルコールが含まれていないことも確認した。明智便利だなオイ。


 彼方はものすご〜く微妙な表情のまま壊れたロボットみたいになっている。

 田中の寝言で固まったあと、顔を赤らめるでもなく怒るわけでもなくとてつもなく動きが鈍くなった。

 あれを脈有りとみるか無しとみるかは……難しいところだな。がんばれ田中。山田の嫉妬センサーには反応がないところをみると可能性は限りなく薄いが。


「はあ」


 このクラスを受け持ってから1ヶ月になるが、俺のメンタルヘルスはガリガリ削れてる。非日常的なサムシングがたまにやってくることも影響しているが、基本的に成績は優秀なくせに性格・素行に問題有りな生徒が多いからだ。

 ナントカとバカは紙一重って本当だったんだ。


「あら先生、大きなため息を吐いてどうしたんですの?」


「ヒェッ!」


 赤城だ。


「……毎度そのように怯えられては私も傷付きますわ」


「部屋の鍵を外からこじ開けるような奴が言うセリフじゃない」


 昨晩の出来事が脳内リフレインする。

 俺の首筋に愛おしそうに視線を送る赤城。ニヤリと笑う口元には鋭い牙が……逃げる俺、密室殺人、カバンに残しておいたダイイングメッセージ………漏れそう!


「鍵? なんのことですの?」


「お前俺の部屋の鍵こじ開けたろ」


「……私は昨晩先生にフラれたあとは飲みかけの缶チューハイを片付けて部屋に戻りましたわ」


 えっと……つまり赤城以外に俺の部屋の鍵を開けた奴がいるってことか? ナニソレコワイ!


「事件の匂いがします」


「おいいきなり現れるな明智。俺の心臓が保たない」


「そんなことより詳しく事情を聞かせてください」


 えらいグイグイ寄ってきて眼鏡をキラキラ光らせてくるの明智。面倒だし怖いしで真実を知りたくもなかったので昨晩のことは話したくなかったが、このまま諦めて座席に戻るような子じゃないので、俺はかくかくしかじかと明智に事情を説明した。


「ふむ…鍵とチェーンをかけて寝たが、朝になると鍵だけ開いていた…ですか」


「もういいぞ明智。解決しない方がいいことも世の中にはあるんだ」


「いえ、こんなこともあろうかと昨夜先生の部屋のドアから指紋を採取しておきましたので解決可能です」


「それは知りたくなかった事実だなぁ」


 夜中に担任の部屋のドアで指紋採取する生徒が居るなんて現実知りたい教師おるか?10人中10人が知りたくないと答えるぞ。


「先生の部屋のドアについていた指紋は全部で7つですね」


「何人来てんの?怖いが?」


 そう言って明智はカバンから指紋リストをファイリングしたものを取り出して照合していく。


「1つは結城先生本人、2つ目は藤咲先生」


 みちるちゃんは飲みを断ったというのに部屋まで押しかけてきたってわけね。


「3つ目は桂木さん」


 オアシスだ。土曜日中途半端に話が終わったから何か相談事があったんだろうか。


「4つ目は水無月さん」


 水無月?なんで?

 マジで心当たりない…いや、アレか?アレの相談をされても俺は困るぞ?


「5つ目は私です。採取する前に触ったので」


 なんで採取するのにドアに指紋を残す必要があったのかよくわからないが俺は無理矢理自分を納得させた。


「6つ目は赤城さん」


「部屋の前まで来てるじゃねえか」


「チッ…バレましたわ……」


 赤城よ、平然と嘘をつくのやめてくれ。俺は赤城への警戒レベルを一段階引き上げた。こいつは野放しにしてはいけない奴だ。

 

「最後の7つ目は…わかりませんでした。宿の従業員の方かもしれませんね」


「つまり、赤城が濃厚ってことだな。桂木も水無月も違うからな」


「私に鍵を開ける技術なんてないですわよ」


 いや、お前はなんかトンデモパワーでなんとかできるだろ多分。知りたくないけど。


「いえ、犯人はわかりました。赤城さんではありません」


「ん、何か根拠があるのか?」


「開けたのは私だからです。ピッキングの練習をしていたので先生の部屋で試しました」


 明智は悪びれもせずに言った。


「犯人の気分ってやつを1度味わってみたかったのですが、存外面白くなかったですね」


 俺は頭を抱えた。

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