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7:最凶令嬢と呼ばれる理由

 ミルリィ・アヴァス辺境侯令嬢は、辺境の地において女神のような扱いをされている。西側諸国の血を引いている上に、性格はもちろんアヴァス家特有のものだし、アヴァス家特有の性質……つまり西側諸国の未知なる力も受け継いでいるからだ。つまり大人気である。祖母である前辺境侯当主よりも強い性質を持つ彼女には、ある程度の年齢を迎えた頃から、縁談もかなり有った。しかしながら、過去に起こった西側諸国と辺境侯の孫娘と王家との確執から、アヴァス辺境侯は彼女の縁談を断り続けていた。あの過去が有るからこそ、アヴァス辺境侯は見合い結婚ではなく恋愛結婚を推奨している。それが表向きの理由。


 しかし、本当の理由はミルリィ自身に有った。


「お祖母様。お父様、お母様にお話が有ります」


 彼女がそう切り出したのは、彼女が10歳になるかどうかの頃。既に祖母並みの力を持っていた彼女は、祖母・両親・兄弟姉妹どころか親戚にまで可愛がられていた。だが、彼女が大切な話をする、と決めた相手は祖母と両親の3人のみである。それは、知る人が居れば居る程、何となく面倒くさくなりそうだ、と彼女が判断したためであるが。


 そうしてミルリィに切り出された話に、3人は驚いたものの納得と共に受け入れた。


「私、異世界から魂がこの身体に移った転生者、と呼ばれる存在です。それと、実は生まれ変わる前も、私は人ならざる存在を祓っていました」


「というと?」


 ミルリィの話に、祖母が尋ねる。


「そのままの意味です。血筋とかじゃなくて、偶々視える人間で。代々祓う家柄とかじゃなくて。平民だったのですが、そういう目を持って生まれちゃったらしくて。偶にあちらの世界でも居たんです。血筋関係なく、偶々視える人。で、私は怖いのを克服するために……こちらで言う修練を行って。それで祓う力を手に入れました。生まれ変わってミルリィになっても、その力は有るようなので、誰かのためにこの力を使いたいと思います」


「修練を受けていたとは……」


 ミルリィの言う修練。祖母は感嘆したが、前世日本人のミルリィは、幽霊が視える事に酷く怯えて恐れていたので、見兼ねた両親が日本人なら誰もが知るような有名なお寺に彼女を頼み込み、そのお寺の僧侶がやはり視える人だったので、彼に付き従って祓う能力を手に入れたのである。こちらの世界では、教会に入っておよそ1ヶ月も只管に神に祈り続けるものである。その間、食べられるのは野菜を入れたスープのみ。後は喉を湿らせる程度の飲み物が与えられるだけ、という過酷なもの。


 前世日本人の彼女は、そこまでとは言わないがそれなりの修行をしていた。ただ、何故か僧侶である師のように経を読んで祓う能力ではなく、物理的に祓う能力になってしまったのだが。


 つまり。

 ーー幽霊を殴り付けて祓うのである。


 兎にも角にも、ミルリィの話を受け入れた3人は、だからといって彼女に対する態度を変えないし、他人に漏らす事はしなかった。それからというもの。祖母に付き従って、依頼が有れば(アヴァス辺境侯家がそういったモノに対処出来る家だと知っている人は少なからず居た)ミルリィがその拳を振るったのである。


 こうして、ミルリィが活躍する事が増えたある日。とある貴族家で物凄く厄介な生き霊と対峙する事になった。正直、1日くらいで何とかなるような一件ではなかった。とはいえ、年頃の令嬢が頻繁に他家に訪れるのは、ミルリィ自身にとっても、相手方の家にとっても、誠に遺憾な噂を立てられる可能性が高い。という事で。苦肉の策として生まれたのが、ミルリィとその家の令息との婚約である。


 厄介な生き霊というのは、かの令息に恋をして執着した令嬢のもので。相当入れ込んでいると言うべきか、一度、ミルリィが物理的手段を取ったにも関わらず、直ぐに戻って来たのである。これにはミルリィも言葉を失ったものだが気合いを入れ直して、何回も拳で祓った。こんな事をされていれば生き霊となった令嬢もただでは済まないのに、その生き霊は理解していない様子。


 そこでミルリィは拳で祓うだけでなく、語りかける事もした。


 ーーこのままではあなたは死んでしまう。死なずとも、一生寝たきりかもしれない。それでいいのか。そうなれば、この方だけでなく、誰とも結婚出来ないし、結婚どころか友達とも気軽に会えないし、家族も世話をしきれないと思うが、それでもいいのか?


 といった説得は、最初は聞く耳を持たなかった生き霊にも、ミルリィに祓われる事で段々と執着心が消えて行き。それと同時にミルリィの説得が生き霊に届いたのである。

 そうして、ある日突然、生き霊はやって来なくなった。念のため、1週間令息の家に通ったが、大丈夫そうだったので依頼は完了した。


 婚約は仮のものだから解消しても良かったのだが、本婚約を結びたい、とその令息と家とが希望したので本婚約を結ぶためにアヴァス辺境侯が直々にそちらの家へ赴こうとしていた矢先、やはり仮婚約を解消して欲しい、と撤回される事になった。理由は分からないものの、そもそもアヴァス辺境侯は恋愛結婚推奨派なので、深く考える事もなく了承した。


 その後、ミルリィは2回婚約を結んだが。仮婚約の理由は1回目と同じだったが……その2回共、本婚約を望んでいたはずなのに、結局相手方の急な心変わりで仮婚約は解消されている。そうこうしているうちに、ミルリィはすっかり行き遅れと呼ばれてしまう令嬢になっていた。


 ついでにいつの間にか、彼女は“最凶令嬢”と呼ばれるようになっていた。彼女が最凶だという噂が密やかに流れていた。誰が流したのか分からないが、“最凶”の理由をきちんと理解されないまま、特に適齢期の令息の間にその噂が流れた。


 ミルリィ本人も全く知らないうちに、令息の間での彼女は「行き遅れの最凶令嬢」という認識が出来、彼女を妻に、と望む者は尚更いなくなった。とはいえ、元々結婚にあまり興味なかったミルリィは、いつの間にかそんな噂が流れている事を知っても特に何も思わなかったので、噂は否定される事も無かった。


 ところで。

 ミルリィは知らなかったが、本婚約を望んでいたはずなのに、解消を求めて来た3つの家は……泣く泣く諦めるしか無かったのであった。ミルリィの人柄に令息本人も両親も気に入ったのだが、絶対権力者である王家に睨まれてまで、彼女と婚約を結ぶ事は出来なかった。


 これは、第三王子であるルロイが、3歳でミルリィに出会って一目惚れした事を受けて、親バカでもあり、不憫だった末の子の願いを叶えたくもあり……で、国王直々に裏から手を回して、ミルリィを諦めさせていた。彼女が婚約を解消されまくる行き遅れ令嬢と成り果てたのは、そんな裏話があった。


 そんなわけで、3歳からの初恋を拗らせまくっている第三王子、現在15歳が、8歳年上の行き遅れ令嬢と呼ばれるミルリィ・アヴァス辺境侯令嬢を諦めるわけが無いのである。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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