5:新人君と病弱殿下
「そもそも、我が王家に西側の諸国……国とは言えないが、此処は国としておくが、その諸国の貴族の血が入っているんだ。西側の諸国は、占術や呪術など人智を超えたものに頼って長く生活をして来ている。そんな諸国の貴族の令嬢とアヴァス辺境候の嫡男が遥か昔、恋に落ちて婚姻した。西側もアヴァス辺境候家も政略結婚とは関係なかったからな。その頃は西側もアヴァス辺境候を立てて、穏和だったが……。その辺境候の孫娘が西側諸国の貴族令息と婚姻する頃に、我が王家のとある王子が、偶々辺境候の孫娘を見初めてしまった。婚姻直前だったのに、無理やり孫娘を側妃にした。王子にも婚約者が居たし、孫娘も婚姻直前だったのにも関わらず。当然、貴族令息は激怒。その貴族令息が西側諸国をまとめ上げて我が王家に刃向かった。当時の国王は王として国を守らねばならず。本来ならばその首を差し出すべきなのだが、残念ながらその王子しか子がいなかったために、それは出来なかった。父としても国王としても。
我が子の仕出かした事は、人としては許せないが、王として親として許してしまったのだろうな。当時の国王は、秘密裏に西側諸国に揺さぶりをかけて同盟を崩した。その時に貴族令息は暗殺され、辺境候の孫娘は側妃として王子……後の国王に仕える事になった。そうして我が王家に西側諸国の血が混じった。
先程も言ったようにあちらは人智を超えたものに頼って生活している。その血が人ならざるモノを視る事もある。我が王家もそうだ。つまり、私にその血が現れた。そしてロクスと言ったな。お前も降嫁した王女の血を引く……つまり相当薄いが、西側諸国の血を引いている。だから人ならざるモノが視えたわけだ。
だが、それが視える事をあちこち触れ回られても困る。我が王家の失態を触れ回られるわけにはいかない。だから、お前は護衛を続けねばならない。ところでお前は、今まで視えていただろうに、怖いとか、身体に変調を来したとか、無かったのか? そして視える事を触れ回っていなかったのか?」
ルロイの話は王家の裏歴史というべきもので、もちろん聞かせたからには生涯国に仕えてもらう内容になる。……が、ロクスはその辺を理解しているのかどうかポカンと口を開けたまま、ルロイを見ていた。ルロイの最後の問いかけにようやく意識を取り戻す。
「あ、えと、小さな頃は怖かったし、熱を良く出してましたけど、今は全然平気です。家族は知ってます。家族は受け入れてくれましたけど、他の家族は見えなくて。信じてくれていただけです。ただ、見えない事を信じない人も居るから家族以外には話さないようにって言われて。さっき、あのミルリィさんって人が幽霊に……」
ロクスが話している最中にミルリィの名前を出した途端、ルロイの機嫌が最下降した。
「ミルちゃんの名前を気安く呼ぶな。アヴァス辺境候令嬢と言え」
再び冷気に包まれた部屋。ロクスは、ルロイの不機嫌に気付いて首肯した。
「あ、アヴァス辺境候令嬢が幽霊に殴りかかっているのを見て、それを殿下にお話するまで、誰にも話してないです!」
「そうか。では、引き続き黙っていろ」
「あのー」
それで終わり、とばかりに話を切り上げようとした矢先に、ロクスは空気を読まずにルロイに恐る恐る声をかける。イラついたが「なんだ」と問いかけた。
「アヴァス辺境候令嬢って、何者なんですか?」
この瞬間、ルロイはロクスを視線で人を殺せるんじゃないだろうか、と思えるくらい凶悪な目つきで見て切り捨てた。
「それは貴様が知る必要の無い事だ。ミルちゃんにも尋ねるな。お前は黙って護衛していれば良い」
ロクスは、背に冷や汗を這わせながら壊れたオモチャのように首を上下にカクカクと動かした。
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