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4:新人君の不運

 優雅にティーカップに口を付けるその姿は、まるで一幅の絵のようだ。ルロイ殿下はこの国の王子達の中でも最も美しい外見の持ち主だ、とも言われている。日の光を浴びると輝く金の髪は、国王陛下譲りでは有るが、父よりも輝いているとも言われ。顎が張り出ている父や王太子とは違い、母親譲りのほっそりした輪郭は、第二王子と兄弟なのが良く分かる。王太子殿下は、父王に顔立ちと髪色がそっくりなので父王と親子だ、と誰もが分かるのだが。ちなみに、目の色だけは母妃の紺碧を受け継いでいて、それで王妃殿下とも親子と分かる程に、王太子殿下は父王そっくりだった。

 尚、第二王子殿下と目の前にいる第三王子殿下は、顔立ちは母妃にそっくりであり、第二王子殿下は母妃譲りの金糸が混じった茶の髪色である。目の色が父王譲りの暗紫色。兄である第一王子にして王太子殿下と逆に両親の色を継いだわけだ。


 そしてかの第三王子殿下は、父王譲りの髪色と父王譲りの暗紫色の目。そして顔立ちが母妃譲りで、凛々しい王太子殿下・美貌の第二王子殿下・第三王子殿下と貴族の間では言われている。但し第二王子殿下の顔立ちは美貌でも体格は兄弟随一の筋肉質で。やや胸板に厚みの有る王太子殿下と全体的に母妃譲りで病弱な身体の所為か細身の第三王子殿下とは違い、ガッチリとした胸板……どころか腕や足も太い。筋肉で。噂に寄れば、第二王子殿下の衣装を手掛けるデザイナーとお針子は、ファッション界隈では尊敬の眼差しを浴びているとか、いないとか。


 それはさておき。

 この国を含めた近隣の国では女性方の憧れは、筋肉質よりも細身の男性である。王太子殿下はやや厚みの有る胸板では有っても多くの女性達の憧れの範囲内らしい。但し顔立ちが父王にそっくりで凛々しいものであるため、顔だけで見ると第二王子殿下と第三王子殿下の方が女性達は憧れる。そして、顔立ちも身体付きも世の女性達の憧れそのものであるのが、第三王子殿下……つまりルロイ殿下であるわけで。


 病弱で有る事を除けば、ルロイ殿下は理想そのものの王子殿下であった。そんなルロイ殿下は絵になるほどの美しさで茶を飲んでいるが、先輩護衛・ベルクは冷や汗ダラダラであった。ルロイ殿下が不機嫌なことこの上ない、と理解しているからだ。無表情に徹している侍女のレイラも内心は冷や汗ダラダラ。この場の雰囲気を理解していないのは新人護衛・ロクスである。当然、ルロイ殿下に見惚れているのもロクスだけだ。ベルクとレイラは見慣れた上に、その性格をこれでもか! という程理解しているので、見惚れることもない。


「それで?」


 お茶を悠々と一杯飲み干したルロイ殿下の声はーーその美貌に合う美声だが、周囲を氷漬けにしてしまいそうなくらい、冷たい。ここに来てようやくロクスは、ルロイ殿下の怒りを肌で感じていた。ーー理由は思いつかないが。


「あ、あの、殿下! 恐れながら申し上げます!」


「いいだろう」


「こ、この、ロクスは新人でして」


「知ってるよ」


 冷や汗ダラダラのベルクは、発言の許可を得て直ぐに説明を始めようとするが、にべもなくぶった斬られる。


(やはりお怒りだ!)


 ベルクは新人の行く末を案じつつ、不敬にならない程度に跪いて俯かせていた顔を上げる。


「で、ですので、先程の件は」


「なんでお咎めなしを願おうと思っている」


 ルロイ殿下の怒気にベルクは、ヒッと声を上げかけて飲み込んだ。


「いえ、お咎めなしだとは思っておりません。ただ、事情を知らない者ですので、そこをご配慮頂ければ、と」


「くだらん」


「恐れながら殿下」


 ベルクの懇願を一言で切って捨てるルロイ殿下に、レイラがそっと発言の許可を得る。


「なんだ」


「ここでベルク様の懇願を受け入れておきますと、ミルリィ様はきっと殿下の頭を撫でて下さいますが」


「ミルちゃんが?」


「ええ、間違いなく」


「分かった。ベルクの願い通り事情を知らぬ事を配慮してやろう」


 ベルクとレイラは内心で溜め息を吐き出した。当然安堵の。おそらくロクスは自分が命拾いしたことまでは解っていないだろうが、この状況に呑気に口を挟む程、空気が読めない男ではなかった。


「そうだな。ロクス、と言ったか」


「は、はい」


 ルロイ殿下に名を呼ばれて返答する。


「貴様がこの室内で見たことを全て口外しない、と約束するならば、私の護衛任務から外れることで許してやろう」


「み、見たことを全て口外しない、と約束出来なかった場合、は……」


 ロクスは最悪な場合の対応を尋ねる。


「聞きたいか?」


 その一言に、聞いてしまうとマズイ、事を本能で理解してロクスは首を左右に振って


「だ、第三王子殿下の室内に幽霊がいたことなど、絶対口外しませんっ!!!」


 と、誓いを立てた。だが、それを聞いたルロイ殿下の表情が無表情から劇的に変化し、驚きを表した。


「お前、アレが見えたのか⁉︎」


「へ? え、ええ」


「どう見えた⁉︎」


 驚くルロイ殿下に問われてロクスは首を捻りながらも答える。


「それは、その、どこかの家の令嬢らしき幽霊、でしたけど……」


 具体的に問われて一瞬だけ見た幽霊令嬢が金髪の緑色した目だと伝えれば、ルロイ殿下は


「はぁ……。本当に見えていたのか」


 と、嘆息しつつ


「そういう事ならば、致し方ないが、貴様はそのまま、だな」


「はぁ」


「今まで通り私に仕えろ」


「はぁ。……えっ。クビ、なんじゃ……」


「そうはいかなくなった。ロクス。貴様、家名は」


 なんだかよく分からないまま、ロクスは家名を答える。王族の護衛騎士とは、貴族出身の者が務めるものだ。それは法で決まっている。ロクスも子爵家とやや身分は低いものの、貴族だし(貴族教育がきちんと活きているかは別として)、先輩護衛であるベルクも伯爵家の身分だ。ちなみにロクスもベルクも次男。長男は家の跡取りと決まっているので、長男に何かある時以外は、次男以降は婿取り令嬢の家に入るか、成人と同時に平民となって自分で自分を養うか、だ。ロクスもベルクも将来平民になる事が決定していたため、幼い頃から働き先として騎士を目指していたのである。


 そして努力の甲斐あって騎士となり、運良く王族の護衛任務に就けた。王族の護衛任務の場合、成人して平民になる事が決定している次男以降の子息は特例として、家名をそのまま使えるし、身分もそのまま保証される。あくまでも身分と家名だけが許されているだけで、家の跡取りという重責から逃れられる代わりに家の権限等は使えない。


 要するに義務から解放されるが権利も当然使えないというものである。故に自分を養うのは自分のみ。要は身分と家名を実家から借りている平民である。無論、家名と身分に恥じるような仕出かし……傷を付けることは許されないが。同時に王族の護衛任務の騎士は、王族に認められる程の人物である、ということで縁談相手としては申し分ない、と家同士の政略結婚の駒にもなりうる、優良物件ということで親としても自慢出来るだろう。


「ふむ。子爵家の者か。しかし、我が王家と血筋は連ならないはずだが」


 ぶつぶつ言うルロイ殿下に若干怖さを抱きながらも、ロクスは答えた。


「私の祖母の実家は、何代か前の王女殿下が降嫁された家から妻を娶っておりますが」


 説明と共に祖母の実家の家名と、祖母の祖母の実家の家名を答えた。


「成る程、貴様は王家と縁戚か。では、先祖返りなのかもしれぬな」


 ルロイ殿下が溜め息を一つつくと、ロクスに説明を始めた。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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