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2:1ヶ月も耐えられなかった新人君。

 それから10日程経っただろうか。毎日毎日ガスッとか、バシッとか。ついでに「わらわらわらわらとどこから沸いて出るんだかっ。いや、分かってるけどさっ。もう、いい加減に諦めなさいっ! しつこいっ」という女性の暴言が聞こえて来て、新人騎士は顔色を変える日々を送る。


 先輩護衛騎士から聞かされたのは、令嬢の名前がミルリィ・アヴァス。第三王子殿下の婚約者、ということ。そこで新人騎士は思い出した事がある。第三王子殿下・ルロイ殿下は御年15歳でご病弱。本当に身体が弱くて幼い頃は月の半分はベッドから起き上がれない程だった、とか。


 そのご病弱殿下の婚約者が、何故か行き遅れと揶揄されているご令嬢だった、ということを。アヴァス家は西の辺境を治めている侯爵家。つまり辺境侯の家柄。古くからあの地を治めていられるのは、血気盛んだから、と言われている。というのも、国の西側は小さな……国とも呼べない、都市がいくつも在るのだが、どの都市も似たり寄ったりな大きさで常に小競り合いを続けている。だが、数十年に一度くらいは、目端の利く者が生まれるので、そのいくつもの都市をまとめ上げるカリスマ性の有る人間が生まれる。


 で。まとめ上げたなら、まとめ上げた後も力を注げば良いのに、何故かまとめ上げたら今度は我が国を攻めようと兵を挙げてくる。無論、アヴァス家は西の守りの要。そしてアヴァス家の人間は元よりアヴァス領の領民達も男女問わず血気盛ん。女性は家を守るのが基本だが、場合に寄っては戦の最前線である砦に炊き出しをしながら、男達のサポートをしまくる。銃の弾の補填やら弓矢の整備やら。また、時には果敢にも女性自ら弓矢を引いて戦う。


 何故なら、この場所を守るのは、自分達である。


 という自負が有るからだ。男だけが領地を守る? 戦う事は男だけの領分では無い。とばかりに女も戦う。これは平時では逆も然りで、家事は女だけの領分では無いとばかりに、炊事も洗濯も行う。それはそうで有る。戦の最前線である砦に、必ず女性が居るとは限らない。自分達で食糧を調達し調理せねばならない事も有るのだから。服だって、何日も同じ物を着ていたくないので、自分達で洗う。

 女達だって、最前線で男達が戦っているからと言っても領地内に敵が来ないとも限らない。そんな時、戦えなければ、食糧を強奪され女だからと乱暴され、子どもも殺されてしまう。そんな事など許さない、とばかりにアヴァス領の領民達はアヴァス家当主を筆頭に男女問わず血気盛んだった。


 ーーその、アヴァス家の娘が婚約者。


 そこに気付いた新人騎士は、配属されて3日目に先輩護衛騎士に尋ねていた。


「あのっ。もしや、病弱な第三王子殿下の事が気に入らないから、病弱を治す目的! とかで、ぼ、暴力に訴えている、とか……」


「あー。そういう勘違いね。それは無いよ。聞いているだけだと、殿下に暴力を振るっている婚約者に思えるかもしれないが、それはない。ミルリィ嬢は言葉遣いも男っぽいし、豪胆な性格だけど。ルロイ殿下の事は、あの方なりに大切にしているよ」


「で、では、この音は……」


「あー、うん。耐えられたら話す。もう一つ。今、言える事は……国王陛下も王妃殿下も王太子殿下も第二王子殿下も、この事はご存知で、きちんとご理解しておられるということ。だから、ミルリィ嬢がルロイ殿下を虐待している……という事は、無い」


 そう説明されてしまえば、納得出来なくても納得するしかないのだろうが。既に10日、この状況。何の説明も受けないまま、音と声だけを聞く日々に、新人護衛騎士は耐えられる自信が無く。


「先輩っ。何の説明も受けないまま、この状況では、耐えられませんっ。今直ぐに説明して下さるか、辞めさせて下さい!」


「辞めるのは止めないが、折角頑張ってこの護衛騎士の役をもらったんだろう? 違う部署に行けるように上司に頼んでやるよ」


「説明はしてくれないんですかっ!」


「いやだって、1ヶ月黙って耐えられたら話すって言っただろ? 耐えられないんだから説明しようもない。というか、1ヶ月耐えたって説明しても受け入れられるか解らない事だからなー」


 新人護衛騎士は、先輩護衛騎士の言っている事が殆ど理解出来ない。理解出来ないが、耐えようと思っても、もう耐えられそうもない。……という事で、部署異動しよう、と先輩護衛騎士は親切心で提案した……のだが。


 新人護衛騎士は、今まで(彼以前にも第三王子殿下の護衛担当になった新人が何人も居る。もちろん、誰も1ヶ月以内で耐えられなくなって部署異動している)の者達とは違って先輩護衛騎士も予測しなかった行動を取った。


 つまり。

 第三王子・ルロイの部屋を開けた、のである。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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