久しぶりの街並み
その店には中学の頃から通っていた。
学校にも家にも、その周辺にも居場所なく腹が空いてはその店に足を運んでいた。
中学卒業と同時に家を失くした俺は、祖母の家に行こうとしていたのに、祖母も共に家族のもとへと連れていかれその家も売却されていた。
親戚も居なかった俺は、行く先もなく歩いていて辿り着いたのがこの店であった。
残りわずかなお金を手に店に入り、面倒見のよい店主は俺に住み込みでのバイトをしてみないかと誘われたのだ。
その代わりその頭とピアスは外せと、という約束を取り付けられたが。
たどり着いたそこは記憶にある店と全く同じ店だった。
店主が自分で描いたという看板に、店の名前が書かれた暖簾。
店主が大事に乗っていた車がそこにはあった。
近付いてみると、ここのおすすめメニューである塩ラーメンの良い香りがし、思わずお腹が鳴る。
そういえば朝は水だけ飲んで出てきたし、お昼はまだ食べていない。
お腹が空くわけだ。
今日は前と違ってお金を持っていないので、あまり店の周りを彷徨いていても、店の利益にならないためその場を離れた。
お金、お金か、何処に財布があるのだろうと、ポケットに手を突っ込んでみるも見当たらない。
鞄も開けてみてもない。
昨日居た部屋にあるのだろうか。
あるとしたらそこしか考えられそうにない。
仕方ない、行ってみるかと見知らぬ男のいる家へと向かうこととした。
それから数時間、家の周りや懐かしい風景を見渡してからこの家に辿り着いたせいなのか、明るかった外がいつの間にか真っ暗になっていた。
時計を持ち歩いていないので今が何時なのか分からないが、結構かかってしまった気がする。
そうだ、来る途中に祖母の家にも行ってみたが、そこに祖母は居なかった。
あの時間だと、もしかしたら買い物に出ていたのかもしれない。
それか、もうあの家にはいないか。
あの家の表札に祖母の名前はなかったが同居している可能性も考えられる。
そんなことを考えながら階段を上がると、あの男の家の前に誰かが座り込んでいるのが見えた。
天然パーマにマスク姿の男。
どうやらあの男のようだ。
何故自分の家に入らず、外に座り込んでいるのだろうか。
恐る恐るそちらへ近付くと、足音で気が付いたのか男が顔をこちらへ向け目を見開き立ち上がった。
「やっと帰ってきた! 何時だと思ってるの?!」
ズカズカと近寄ってきたかと思えば両肩を掴まれる。
答えられずに視線をさ迷わせ、何処かに時計はないかと探してみると、男のつけていた腕時計に目をやった。
そこには夜の11時を指していた。
どうやら思い出に浸りすぎたらしい。
「未成年が1人で出歩く時間ではありません! あと少し帰ってこなかったら警察呼ぶところだった!」
何故こんなにも怒っているのか。
そういえば、こんな風にあの人も俺のことに対して怒っていたことがあった。
あれは確か俺の家族の話をしていたときだったか。
許せないと、俺よりも怒っていたように見えた。
そこから何かと世話を焼いてくれて助かりもしたが、巻き込みたくなくて遠ざけもした。
遠ざけたことも怒っていたっけ。
「聞いてるの?!」
大きく肩を揺さぶられ、我に帰る。
男は俺の様子にこれ以上怒っても仕方ないと思ったのか、盛大に溜め息を吐いて昨日と同様に腕を掴まれたまま家の中へと入れられた。
部屋の中は真っ暗で、電気をつけるとテーブルには何やら資料のようなものがたくさん置かれていた。
台所には朝と同じようにお皿に食事が乗せられている。
今日は肉じゃがだったようだ。
「もう、とりあえずお風呂入ってきなよ。 身体冷えてるみたいだから」
腕を解放され、風呂場へと連行された。