以前の家へ
思い入れがあるわけではない。
家族に会いたいわけでもない。
ただ、この時代にはまだあるはずのものがどうなっているのか気になるだけだ。
別にどうなってようが構わないのだが、気分的に落ち着かないのでやってきた。
あまり家に近付くと誰かしらに接触する可能性があるため、遠くから家の方を見てみると過去と変わらない家があった。
表札には【橘】と記載があり、その横に父と母、姉の名前のみが書かれている。
前の世界でもこれは一緒だったので特に気にならない。
これだけだはよく分からないなと近付いてみるも、全く変わらない風景が広がっているだけだ。
このまま付近をうろつく訳にも行かず、近くにある公園のブランコに座った。
家に帰らず、よくこのブランコで遊んだものだ。
結局家を見ても何も変わらないように見えた。
あの家も俺が中学を卒業してからは売りに出されてしまう。
この世界でもそうなのだろうか。
「家か…」
今日も俺はあの見知らぬ男の家へ行くのがこの世界での正しいことなのだろうか。
あそこが帰るべき場所なのか。
分からないことだらけだ。
そうだ、今のうちに住み込みでバイトをしていた場所に顔を出してみよう、と立ち上がる。
ここから歩くと約30分強かかるが、今後のためだと気を引き締めながら歩き出す。